【バルセロナIDN=バドリヤ・カーン】
「世界には武器があふれており、他方では飢餓が蔓延している。」これは何も新しいスローガンではない。これは、世界が年間1兆ドル以上を武器に費やす一方で、10億人以上が腹をすかせているという証明済の事実を述べたものだ。
最新の数字を見る限り、今日の世界では軍縮を進める10億の正当な理由がある。しかし現状を変革できるチャンスは、あったとしても限りなくゼロに近いものだ。
なぜなら、武器取引という商売が、あまりにも莫大な利益を生む、そして政府や道理をも超越した強大な政治力を持った産業だからである。
ここにいくつかの具体的な事例を紹介しよう。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が今年4月に発表したところによれば、世界の軍事企業トップ100社による2008年の武器売り上げは(前年比で)390億ドル増加して、3850億ドルに達したことが明らかになった。
米国企業が依然としてリストの上位を占めているが、今回はじめて、非米国企業であるBAEシステムズ(英国)がトップの座に躍り出た。
「引き続き、アフガニスタンとイラクにおける戦闘が、装甲車両、無人航空機、ヘリコプター等の軍装備売り上げに大きく貢献している。」とSIPRI報告書は説明している。
軍事企業トップ100社のうち、45社が北米企業(1社を除きすべて米国)で売上高は全体の60%を占めている。以下、34社が西欧企業(売上高32%)、7社がロシア企業(売上高3%)、それに、日本、イスラエル、インド、韓国、シンガポールの企業が続いている。
欧米先進諸国の実態
これは世界の武器取引の実に95%が、民主主義、自由、人権の擁護者を自認する米国及び西欧諸国によって行われていることを示している。まさにこれらの国々こそが、いわゆる「自由のための戦争」をとおして、自由の擁護者たる自らの価値モデルを、組織的に世界に押しつけてきたのである。
さらに事例を紹介する:装甲車両を製造している米企業ナヴィスター(Navistar)社の売上高は1年で960%増加した。
ロシア企業Almaz-Antei 社は、2008年に初めてトップ20入りした。
軍事企業トップ100社のうち、前年より売上げを落としたのはわずかに6社に過ぎず、一方で年間売上を10億ドル以上伸ばした企業が13社、また、売上高を30%以上伸ばした企業は23社にのぼった。
SIPRIによると、こうした軍事企業の売上が伸びた要因には、アフガニスタン、イラクの戦場に要する軍事装備・物資の調達需要に加えて、軍事トレーニングサービス関連の売り上げが世界的に伸びたこと等が挙げられる。
一方、国連はより驚くべき数字を発表していている。すなわち世界全体で武器購入に費やされる予算が年間1兆ドルを大幅に超えており、さらに増大傾向にあるというのである。
軍縮
この数値は、国連の潘基文事務総長が4月19日に開催された軍縮に関する国連総会の会合において明らかにしたものである。
「世界には武器があふれており、他方では飢餓が蔓延しています。」と、潘事務総長は軍縮と安全保障に関する討議に先立って、国連総会の出席者に語りかけた。
「優先順位を変えるべきです。軍縮を進めることにより、私たちは(軍事予算から)解放された資金を、気候変動対策や、食の安全保障への取り組み、さらにはミレニアム開発目標の達成のために活用することが可能になるのです。」と、潘事務総長は語った。
また潘事務総長は、大量破壊兵器のみならず、通常兵器を規制していくことの重要性を強調した。「小型武器が誤った人々の手に堕ちれば、多くの命が失われ、平和への努力は阻害され、人道支援は妨害を受け、麻薬などの不正取引が蔓延り、投資や開発が滞ることになるのです。」と、潘事務総長は語った。
国連総会のアリ・トレキ議長は、5月の核不拡散条約(NPT)の運用検討会議を成功させ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効に向けた具体的な手順を踏んでいけるよう、加盟各国に協力を求めた。
またトレキ議長は、「(核問題にのみならず)国際社会は、小型武器を含む通常兵器の生産、使用、輸出入についても、真剣に取り組んでいくことが極めて重要です。」と述べ、生物化学兵器拡散の脅威にも取組んでいく必要性を強調した。
日常の脅威
トレキ議長によれば、一方で、核兵器は実に悲惨な効果を伴なったとはいえ人類史上二度(広島・長崎への原爆投下)しか使用されていない。しかし、通常兵器は日常的に世界各地で紛争に火を注いでおり、国際社会の平和と安全保障に対する深刻な脅威となっている。
トレキ議長は、「さらに(核戦力とは異なり)通常戦力では力の不均衡が即、『脅威認識と軍拡競争』に結びつき、地域・国際間の平和と安全保障を脅かす問題へと発展するのです。」と警告した。
一方、潘事務総長は、4月13日から14日にかけてワシントンで開催された核安全保障サミットの成果を踏まえて、テロリストの核関連物質入手を阻止する努力を具体化することを目的とした、一連のハイレベル会合の開催を提案した。
国連総会は5年前に、「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロリズム防止条約)」を採択しているが、今日までに批准した国は、国連加盟国の3分の1にあたる65カ国にすぎない。
潘事務総長は、「これは全く満足できる状況ではありません。」と述べ、全ての核分裂性物質の備蓄状況を正確に管理する透明性のある管理体制と、その生産を抑制する信頼できる国際的な仕組みを作る必要性を強調した。
また潘事務総長は、「検証可能で法的拘束力がある核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約が発効しない限り、どのような努力も中途半端な結果に終わってしまいます。」と述べ、ジュネーブ軍縮会議が一刻も早くカットオフ条約締結に向けた協議を開始するよう繰り返し強く要請してきたことを指摘した。
犠牲者は増加し続ける
大量破壊兵器の絶え間ない脅威から世界を開放すべきだとする様々な呼びかけがなされている一方で、そうした兵器の大半が米国及び西欧諸国によって絶え間なく日々生産・販売されている現実は、意図的に無視されている。
例えばこの現実が意味することは、世界が武器購入に費やす年間1兆ドルの資金があれば、気候変動に伴う災害から十分地球を救えるということである。
また、人類の6人に1人にあたる10億2百万人が恒常的に飢餓に苦しんでおり、一人当たり1.5ドルの支援を1週間継続するだけで、地球上から飢餓を根絶できることも明らかにされている。
飢えている10億の人々救うのには、年間440億ドルしかかからない。この金額は毎年軍需産業に費やされている1兆ドルからしてみれば、ごく僅かな金額である。(原文へ)
翻訳=IPS Japan戸田千鶴
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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