【ダボスATN=ATNニュースチーム】
今週、世界各国の主要な政治指導者(国家元首・政府首脳約65人を含む)が、スイス・ダボスで開かれる世界経済フォーラム(WEF)年次総会2026に集結した。今年のWEFは、企業主導の「アイデアの祭典」というより、世界秩序の耐久力をその場で試す実地の検証に近かった。成長見通しではなく、地政学が議論の中心を占めたからだ。
各セッションや非公開会合、廊下での会話に共通していた支配的な空気は、米欧摩擦の先鋭化だった。背景には、ドナルド・トランプ大統領がグリーンランドをめぐって圧力を再び強め、関税を交渉の梃子として用いていることがある。例年なら周到に演出された楽観ムードが支配するが、今年は「危機下の同盟管理」を思わせる緊張感が漂っていた。
欧州の指導者は公の場で結束を示した。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、グリーンランドの主権は「交渉の余地がない」と改めて明言し、各国と連携して北極の安全保障を強化する措置を欧州連合(EU)として準備していると語った。メッセージは明確だが、表現はあくまで外交的である。欧州が求めるのは米国との協力であり、強要ではない。
カナダも同様の立場を示した。マーク・カーニー首相は、地政学的対立と結びついた貿易措置の行使にカナダ政府は反対だと述べ、関税の「武器化」は国際貿易体制への信頼を損ないかねないと警告した。
先行きの安定を求めてダボスに集まる企業幹部からも、不安の声が出ていた。複数の最高経営責任者(CEO)は、感情に左右される政治判断や唐突な政策転換が市場を揺さぶり、長期の投資計画を立てにくくしていると指摘した。ある欧州企業の幹部は私的に、この場の雰囲気を「政治的すぎる。変動が大きく、不確実性が高すぎる」と表現したという。
米国側は沈静化を図っている。スコット・ベッセント財務長官は、米欧関係の決裂を懸念する見方は誇張だとして退け、同盟国に外交の進展を見守るよう求めた。だが市場はそれほど楽観的ではない。主要経済圏の間で貿易が混乱する危険が高まっているとの見方を投資家が織り込み、火曜日には世界の株式が下落した。
ダボスの外で起きた出来事も、会議に漂う地政学の影をいっそう濃くした。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによるミサイル攻撃の再開への対応のため、予定していた登壇を取りやめた。アルプスで各国指導者が戦略を論じる一方、戦争が別の場所で現実を規定し続けている――その事実を突きつける出来事だった。
政治の議論を地政学が主導する一方、経済面で存在感を示したのは人工知能(AI)である。ただし、近年ほどの過熱は見られなかった。
この日の主要論点の一つとなった討論で、PwCのモハメド・カンデ会長は、企業の半数超がAI投資から目立った成果を得られていないと指摘した。問題は技術そのものではなく、組織の準備不足や、実装をめぐる指揮系統の曖昧さにある―というのが同氏の見立てであった。
こうした現実路線は、複数の技術分野の討論でも共有された。登壇者からは、AIが急速に商業ツールから「戦略資産」へと性格を変えつつある、との警告が相次いだ。半導体、データ、基盤設備をめぐる競争は、すでに戦略的対立に近い様相を帯びているという。先端AIは、社会を変え得るほど強力である一方、管理を誤れば不安定化を招き得る「重要な社会基盤」に等しい―そうした比喩も繰り返された。
非公開の場では、近年と比べて語り口が明確に変わった、という声も聞かれた。破壊を礼賛する議論は後退し、統制、運用の規範、そして予期せぬ帰結への懸念が強まっているという。
この日の終盤には、全体の方向性は明確になっていた。ダボス2026の焦点は、気候公約でも環境・社会・企業統治(ESG)の流行語でも、派手な技術の展示でもない。いま問われているのは、むき出しの「力の政治」である。誰がルールを定め、誰がそれを執行し、大国が「ルールは共有されている」という建前を降ろしたとき、何が起きるのか―その問いが前面に出ている。
主催者は対話と協調を強調し続けている。だが会場の空気はむしろ、分断の深まりを映している。中立の場を提供し、国際的な合意形成を後押しする―フォーラム本来の役割は、国際政治の力学が取引優先へ傾き、同盟がますます条件付きになっていく世界の中で試練にさらされている。
注目は水曜日に移る。トランプ大統領がフォーラムで直接演説すると見込まれているためだ。外交官も企業幹部も投資家も、決まり文句ではなく「シグナル」を読み取ろうと身構えている。政権はグリーンランド問題でどこまで踏み込むのか。貿易をどこまで強硬に交渉の梃子として使うのか。同盟国との交渉で、歩み寄りの余地は残されているのか。
現時点のダボスは、楽観のサミットというより、意思決定者たちが静かに前提を組み替えている場である。その気配が強かった。(原文へ)
Original URL:https://www.amerinews.tv/posts/davos-2026-power-politics-eclipse-the-economy
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