地域アフリカ|リビア|部族対立が南東部砂漠地帯で流血の事態に発展

|リビア|部族対立が南東部砂漠地帯で流血の事態に発展

【クフラIPS=レベッカ・マレー】

リビア南東部のクフラ(エジプト国境近くのサハラ砂漠のオアシス都市)では、長らく緊張関係にあったズワイ族とタブ族が、今年2月の衝突以来辛うじて平静を保っていたが、3月26日以降、事態は100名以上の死者を出す衝突へと発展した。こうした部族衝突は、リビア新政府が新国家を建設していく中で直面している深刻な課題の一つである。

ムアンマール・カダフィ大佐の追放によって政治的空白が生じた中、北部沿岸から1000マイル(約1609キロ)内陸に位置し、エジプト、スーダン、チャド国境と接する主要な密輸拠点であるクフラでは、縄張りと利権を巡る争いが激化している。このことから、6月19日に予定されている総選挙の実施をはじめ、クフラを中心とするリビア東南部地域の今後の安定が懸念されている。

 クフラで衝突が再燃する数日前、ズワイ族とタブ族の成人学生が市街地に位置する職業学校の校庭の木陰に集い、悪化する治安や将来に対する不安について口々に語った。

「クフラでは縁故主義がはびこり、就職は容易ではありません。人が多すぎて、それに対して十分な働き口がないのです。」とズワイ族出身の医学生オマサヤドさん(26歳)は語った。さらに彼女は、「治安面では、カダフィ時代のほうが良かったと思います。」と付加えた。

するとクラスメートでタブ族出身のカディーシャ・ジャッキーさん(25歳)は不意に発言を遮って「確かにカダフィ時代より治安は悪化していると思います。しかしそれでも、今の方が生活は良くなっている。」と語り、「優先順位は、治安、平和、人権であるべきだと思う。」と指摘した。

タブ族出身でコンピューター専攻のカルトロン・トオウシさん(23歳)は、「部族対立は長年に亘る根深い問題です。私は学校では安全が確保されていると感じていますが、街に出るととても不安です。」と語った。

人口の大半をアラブ系のズワイ族が占めるクフラ(人口44000人)において、タブ族の人口は約4000人とみられている。半遊牧民でズワイ族よりも肌の色が黒いタブ族は、リビア西部の要衝サブハ(Sabha)をはじめ、隣国のスーダン、チャド、ニジェールとの結びつきが強い。一方、ズワイ族の人口分布は、クフラから北方に向けて石油資源が豊かな砂漠地帯を覆い地中海沿岸のアジュダービヤ(Ajdabiya)までの広大な地域に広がっている。

タブ族は、カダフィ政権の下で長年に亘って差別されてきたが、カダフィ政権がウラン鉱脈をはじめとする地下資源の支配を巡ってチャドアオゾウ地帯に侵攻した80年代の戦争(「トヨタ戦争」ともいわれ、結局敗北したリビアは国際司法裁判所の裁定に従って撤退した:IPSJ)時期に、タブ族に対する弾圧も強化された。

2010年7月に発表された国連人権理事会のレポートによると、クフラのタブ系住民はカダフィ政権によって2007年に「チャド人」と見做され、市民権を剥奪されたうえ、教育機会やヘルスサービスを受ける権利も奪われた。さらに政府当局は、タブ系住民の家屋を破壊したり、容疑者として多くの住民を逮捕した。

こうした背景から、昨年反カダフィ内戦が勃発した際、タブ族はリビア南部一帯をカバーする同族のネットワークを駆使して、カダフィ支援にサブサハラからリビアに入国しようとした傭兵の流れを阻止するなど、反体制側(国民評議会)の勝利に重要な貢献をした。

この功績に対して新暫定政権(国民評議会)は、タブ族の指導者イッサ・アブデルマジド・マンスール氏に、クフラをはじめとするリビア東南部一帯の合法・非合法の利権(越境貿易や移民、武器、麻薬の流れ)を伴う監督権を委ねた。

クフラ地区軍事評議会議長のスリマン・ハメド・ハッサン大佐は、「私たちが最も憂慮しているのは国境越えの密売組織のネットワークです。国境管理を監督しているのはアブデルマジド氏ですが、彼こそがこうした密輸ネットワークと繋がっているのです。我々は彼に密輸の取り締まりを要請しましたが、何も対策を打ちませんでした。彼は密輸から利益を得ているのです。」と語った。

国際危機グループの北アフリカディレクターのビル・ローレンス氏は、「ズワイ族も、タブ族も、それぞれ越境取引で利益を上げているのです。」と語った。

今回の衝突はタブ族のタクシー運転手が殺害され、タブ族が地元の民兵組織リビア防衛隊(Libyan Shield Brigade)の犯行であるとして糾弾したことから、両者の軍事衝突に発展した。リビア防衛隊は、反カダフィ内戦時は、フクラ地区軍事評議会と同盟関係を結び、ベンガジの国民評議会国防省(当時)の指示の下で、クフラ地区の治安を担当した民兵組織である。

「要するに、これは昔から続く両部族(ズワイ族とタブ族)間の対立図式の延長なのです。ただ、紛争の規模が今回大きくなっているのは、昨年の内戦期に大量の武器が行きわたってしまったことによるものです。」とクフラに派遣されてきた軍事顧問のアブドゥル・ラミ・カシュブール大佐は語った。

またカシュブール大佐は、「今回の紛争の原因の一つにアイデンティティの問題があります。新政府は、(カダフィ政権時代に市民権を剥奪され弾圧を受けてきた)多くのタブ族系住民が抱える、アイデンティティの問題を解決すべきです。そしてその上で、政府が国境の管理権を掌握しなければなりません。紛争が国境地帯に集中しているのは、あらゆる勢力が国境地帯の支配権を握ろうとするからなのです。」と付加えた。

ビル・ローセンス氏も大佐の意見に賛意を示し、「ズワイ族とタブ族の抗争の原因は、複合的なもので、国境地帯の密輸ルートの支配権を巡る対立、誰がリビア人なのかというアイデンティティを巡る対立、そして暴力に対する報復という側面があります。」と指摘した。

またローレンス氏は、「リビアにおける全ての対立には42年間に亘ったカダフィ独裁政権の間にも水面下で燻っていた、社会的亀裂が背景にあります。こうした亀裂は独裁政権による圧政のもとで表面化していなかっただけのことなのです。ところがカダフィ追放により重い蓋が取り除かれたことから、あらゆる旧来の亀裂が表面化してきているのです。」と語った。

クフラでは紛争が再発した結果、民主的な統治機構をゼロから再建するという本来のあるべき作業から地元住民の意識が逸らされる事態となっている。昨年の内戦で荒廃したミスラタ市(リビア第3の都市)が早々に自由選挙による市議会選挙を実施ししたのとは対照的に、クフラの市議会議長は任命された人物であり、市議会選挙についても近い将来に実施される予定はない。

IPS記者が取材した生徒たちはいずれも、6月19日に予定されている総選挙についてほとんど知らないと回答した。彼らはいずれも、総選挙への登録に関してや、諸政党、主な争点、候補者など、なにも知らされていないと語った。

建築専攻の大学生ファテ・ハメド・マブルークさん(25歳)は、「総選挙があるということは知っていますが、中身については誰も教えてくれないのでよくわかりません。ここクフラの市議会は何も教えてくれないのです…他都市の同胞たちのように、ここクフラでも自由選挙で代表を選出したいと考えています。」と語った。

クフラ選挙委員会のアル・サヌッシ・サレム・アル・ゴミ氏は、「中央政府は、まだ選挙人登録に関する詳しい情報を伝えてきていません。」と語った。またアル・ゴミ氏は、「現在再燃している武力紛争の影響で総選挙に関する広報がうまく出来ていません。このような情勢から、クフラの市議会選挙は総選挙後が行われ新政権が誕生するまで延期することに「なったのです。」また、「タブ族系住民の中には、もっと多くの家族がリビア市民権を取得するまで、選挙手続きが進まないよう妨害すると脅迫するものもいます。しかしそういう彼らは、必要な証明書を持っていないのです。」と語った。

この問題についてヒューマンライツ・ウォッチのフレッド・アブラハム顧問は、「市民権取得問題と身元証明書の問題は極めて複雑で途方もない作業になるでしょう。リビア南部では、身分証明書はないけれどもリビア市民権を取得するに十分値する人々がいる一方で、書類はあるけども市民権を得るに値しない人々もいるのです。」と語った。

またアブラハム顧問は、「タブ族系住民の間では選挙権を奪われるのではないかという懸念が広がっていることから、来る選挙で、このことは深刻な問題となるでしょう。」と語った。

一方、アブラハム顧問は、タブ系住民が同族の居住地域をベースにした独自の国家建設を志向しているのではないかとする説を否定して、「今の時点では、そうした動きはただの見せかけだと思います。タブ族系住民自体、内部で様々な対立を抱えている現状を考えれば、独立説はあまり説得力のあるオプションではないと思います。」と指摘したうえで、「むしろ深刻なのは、そうした風評が広がるほど、タブ族系住民の間に緊張感が広がっていることです。最近、部族間の不信感と疑念が極度に高まってきており、ついに流血を見るところまで発展しているのですから。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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