【ワシントンIPS=ジム・ローブ】
米国のバラク・オバマ大統領は10月14日、約100人の軍事顧問団をウガンダをはじめとする周辺諸国に派遣し、「神の抵抗軍」(LRA)征伐の支援を行うことを発表した。
ホワイトハウスが公表したオバマ大統領が議会指導部に通告した書簡には、「今回の派遣人員は緊急の場合には戦闘に対応はできるが、その任務はあくまで、「神の抵抗軍」の指導者ジョセフ・コニーと幹部の排除を目的とする現地国軍パートナーに対する情報提供や助言に限られている。」「派遣部隊は、12日のウガンダ派遣を皮切りに、南スーダン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国に対して、それぞれの国々の承認を得た上で、派遣される。」と記されている。
LRAの指導者ジョセフ・コニーとその他4人の司令官は国際刑事裁判所によって2005年に戦争犯罪と「人道に対する罪」で起訴されており、人権団体はオバマ政権の方針を歓迎している。
1980年代末に北ウガンダに現れた「神の抵抗軍」は、ウガンダと近隣諸国において少なくとも30,000人を殺害し、約200万人の難民を生み出した元凶とされている。また、子どもを誘拐して強制的に自軍の兵士に編入したり、犠牲者の手足切断や、集団レイプを犯すなど、その残虐さで悪名が轟いている。
「軍事顧問を配置することで、オバマ大統領は、関係諸国が「神の抵抗軍」による大虐殺に最終的に終止符を打てるよう、決定的なリーダーシップを発揮しているのです。彼らは赴任地において、民間人の保護や『神の抵抗軍』指導部の捕獲作戦の向上など、従来とは異なる前向きな変化をもたらすことができるのです。」と紛争解決に取り組む団体「Resolve」のポール・ローナン代表は語った。
今回の決定は、オバマ政権内で「人道的介入」を唱道してきた人々、とりわけ国家安全保障会議メンバーで大統領上級顧問のサマンサ・パワー氏やスーザン・ライス国連大使にとって再度の勝利となったようだ。彼女たちにとっての前回の勝利は、3月における米国及び北大西洋条約機構(NATO)によるリビア情勢介入の決定であった。
当時、国連安全保障理事会はムアンマール・カダフィ政権の軍及び治安部隊から民間人を保護するためにリビアに「飛行禁止区域」を設定することを承認した。しかし米国及びNATO同盟諸国はこの安保理決議を拡大解釈し、米軍及びNATO派遣軍は事実上、反乱勢力を支える空軍部門として機能し、反乱勢力がリビアのほぼ全域を掌握するうえで大きな役割を果たしている。
特殊部隊を中心として派遣される今回の軍事顧問団の規模はリビア派遣部隊と比較するとかなり小規模である。リビア情勢への介入の場合(オバマ大統領は議会と協議せず中南米訪問中に米軍の攻撃を命じた)と異なり、今回の軍事顧問団の派遣は、2009年のLRA非武装・北ウガンダ再建法案(2010年5月に民主共和両党の圧倒的支持を得て法制化)を根拠とするもので、米議会は「LRAからの民間人の保護、ジョセフ・コニーおよびLRA幹部の逮捕或いは排除、残存LRA勢力の武装解除」を目指すオバマ政権に対する支持を表明している。
LRA非武装・北ウガンダ再建法案の起案者の一人である共和党のジェームズ・インホーフェ上院議員は、「私はLRAがもたらした惨状をこの目で見てきました。私は米軍がLRA問題を重視しこの法の規定に基づいて行動をおこしていることを称賛します。軍事顧問団派遣は、最終的には現地の子ども達や一般民衆をジョセフ・コニーの恐怖支配から保護し、アフリカの人権危機をもたらしたコニーの忌まわしい行為に終止符を打つ助けとなるでしょう。」と語った。
オバマ政権とその前のジョージ・W・ブッシュ政権は、LRA制圧に取り組むウガンダに対して、「非戦闘的」(non-lethal)で兵站的な支援のみを行ってきた。LRAのコニーが2008年に二度にわたって和平協定を拒んだ際には、援助が増やされた。2008年以来、米国は、LRAと戦闘する地域の軍隊に4000万ドルの軍事援助を提供してきた。
2008年12月、ウガンダ、コンゴ民主共和国、南部スーダンの軍は、新たに創設された米国アフリカ軍(AfriCom)からの諜報・兵站支援を得た合同軍事掃討作戦「Operation Lightning Thunder(稲妻作戦)」を発動しコニーとLRA残党の捕捉を試みた。
しかしこの軍事作戦はコニーをはじめとするLRAメンバーの多くを取り逃がしてしまい失敗に終わった。LRAは報復として12月下旬にコンゴ民主共和国と南部スーダンで無抵抗の村人を襲撃し1000人近くを殺害、人権擁護団体によると、この報復作戦で最大180万人の地域住民が故郷を追われた。
また米国政府は、LRA非武装・北ウガンダ再建法に基づき、LRAの被害を受けている地域に対して相当額(国務省によると2011年だけでも1800万ドルを超える)の人道支援を実施している。
オバマ大統領は議会指導部への通告した書簡の中で、LRAを掃討する試みは未だ成功していないと述べている。LRAの戦闘員数は大きく後退したものの依然として300~400だとみられている。専門家は掃討作戦の失敗の原因として、諜報活動の不十分さ、各国軍間の調整不足、そして同地域で最も有力視されているウガンダ軍の多くが掃討作戦から撤退した要因を挙げている。
「LRA掃討作戦に欠けている要因は、ジョセフ・コニー逮捕と市民の保護に専念できる有能な兵士の不足であり、こうした各国部隊の活動を成功に導く米国からの諜報及び兵站面の支援でした。今回の派遣される米軍顧問団は、こうした多国間戦略の一部として、全体の作戦を進展させるうえで触媒的な役割がはたせるでしょう。」と、東アフリカ及びアフリカの角地域における虐殺防止に取り組む人権団体「イナフプロジェクト」の共同創設者ジョン・プレンダーガスト氏は語った。
「米国政府は、米軍顧問団の配置と並行してパートナーとなる地域の各国政府、とりわけコンゴ民主共和国とウガンダ間の対立を解消し相互に協力する方向にもっていくよう外交努力を強めていくことが極めて重要です。」とローナン代表は語った。
今回の軍事懇談派遣は、いくつかの点で、9.11同時多発テロ直後に米国がフィリピン南部のゲリラ組織「アブサヤフ」を掃討するために特殊部隊からなる軍事顧問団を派遣したミッションと似通っている。ブッシュ政権は、アブサヤフをアルカイダと関係したテロ組織とみなしていた。
当時軍事顧問団のフィリピン派遣は、米国が1991年にクラーク海軍基地を閉鎖して以来、初めての兵力配置であったが、ミッションは20年後の今日まで継続している。これにもかかわらず、米政府はこのミッションをとおしてフィリピン政府との軍事的つながりを深めてきており、ミッションを高く評価している。
オバマ政権の報道官は、10月14日に開催した記者会見において、今回の東アフリカにおける作戦は数ヶ月以上続くことはないだろう語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩