INPS Japan/ IPS UN Bureau Reportオバマ大統領、核なき世界へ向けて国連の支援を求める

オバマ大統領、核なき世界へ向けて国連の支援を求める

【国連IPS=タリフ・ディーン】

9月24日、米国の大統領として歴史上初めて国連安全保障理事会(安保理)の議長席に座ったバラク・オバマ氏の主な動機は、「核兵器なき世界」という彼の野心的で長期の努力を要する目標を推し進める点にあった。 

国連でもっとも強力な機構である安保理は、15ヶ国の全会一致によって採択した決議で、核拡散の脅威への深い懸念と、拡散防止に向けた国際社会の行動の必要性を表明した。

 オバマ大統領は、次の12ヶ月が「この決議と、核兵器の拡散および使用の防止という我々の努力が成功するかどうかに関して、決定的に重要になるだろう。」と語り、明確な時限設定に踏み込んだ。同大統領は、国連安保理の会合に集まった各国首脳に対して、「本日、安保理は、すべての脆弱な核物質を4年以内に凍結するという世界的な目標を是認しました。」と宣言した。 

またオバマ大統領は、すべての国家を支援しつつこの目標に向かって突き進むことを目的とした首脳級会合を、来年4月に米国が開催することを確約した。 

オバマ大統領は、イランと北朝鮮を名指しして、核兵器開発計画を放棄するよう両国に求めたこれまでの国連安保理決議を「完全に遵守」するよう促した。またそれと同時に、「個別の国家を名指しすることが目的なのではない。すべての国が(核に関する)それぞれの責任を果たす権利を擁護するためのものなのです。」と語った。 

しかし、国連安保理会合での議論の雰囲気とは異なり、24日に採択された決議はイランも北朝鮮も名指ししなかった。これに関して、IPSの取材に応じたあるアジアの外交官は、「それはおそらく決議採択に中国とロシアの支持を得るためだったのでしょう。」と語った。国連安保理で拒否権を持つ両国は、従来からイランと北朝鮮を擁護する傾向にある。その主な理由は、核兵器保有国になるかもしれないイラン・北朝鮮に対して中国・ロシアが政治・経済・軍事の各面において利害関係があるからだ。上記の外交筋は、「もしイランと北朝鮮が決議で名指しされたなら、米国は全会一致の決議を得ることはできなかったのでしょう。」と語った。 

しかし、安保理会合では北朝鮮とイランを非難する声明も相次いだ。おそらく、決議自体において両国が名指されないことへの穴埋めだったのだろう。フランスのニコラ・サルコジ大統領は、「我々は現在2つの大きな核拡散の危機、すなわちイランと北朝鮮問題に直面しており、毎年状況は悪くなっている。世界が見つめる中、この2国の問題に取り組まずして、どうしてこのような会合を正当化できようか。」と、明確に不快感を表明した。 

英国のゴードン・ブラウン首相は、イランや北朝鮮などに厳しい制裁を課す一方で、核兵器開発を断念する用意のある非核保有国には民生用の原子力技術を提供するという内容を含む「核兵器に関する世界的な取り決め」を結ぶべきだと提案した。また同首相は、核兵器保有国に対しても、保有核弾頭数を削減する公約を行うよう求めた。 

5つの公式の核兵器保有国―国連安保理の5常任理事国でもある―は、米国、英国、フランス、中国、ロシアである。一方、核兵器保有国だと公式に認められていないのは、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮である(イランもその仲間入りをしつつある)(「公式に認められていない」とは、核不拡散条約(NPT)においてこれらの国が「核兵器保有国」のカテゴリーに入れられていないことを意味する:IPSJ) 

ニューヨークに本拠がある「核政策に関する法律家委員会(LCNP)」のジョン・バローズ事務局長はIPSの取材に応じ、「決議を先導した米国のスーザン・ライス国連大使は、決議が特定の国をターゲットにしたものにはならないことを明確にしました。しかし、ロシアや中国との決議策定はもっと早く行うことができたはずです。」と語った。同氏はまた、「私に言わせれば、特定の国を名指しするかどうかは的外れの議論です。決議はすべての国に適用される規範に関するものであり、核不拡散だけではなく核軍縮に関する決議であるべきものです。実際、ある程度まではそうなっています。」と語った。 

したがって、実際の決議は、特定の核拡散状況に焦点を当てたものになっていない。決議はまた、名指しを避けながら、両国が関連の国連安保理決議に従うべきことを明確にしている。「どうして、核軍縮の約束を果たしていない国が名指しされずに、イランと北朝鮮を名指しすべきだなどという議論を行うことができるのでしょう?」とバローズ氏は疑問を呈した。 

世界でもっとも有名な軍備管理・軍縮問題に関するシンクタンクであるストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のイアン・アンソニー研究主幹は、「今回の国連安保理決議は、今後長期にわたって複雑な問題に対処していく国際協力の枠組みを打ち立てたものです。」と評した。「この作業計画を国連安保理が実行する意思を示し続けられるかどうかが、他の国連加盟国が関連の措置において積極的な役割を果たすべきかどうかの一つの判断材料となるでしょう。今後、国連安保理にとっての主要な課題は、経済・金融・気候変動やその他の緊急を要する問題に関連して対処すべき優先順位をめぐる争いがある中で、今回の決議に盛り込まれた一連の措置を実行し続けられるか否かという点にあります。」とIPSの取材に対して語った。 

バローズ氏は、「決議はイランや北朝鮮を名指ししなかったものの、核不拡散という義務を遵守させるために国連安保理が一定の役割を果たしていくことを明確にしています。」と語った。 

しかし、決議は、核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)の交渉が進む間、核兵器保有国が同物質の生産を停止すべきだとの内容を盛りこまなかった。「どうやら、中国がいやがったようです。」とバローズ氏は言う。「南アジアにおいて核分裂性物質を生産停止にすることは、深刻な核軍拡競争を現実に止める効果があり、きわめて重要です。インドとパキスタンは、兵器用の核分裂性物質を現在製造している世界で唯一の国です(イスラエルが生産しているかもしれないが)。しかし、中国はおそらくそのオプションを手放したくないのでしょう。」とバローズ氏は付け加えた。 

SIPRIのアンソニー氏は、「すべての国家が誠実に合意を結んだのではなかったことが明らかになってしまえば、軍備管理が依っている基本原則への重大な打撃となります。」と語った。その原則とは、「それぞれの責任の下で、すべての当事者が自己抑制という合意されたルールを守る」ということだ。 

さらにアンソニー氏は、「テロで甚大な影響を与えることを狙った非国家主体による脅威は、軍備管理においてこれまで論じられてこなかったテーマでした。」と指摘した。同氏は、「軍備管理は、既存合意の遵守に対する信頼性を高め、テロで甚大な影響を与えることをねらった集団がもっとも危険な能力を得ることを阻止することによって、安全保障環境の変化に適用しようと努めてきました。」と語った。24日の国連安保理会合は、米国が多国間枠組みの中で責任あるリーダーシップをとろうと望んでいたことを示している。 

「これは、近年考え出されてきた新しい法的・政治的・技術的な道具立てを、公正かつ包括的、効果的に使うための最善の道です。そうした道具立ての多くは、国連安保理決議の前文に書かれています。」とアンソニー氏は付け加えた。 

オバマ大統領は、今年4月にプラハで行った歴史的な演説において、「核兵器なき世界」について語った。 

バローズ氏は、プラハ演説で語られたある点が今回の決議には欠けていると指摘した。すなわち、安全保障戦略における核兵器の役割の低減の問題である。また、軍備管理/軍縮に関する新しい手法や、その点に関する国連安保理の役割についても落とされている。 

例えば、核兵器保有国を巻き込んだ軍縮プロセスの開始についての言及がない。核不拡散・核軍縮問題についての下位機構設置の提案もない。核不拡散・核軍縮上の義務違反に対して効果的に対応するための国連安保理改革案も出されていない。さらに、軍縮に関する計画を提案するという、国連憲章に定められた安保理の責任を果たさせるためのステップも打ち出されていない。 

対照的に、核不拡散と反テロ措置については、ずいぶんと詳しく展開されている。 

まとめるならば、決議は、新核兵器保有国の登場やテロリストによる核兵器の取得を防止するための国連安保理の役割については強力な措置を打ち出しており、現在の強調点は、オバマ政権が既存の軍備管理問題の解決を追求する意図があるというメッセージに置かれている。 

「オバマ大統領がプラハ演説で打ち出した公約に見合うようにするには、決議は、核兵器の拡散を抑えこむだけではなく、既存の核兵器保有国が核兵器への依存をやめ、自らが核兵器ゼロに向けて削減していくプロセスを開始する野心的な努力に道筋をつける必要があります。」とバローズ氏は主張した。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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