【ブリスベンIPS=キャサリン・ウィルソン】
南太平洋のトケラウ諸島(ニュージーランド領)では、化石燃料から太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーへの大胆な転換政策が実施され、国際社会に対して、持続可能な開発政策として成し遂げられる新たな基準が示されている。
トケラウ諸島は3つの環礁(アタフ島・ヌクノノ島・ファカオフォ島)から成っており、人口は1411人である。また、標高はいずれも海抜3メートルから5メートルで、総面積は12平方キロである。
「地球市民としての私たちのコミットメントは、気候変動の影響緩和に向けて貢献していくことです。私たちは今回の成果(再生エネルギー150%)を誇りに思っていますし、他の太平洋島嶼国の国々も同様の政策をとるよう、励ましていきたいと思います。」と、トケラウ連絡事務所(サモア)のジュビリシ・スベイナカマ部長は語った。
これまでトケラウ諸島では、エネルギー源の多くを化石燃料の輸入に頼っており、年間コストは81万9500ドルにも及んでいた。
2004年、トケラウ政府は、再生可能エネルギーを中心に、省エネとエネルギー自給のための戦略を策定した。
そして今年、ニュージーランド政府の経済援助を受けて実施に移された世界最大の太陽光発電を用いた独立電源システムを擁する「トケラウ再生可能エネルギープロジェクト」がようやく実現の運びとなった。
この3ヶ月の間に、アタフ、ヌクノヌ、ファカオフォの3つの環礁に、4032枚の太陽光発電モジュール、392機のインバータ、および1344機のバッテリーが設置された。また、悪天候に備えて設置された発電機の燃料には、トケラウ諸島内で生産されるココナッツバイオ燃料が用いられる予定である。
システムの導入を担当したニュージーランドのパワースマート社は、公式発表の中で、「当初の入札仕様では、トケラウの電力需要90%をカバーする太陽光発電システムが求められていましたが、実際に設置されたシステムの発電能力は、従来の電力需要の150%を生成する能力を有しており、その結果、トケラウ諸島の住民は、ディーゼル燃料の消費を増やすことなく、電力使用量を上げることが可能になりました。」と述べた。
スヴェイナカマ部長は、「燃料の節約で浮いた費用は、開発の重点分野である医療や教育分野への投資、及び、本プロジェクト実施のためにこれまでの受けてきた借金の返済に充当していきます。」と説明した。
太平洋島嶼地域で再生可能エネルギー利用のポテンシャルが高いのは、トケラウ諸島だけではない。全ての島嶼国において、太陽光は非常に強く、フィジー、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツでは、太陽光の他に、風力、水力、地熱にも大きな可能性がある。
またこの地域には、クリーン開発への移行を加速化せざるを得ない、経済的、社会的に逼迫した事情がある。これらの島嶼国は、温室効果ガスの総排出量が世界全体の1%未満に過ぎないにも関わらず、気候変動が及ぼす厳しい悪影響に晒されている。多くの農村人口、とりわけ、最も人口が集中しこれ以上の送電システムの拡張が望めないメラネシア地域の農村人口は、十分な保健、輸送、教育サービスが届かない最も不利な状況に置かれている。
太平洋諸国における電化率は、サモアの98%からパプアニューギニアのように13%まで様々であるが、平均すると約1000万の域内人口の内、電力を利用できているのは僅かに30%にとどまっている。こうした中、化石燃料への依存からいかに脱却していけるかが、域内各国にとって重要な課題となっている。
南太平洋大学(フィジー)で物理学を教えているアニルダ・シン助教授は、IPSの取材に対して、「太平洋島嶼国は、主に国内の電力及び輸送需要を賄うために、化石燃料を輸入し続けなければならない深刻な問題を抱えています。これは少数の島民が各地に孤立し散らばって定住しているためです。化石燃料の輸入にかかる費用は莫大なものになっているため、エネルギー源の転換をいかに図るかということが、各国にとっての最重要課題となっているのです。」と語った。
エネルギー供給のための対外依存も大きい。石油が総輸入に占める割合は、フィジーで32%、トンガで23%にのぼるなどエネルギー供給のための体外依存度が髙い。事実、フィジー、バヌアツ、ソロモン諸島は、世界でも石油の価格変動に最も影響を受ける国となっている。さらに、二次離島の場合、輸送コストが20%から40%増になることも大きな負担となっている。
持続可能なエネルギーに関する国際会議が、今年5月にバルバドスで開催された際、小島嶼開発途上国の閣僚らは、いくつかの太平洋島嶼国による野心的な再生可能エネルギー目標を組み込んだ「バルバドス宣言」を採択した。
例えば、フィジーは2013年までに、また、クック諸島、ニウエ、ツバルは2020年までに。再生可能エネルギー100%を目指している。現在フィジーは、一次エネルギーの33.6%、電気の58.9%を再生可能エネルギー源に依っているが、クック諸島の場合、一次エネルギーで1.6%、電気で0.3%を再生可能エネルギーに依存しているに過ぎない。またソロモン諸島とミクロネシア連邦はそれぞれ2015年と2020年までに再生可能エネルギーで電力需要を賄うようにするという目標を発表している。
シドニーに本拠を置く太平洋諸島再生可能エネルギー産業協会(SEIAPI)のジェフ・ステープルトン氏は、「クック諸島は、2018年までに再生可能エネルギーの80%を達成できると自信を持っている。」と語った。
一方この地域の国々は、再生可能エネルギープロジェクトの導入に際して、インフラの未発達、脆弱な組織運営能力、財政不足など様々な共通の問題を抱えている。
ステープルトン氏はこの点について、「(再生可能エネルギー導入に際して)本当に難しい側面は、遠方の島々にいかに機材を運ぶかという点です。輸送コストは高く、運航が不安定なため、施設設置やその維持、修理に問題を引き起こすことになるのです。」と語った。
シン助教授は、この地域の人材の知識面における能力開発にも取り組まなければならないと指摘した。南太平洋大学は、小島嶼開発再生可能エネルギー知識・技術移転ネットワーク(DIRECT)のパートナー組織である。DIRECTは、ドイツ、フィジー、モーリシャス、トリニダード・トバゴの大学が共同して立ち上げったネットワークで、アフリカ・カリブ地域・太平洋地域の小島嶼開発途上国における科学的専門知識の向上に取り組んでいる。
また最近のイニシアチブの事例として、日本政府が6600万ドルを拠出し、太平洋諸島フォーラムが運営する太平洋環境共同体基金(PEC)がある。ここ一年で、フォーラム加盟国は、PECを活用して(最高4000万ドルまで利用可能)太陽光エネルギープロジェクトや農村部の電化事業を実施することができた。
ソロモン諸島では、PEC資金を活用したプロジェクトを通じて、1万人以上が新たに電化の恩恵を享受した。またサモアでは、年間135,000リットルの燃料が節約されることとなるだろう。さらにミクロネシア連邦では、500トンの炭素放出が抑制され、年間486,000ドル相当の燃料費の節約が見込まれている。
シン助教授は、今後の見通しとして、「小島嶼国はおそらく2050年までには電力供給の面で、自給自足を達成できるでしょう。その背景には、すぐに利用できる援助資金があり、近年太陽電池パネルの価格が大幅に下落したことで、近い将来、太陽光発電による送電システムの導入がより手頃な費用で、しかも、費用対効果も向上することが期待できるからです。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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