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│カンボジア│ホームレスのためのひとつの解決策

【プノンペンIPS=シンバ・シャニ・カマリア・ルソー】

サムリン・チェイ(22)さんは、4歳の時に両親が亡くなって以来、プノンペンの王宮近くを流れる川沿いでストリート・チルドレンとして生活していた。ある日、「ミトゥ・サムラン(Mith Samlanh)」のソーシャルワーカーに出会うまでは。

「ミトゥ・サムラン(クメール語で「友人」という意味)」は1994年に設立されたNGOで、独自の斬新な方法で、路上生活を余儀なくされている若者の(家族、学校、職場、カンボジア文化等への)社会復帰と自立を支援する活動を行っている。

この団体には「ロムデン」と「フレンズ」という2つの研修レストランがあり、保護されたストリート・チルドレンは、ここで料理人として(「ロムデン」では主にカンボジア料理、「フレンズ」では主にアジア・西洋料理)の訓練を受けることができる。これらの研修レストランのユニークな点は、子どもたちの自立支援という側面に加えて、現代版及び伝統的なカンボジア料理を提供する名物レストランとして、地元カンボジアのみならず国際的にも高い評価を獲得していることである。

サムリンさんがこのNGOに出会って研修レストランで働き始めたのは15才の時だった。彼はこれによって自分の住み家と将来を手に入れたのである。「(研修レストランでは)クメールの伝統料理をはじめ、接客のノウハウやサービス産業について学びました。またその間、宿泊先も提供されました。」とサムリンさんはIPSの取材に対して語った。

3年間の訓練の後、サムリンさんは新たに同研修レストランの講師として働かないかと持ちかけられた。サムリンさんは、元ストリート・チルドレンとして、かつての自分と同じような境遇の子どもたちを手助けできる機会を得られたと感じている。

「子どもたちにとって、ストリートの生活は過酷です。食べ物が十分得られないし、自分の身を守れる保証もどこにもありません。多くが麻薬常習者になっていきますが、この世の中に私たちの将来を気に掛ける人なんてどこにもいないように思えるのです。」

「ここでは、ストリートに暮らしていた生徒たちに自分自身の経験を話すことで、彼らにも諦めないで頑張れば道は開けてくるという自信を着けさせることができるので、この仕事に大いに満足しています。」

カンボジアでは総人口1500万人のうち、44.3%が18歳未満の青少年である。公的統計によれば、カンボジア国民の35%が貧困線(1日45セント)以下の暮らしを余儀なくされている。また国際連合児童基金(ユニセフ)によると、1~2万人の子どもがプノンペンの街頭で働いているという。

14歳からプノンペンの街頭で働いてきたボファ(17)さんも、そうした子どもの一人である。ボファさんは、両親にとって路上のケーキ販売による収入だけで8人家族を養うのは困難だった、と振り返る。

「十分な食料を買うだけの売り上げがなかったり、学校にも通わせてもらえない時期もあり、辛かったです。」「状況が変わったのは、『ミトゥ・サムラン』のソーシャルワーカーが街頭の私たちに声をかけ、食料を提供してくれるようになってからです。彼らは、私にコンピューター技能や伝統料理を作る技術の習得に興味があるか尋ねてきました。当初、自分が家族から離れれば、ケーキ売りを手伝えなくなるので家族が困るのではと思い躊躇しました。」とボファさんはIPSの取材に対して語った。その後、ボファさんは支援を受け入れた。

カンボジアの就労状況は極めて厳しい。毎年労働市場に新たに流入してくる40万人の若者を吸収できるだけの経済力が国にないのだ。その結果、労働省の統計によると、国内で仕事を見つけることができない基礎教育や職業訓練経験がない20~30万人の若者が、単純労働を求めて毎年国外に流出している。

「ストリート・チルドレンは、教育を受ける権利を失っているのが現状です。」「そこで、3から14歳までの子どもに対しては、公立学校への編入が容易になるように非公式教育を提供しています。一方、15~24歳の青少年は就学よりも就職に関心を示す傾向にあるので、私たちの研修センターにおいて職業訓練を提供しています。」とフレンズレストランの広報担当メンホーン・ゴさんは語った。

「訓練プログラムでは、子どもたちにクメール人として母国の文化に誇りを持つとともに、自信を着けさせることを主眼にしています。つまり、研修生たちは自尊心とともに公衆衛生管理や接客の技術を体得していくのです。そして研修を終了した者に対しては、職探しの支援を行っています。」

こうした膨大な数の若者が深刻な問題に直面している現実に、カンボジア政界もようやく注意を向けざるを得ない状況が生まれてきている。

今日カンボジアの有権者の約半数は25才以下であり、先月行われた総選挙では、若者の雇用促進を訴えた、野党カンボジア救援党(CNRPが大きく躍進した。

他方で、フン・セン首相率いる与党は22議席を減らしており、生活の質が向上しないことへの若者の怒りが表れたものと、広く見られている。

「家族に楽をさせるのが私の夢です。そのためには、いつの日か自分の家を持ち、起業してクメール料理を世界の人々に紹介できるようになりたいと考えています。」とボファさんは語った。

「私は『ミトゥ・サムラン』に来て以来、自分の将来について、より積極的に考えられるようになりました。というのは、ここで職業訓練を受けることができたお蔭で、今や、自分の夢を実現する技術をまもなく身に付けることができるからです。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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