【カラチIPS=ゾフィーン・イブラヒム】
米オバマ新政権が誕生してから間もない1月23日、アフガニスタンとの国境沿いにあるパキスタン部族居住地域にまたしても米軍によるミサイル攻撃が加えられた。アルカイダやタリバンの勢力を叩くためだとされる。
しかし、パキスタンでは民間人への大規模な「付随的被害」が生じている。パキスタン平和研究所(イスラマバード)の調べによると、2008年に米軍によるパキスタン領内のイスラム過激派アジトへの攻撃は32回に上り、216人のテロリストと84人の民間人が殺害された。
パキスタン政府はこのような「付随的被害」が生じるたびに米国に抗議したが、無人機を使った攻撃はやむ気配がない。
かつてカブール駐在武官を務めたこともあるシェル・ザマン・タイザイ氏は、IPSの取材に対して、米国の攻撃はアフガンに展開している中央情報局(CIA)によって指揮されているものであり、パキスタン軍は攻撃についてなんら知らされていない、と述べた。
米国とパキスタンの関係は昨年9月に入って急速に悪化した。過激派を追って越境してくる米兵に対する攻撃許可をパキスタン軍が下し、9月25日に実際にパキスタン軍が米軍ヘリに攻撃をかけたからだ。
昨年11月19日には、アフガン国境から深くパキスタン内陸に入り込んだバンヌにおいて米軍無人機が攻撃を行い、アン・パターソン駐パキスタン米軍大使がパキスタン政府から召喚された。
オバマ新政権の対パキスタン政策はより少ないアメとより厳しいムチの方針を採っているようだ。オバマ大統領は、就任第1日目に、年間15億ドルの対パキスタン非軍事支援の供与は、過激派対策の「実績」によると述べた。
また、米国政府は、反テロ作戦のためにパキスタンが要した費用1億5600万ドルのうち、5500万ドルを差し引いた1億100万ドルしか供与しなかった。
パキスタンのザルダリ大統領は、1月28日付の『ワシントン・ポスト』紙で、パキスタンが米国に望んでいるのは「講釈」ではなく「支援」だと述べた。また、「率直に言えば、ソ連が1980年代にアフガンで敗北した後に米国がアフガンとパキスタンを見捨てたことで、現在われわれが直面しているテロの時代へと突入したのである。当時の、そして21世紀に入ってからの独裁体制への米国の支援は、パキスタンの社会・経済開発を無視したものであり、民衆の必要を無視したものであった」とも書いている。
無人機による越境攻撃は、実際のところ効果を挙げていない。過激派はアフガン国境沿いの部族地域から内陸地帯へと移動を始め、国内では反米感情が高まり、タリバンへの支持が逆に強まりつつある。
米軍によるパキスタンへの越境攻撃の問題性について分析する。(原文へ)
翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩