【キトIDN=ネルシー・リザラーゾ】
15年前にエクアドルのサンパブロを訪れたことがある。それはまさしく、マナビ州都ポルトビエホの中で最も貧しい地区であった。
当時、安全な飲料水へのアクセスはなかった。人々は、中等教育はおろか、すべての人々にとっての基本的な無償教育の可能性など、想像すらつかなかった。夕方5時以降に出歩くことなどできず、診療所には十分な医療スタッフも薬もなかった。
今年9月初め、サンパブロをふたたび訪ねてみた。
そこで会ったのがモニカさん。年は29で、8歳の娘を持つシングルマザーである。その半年前、「マッチョ」な伝統に反して、彼女は地域評議会の会長の座を勝ち取っていた。今日、彼女は「マダム・プレジデント」となり、来る日も来る日も地域住民のために尽力している。
モニカさんは、確信を持って私にこう語った。「この10年の進展がなければ、すべての子ども達のための教育を実現することはできなかったし、今日のような医療体制を享受することはできなかったと思います。同様に、地域全体で飲み水を確保することも、障害者が必要とするケアや機会を得ることもできなかったでしょう。」
「私たちの生活が変わったなどと説明するまでもないと思います。ただ、サンパブロに来て、自分の目で確かめてほしいです。」
モニカさんは、彼女と地域社会の大部分の暮らしが変化したことを認識している。おそらく彼女は、これらの変化の背後に、社会政策、とりわけ保健・教育分野の政策を重点化するという明確な決定があったことは知らないだろう。
モニカさんはおそらく、これらの変化がミレニアム開発目標(MDGs)と結びついていることは知らないかもしれない。MDGsはエクアドルによって採用され、「良き暮らしのための国家計画」という同国のより大きな公共政策戦略の中にこの12年にわたって組み込まれていたのである。
エクアドルは、社会的投資や具体的事業、行動に反映されたこの政治的決定のために、21のMDGsのうち20の目標を単にクリアする以上の指標を示すことができた。「予定よりはるかに早期に、合意された以上の水準で」これを成した、というのは、2015年9月に国連が招集した「持続可能な開発サミット」におけるラファエル・コレア大統領の演説での言葉である。
同様に、エクアドル政府は、唯一達成できなかった目標である「妊婦死亡率の削減」を、今年末までに68%まで達成する目標を立てている。
モニカさんはこうした細かい事情は把握していないが、こうした開発目標の達成が彼女が日々向き合っている人々にとってどういう意味合いを持つのかは経験している。
ラファエル・コレア政権がMDGsに関してこうした成果を示すことができるのは、ひとつのパラドックスであるかのようだ。というのも、これが、2007年の大統領就任スピーチでこれらの目標を手厳しく批判していたのと同じ政権だからだ。そのときコレア氏は、巨大かつ歴史的な社会的・経済的非対称構造が世界にあることに関してまったく議論が行われていないことを批判していた。
この点はさまざまな国際会議の場で、いわゆる「市民革命」政府(コレア大統領が自らの政権を指して使っている用語)のさまざまな政府関係者らによって、幾度も繰り返されてきた。
こうした高官のひとりが、つい最近まで国家計画大臣を務めていたパベル・ミュノス氏である。彼は、MDGsは「北の国々が南の国々のために設定した目標であり、政府であれ、その地域の市民団体や市民であれ、地元の利害関係者と関係のないところで決められた」と発言した記録が残っている。
今日、MDGsに対する批判的な立場は、持続可能な開発目標(SDGs)に対する受容と楽観に取って代っている。
政府代表によると、収入と資産の再分配に関連付けられた行動の明確な位置づけが、これらの目標にはすでに組み込まれているという。事実、「持続可能な開発サミット」で演説したミュノス氏は、SDGsとその目的は「我が国(エクアドル)の開発計画と一致する」と述べている。
実際、SDGsは、貧困削減やジェンダー平等、気候変動など、2013~17年の「良き暮らしのための国家計画」の鍵を握るものとして策定・提供されている問題や目標を組み込んでいる。
元社会開発調整大臣のセシリア・ヴァカ・ジョーンズ氏は、SDGsの17項目のうち9つが社会政策に直接関わっており、MDGsとは異なり、平等と公正の達成に緊密に関係していると説明している。SDGsは、同国の公共政策の基礎となる開発提案により焦点を当てるものになると彼女は理解している。
SDGsに関連してエクアドルの重点項目を決定し、それを2016年度予算に明確に反映することに関して、ヴァカ・ジョーンズ氏は、「包摂と公平の基準を確実に満たす質の良い教育(SDGs第4目標)を実現していくためにあらゆる取り組みを行っていきます。」と語った。
さらに、これまでにも見られたように、中核的な問題は、あらゆる形態の貧困の根絶(SDGs第1目標)であり、現政権にとっての課題でもあり続けるだろう。加えて、SDGs第12目標に設定された持続可能な消費・生産の達成という既に開始された取り組みも継続されるだろう。
政府報道官らは、複数の公的な発言において、エクアドルの憲法と「自然の権利」の認識に従って、環境問題に関連したすべての目標の達成に向けた進展への関心を強く示している。
エクアドルがいかにしてSDGsの達成に向けて前進していくかは興味深い問題であり、その答えは4つの中核的な要素の周辺に探ることができる。それらは、成果を手に入れるために、この10年で実行に移されてきたものだ。
第一に、明確な財政政策。社会協約は財政協約なしに達成不可能であり、エクアドルでこれまでに実行されてきた社会的投資の大部分は、徴税によって可能となったものであった。
この政策は、継続的に市民の意識を高めながら、維持・深化していかなければならない。税の支払いが、この国に依然として存在する格差と不平等を縮小するために政府の政策に反映されるということを、民衆が明確に理解することが肝要だ。
第二に、いわゆる「反循環政策」である。経済循環の重要局面では、社会的投資を減らしてはならない。この政策は、社会的投資が増えれば増えるほど、生産性や成長、危機からの脱出の可能性が増すという原則を基礎にしている。
第三に、地域の活動を強化し、歴史的に排除されてきた集団や特に配慮を要する集団と緊密に協力すること。
最後に、この10年間行政を導いてきた基本認識、すなわち、開発の第一の、かつ主要な資源である人間とその能力を支援することである。
SDGsで提示された目的を達成するカギは、サンパブロの住民であるモニカさんのような民衆と、全国の地域社会の能力を支援することにある。(原文へ)
※ネルシー・リザラーゾは、プレセンサ・インターナショナル・プレス・エージェンシーの会長。
翻訳=INPS Japan
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