【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】
カラフトシシャモの調査を5回にわたって行ったアイスランドの海洋・淡水研究所(IMFRI)は、地球温暖化がカラフトシシャモ減少の原因であるとして、2019年に関しては漁獲割り当てを勧告しないことを決めた。
同研究所のトルスタイン・シグルドソン遠洋部長は、「カラフトシシャモは冷水魚であり、1~3度の海水温を好みます。」と指摘したうえで、「今世紀初めごろからアイスランド北方海域における海水温の上昇に伴い、カラフトシシャモの分布に変化が生じ始めました。アイスランドの北海岸や西部フィヨルド沖に代わって、グリーンランドの東海岸沖でもっぱら見つかるようになりました。」と語った。
「1990年代末から起こっている環境の変化のせいにするのは容易なことです。考えられることは、環境の変化がカラフトシシャモの繁殖にマイナスの影響を及ぼし、その結果近年の漁獲量が、1980年代から90年代と比べて大幅に下回る事態になった可能性があります。」とシグルドソン遠洋部長は説明した。
この20年ほど「アイスランド周辺の海水温はかなり上昇してきました。」とIMFRIのオラフル・S・アストールソン博士は語った。アストールソン博士は、気候変動がアイスランドに及ぼす影響に関する包括的な研究の一環として、海洋生態系に関する章をとりまとめた責任者である。
アストールソン博士は、「確かに、2015年以降、海水温はわずかに下降しています。しかし、2000年以前のレベルよりは依然として高い」と指摘したうえで、「アイスランド周辺などの表層の海水温は、年によって、また長期的にも変動があります。現在の海水温の下降が1年限りのものなのか、それとも、より寒い時期の到来を意味するのかは、わかりません。」と語った。
カラフトシシャモは大群で移動するが、見つけるのが困難なことがある。にもかかわらず、2009~11年と2014年を例外として、この小さな遠洋魚は、タラに続いて収入をもたらす輸出品として重要な地位を占めてきた。ロビイスト集団「アイスランドの漁民たち」のエコノミストであるフレドリック・トール・ギュナールソン氏は、アイスランド統計局による数値を用いながら、海産物輸出による収入のうち、カラフトシシャモは常時6~12%を占めてきたと語った。
フィヤルザビッグズ市は、アイスランドの2018年のカラフトシシャモの水揚げ・加工の47%を占めた。さまざまな規模の7つの村々を構成する村のうち、もっとも重要な漁村は、ネスカウプスタドゥール、エスキフィヨルドゥール、ファスクルヅフィヨルドゥールの3村である。これらの村にはそれぞれ、カラフトシシャモを凍結したり、加工したり油をとったり、寿司の飾りとして使われる「まさご」として知られる黄色の魚卵を取り除いたりする会社が少なくとも1つはある。
これらの村々では、1月から3月にかけた生活はカラフトシシャモが中心となり、従業員は24時間体制で働く。しかし、海水温上昇が及ぼす影響としてカラフトシシャモの不足という事態は、フィヤルダビグド市の将来に暗い影を落としている。「2019年のフィヤルダビグドの賃金収入は前年と比べて5%減、額にして12億5000万アイスランドクローナ(940万ユーロ)まで落ち込むでしょう。」と同市雇用開発局のヴァルゲール・イージール・インゴルフソン氏は語った。
「漁業部門の従業員の賃金は、カラフトシシャモのシーズンが変動したことにより、前年比で13%減。輸出が地域にもたらす収入の減少は100億アイスランドクローナ(7億5130万ユーロ)。また、地元の漁業に直接関係のある企業の売上高は、6億アイスランドクローナ(450万ユーロ)にまで減少するだろう。」
さらに、「不況はフィヤルザビッグズ市の他の産業にも波及し」、やがて、企業や住民の投資やメンテナンス、その他のサービス購入に対する姿勢や、不動産市場にも影響を及ぼすことになるだろう。「市と港湾当局の2019年度の収入は、昨年度と比べて2.6億アイスランドクローナ(195万ユーロ)減ることになろう。」とインゴルフソン氏は語った。
「つまり、現在提案されている市のさまざまな開発プロジェクトは、予算不足のために延期を余儀なくされるだろう。」とインゴルフソン氏は指摘した。
問題は、今年だけに留まらないであろう。シグルドソン氏は、アイスランド沖で産卵する他の魚と異なり、カラフトシシャモは産卵直後に死ぬと指摘する。「カラフトシシャモの9割が3才の時に、1割が4才の時に産卵する。つまり、産卵時期にあるカラフトシシャモの大部分が、わずか1年の間に集中していることになる。ある年齢集団の産卵や孵化の規模がある年に小さくなると、3年後に孵化する集団が小さくなる。近年もそうした例が出てきており、資源の減少につながっている。」
シグルドソン氏は、今世紀に入ってから、シシャモ資源の状態がよかったことはほぼなく、漁獲量にそれが現れていると語る。「この5年間の漁獲高平均の30万トンは、1980年から2000年にかけての3分の1以下に過ぎない。1996年には最大で160万トンが獲れていた。」
また、アイスランド周辺ではこのところ海洋の酸性化が進んでおり、それが海の動物相に影響を及ぼしていることが考えられるという。エビのような甲殻類への影響に関して、先述の気候変動研究で海洋の酸性化に関する章を担当したアイスランド大学のヨン・オルフソン名誉教授は、「いや、その点に関してはほとんど研究がなされていません。甲殻、あるいは、炭化カルシウムを作る海洋生物に一般的な影響はあるかもしれませんが、個々の種に関しては言及していないのです。」と語った。
IMFRIのノルウェー・ロブスターに関する専門家ヨナス・ヨナソン氏は、資源量は2016年から2割減少していると推定され、「2005年以降、加入尾数は減っている」と語った。この傾向が反転しない限り「今後数年でノルウェー・ロブスターの資源量はさらに減ることになる。」加入尾数とは、5才のロブスターの数を指す。なぜなら、この年齢のロブスターがもっとも多く捕獲されるからだ。
しかし、これに関する海水酸性化の影響については、「ノルウェー・ロブスターの減少が、海洋の酸性化と直接結びつくとは考えていません。」とヨナソン氏は語った。
オラフソン氏と同じく、ヨナソン氏はこの領域に関する知見の少なさを指摘して、「将来的に酸性化が進むと、海洋生物の生理にどのような影響があるのかについては、ほとんど知られていません。この部分に関しては、ようやく研究が緒に就いたばかりであるというのが現実でしょう。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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