【国連IDN=タリフ・ディーン】
オーストラリア(豪州)に対して原子力潜水艦(SSN)を供与するとの英国・米国との間の三国協定(3月13日発表)は、世界全体に悪影響を引き起こしかねないものだ。
三国(AUKUS)の共同声明は、この取り決めを、米国の最先端の潜水艦技術をはじめとする三国すべての技術を統合した英国の次世代設計を基礎にした共同開発のたまものと述べている。
豪州と英国は将来型の潜水艦としてSSN-AUKUSを運用し、2020年代末までに両国がそれぞれの国内の造船所で同型艦の建造を始めるという。
国際原子力機関(IAEA)元検証・安全保障政策課長のタリク・ラウフ氏はIDNの取材に対して、「米英が厳格な不拡散・検証の取り決めなしに原潜を非核兵器国である豪州に供与すると決めたことは、カナダ・イラン・日本・韓国などによる追随を引き起こしかねない原潜拡散のパンドラの箱を開けてしまった。」と語った。
ラウフ氏はまた、「AUKUSによる2021年9月の発表から18カ月、豪州やブラジルのような非核兵器国における海軍原子力推進に対する保証措置のアプローチを採り、技術的目標を設定することをIAEAが放棄しているように見えるのは驚きだ。」と指摘した上で、「もうひとつ懸念されることは、IAEA理事会が、いま述べた保障措置のアプローチや技術的目標を発展させるための作業を行ったり、あるいは保障措置問題に関して深刻な検討を加えたりするようにIAEA事務局に対して要請するのを躊躇しているように見えることだ。」と語った。
「さらに、一部の国々の代表は、技術的な議論を真摯に行うよりも、第三者であるコメンテーターの安っぽい批判に関心があるようだ。」
「現在においてもそうだし、(2003年3月の)イラクに対する違法な侵略を正当化するために一部の指導者が誤解を招くような情報を提供してから20年ということを考えても、これは驚くべきことではない。」
「海軍原子力推進をIAEAの検証・監視の枠から外すことで、1991年の第一次湾岸戦争時のような状況がもたらされるかもしれない。このときは、それまでは探知されていなかった核兵器開発計画と未申告の核計画が発見されて世界を驚かせた。」とラウフ氏は断言した。
三国の取り決めによれば、豪軍要員や民間人が2023年以降に米英両海軍に派遣され、両国の潜水艦産業で働いて豪州関係者の訓練を加速させることになるという。
米国は2023年以降、同国原潜の豪州への寄港回数を増やす予定だ。豪海軍の軍人が米国に加わって訓練を受けることになる。英国も2026年からは豪州への訪問を増やす。
米英両国は早ければ2027年にも、豪州が独自の原潜能力を獲得するために必要な海軍要員、労働力、インフラ、規制システムの向上を図るために、原潜のローテーション配備を開始する予定だ。
豪州軍の元諜報官であるクリントン・フェルナンデス教授は3月18日の『シドニー・モーニング・ヘラルド』紙で、AUKUSによる3680億ドルの原潜供与協定は、豪州をそこから離れることが非常に困難な軌道に乗せるものであると警告した。
「豪州が米英両国から潜水艦を購入するこの協定は、今後数十年にわたって、豪州を米英との運命共同体にすることを意味する。」
「その危険は、豪州軍が自前の軍隊というよりも米軍の一要素として組み込まれてしまう点にある。」
「ここでのキーワードは相互運用性だ。より大きな戦力を補強するために、よく選ばれた、ニッチな能力を提供することで、超大国の戦略の内部で作動する、ということだ。AUKUSは、豪州軍が米軍・英軍と総合運用性を持ち、さらには互換性すら持つことを意味する。」とフェルナンデス氏は主張した。
「相互運用性は豪州軍の戦争のやり方にとっては中心的な概念であり、その圧倒的な重要性は歴史に根差している。第一次世界大戦以前から、豪州は、相互運用性の観点から英国のリー・エンフィールド型ライフルを好み、カナダのロス型ライフルを採用しなかった。」
「1909年当時の国防相ジョージ・ピアースは豪州独立を熱心に主唱していたが、相互運用性の必要性は認識していた。当時はそれが意味を持った。当時の英国は主導的な帝国であり、豪州はその帝国内の自治領であったからだ。」とフェルナンデス氏は説明した。
ニューサウスウェールズ大学の「未来活動研究グループ」にも参画しているフェルナンデス氏は、「帝国下」の意識が豪州の安全保障やアイデンティティの本質であって現在のAUKUSの中心にも座っており、自主防衛やコスト感覚といった他の目標を凌駕している、という。このことが、軍が将来的に直面する脅威やリスク、機会となる。
三国政府は、今回の決定を正当化した3月13日の共同声明で、AUKUSパートナーシップの利益は、世界の人口の半分以上と世界経済の3分の2以上を擁するインド太平洋地域を超えて広がると述べた。
「(AUKUSは)大西洋とインド太平洋地域の同盟国・パートナー国を、これら目的の下支えとなる国際システムに緊密に結びつけることで、我々の集団的な強みは一層強化されることになろう。」
「豪州軍による潜水艦群の近代化は、我々が手を携えて機会を実現するにあたり、我々を緊密に結びつける数十年に及ぶ取り組みとなろう。」
声明はまた、豪州による非核兵器搭載型の原潜取得は、高度な不拡散基準を満たし、核不拡散体制を強化する形で行われることになろうと述べた。
「このパートナーシップは、豪州が核不拡散に長年にわたってコミットしてきた実績ゆえに可能になったものだ。」
「21世紀の歴史のほとんどはインド太平洋地域で書かれることになろう。我々は、経済的繁栄や自由、法の支配を強化し、それぞれの主権国家が強制によらず自由意思で物事を決定する権利を保持するために、この地域を超えてパートナーと協力することを誇りに思う。」
「AUKUSは、今後数世代にわたって、自由で開かれたインド太平洋地域という我々共通のビジョンの推進に寄与することになろう。」
アンソニー・ウィアー米国務次官補(国際安全保障不拡散局不拡散政策担当)は同省で3月15日に開いた記者会見で、「海軍原子力推進は核兵器ではないことを明確にしておくことが重要だ。それは単に潜水艦が原子炉によって動いているに過ぎない。それだけのことだ。これは安全な技術だ。米英両国は60年以上にわたって、原潜で2.4億キロを航行してきた。それは月旅行300回以上分の距離にあたり、その間、人間の健康や環境に悪影響を与えたことはない。」と語った。
「AUKUSは防衛のためのパートナーシップであるが、それ以上のものもある。それは、米国とそのパートナー国・同盟国が、我々の海軍人や科学者、産業をつなぎ合わせて、インド太平洋地域の平和・安全・繁栄を維持する能力を維持し高めることによって、平和かつ安定したインド太平洋を実現するための具体的なコミットメントの表れだ。」
「我々は、明確に、潜水艦群を強化するとの豪州の決定を支持する。しかし、それ以上に、AUKUSを通じて、米・英・豪三国は、幅広い安全保障・防衛能力に関して我々の長期的な協力関係を深化させる意図を持っている。そして、そうすることによって、AUKUSを通じた防衛装備品移転を最適化するプロセスを再検討・合理化するために積極的に協力していく。」
「明確にしておかねばならないことがある。豪州は核不拡散条約の下での非核兵器国であり、これまでも、そしてこれからも、核兵器を追求することはないということだ。豪州がこれまでに示してきた核不拡散へのコミットメントにおける実績は、今回のパートナーシップを可能にする本質的な条件であった。我々三国のパートナーは、それぞれの法的義務と核不拡散を遵守し義務を果たし続ける。」と、ウィアー次官補は語った。
他方で、英国の『ガーディアン』紙によれば、IAEAのラファエル・グロッシ事務局長が、AUKUS協定が核不拡散上の義務に抵触することのないように、IAEAとAUKUSはさらなる協議を続けると述べたと伝えている。
同紙によれば、AUKUS協定は、海軍による原子力の非軍事的利用(推進用の高濃縮ウラン)をIAEAの査察の対象外にした1968年核不拡散条約の抜け穴を利用しているという。
グロッシ事務局長は3月14日、ワシントンで記者団に対して「潜水艦が出航してしまう前に、さらには港に戻ってきたときにチェックを加えねばならない。」と語った。
ガーディアン紙の報道によると、「それには高度な技術的手法が必要となる。溶接された部分があるからだ。しかし、我々の査察官は、内部に何があるのか、潜水艦がどのようにして、いつ港に戻ってくるのか、すべて[核分裂物質]がそこに[申告通りに]あるのか、失われた物質はないのかを調べることになる。」とグロッシ事務局長は述べたという。
「彼らの計画に対して、我々は高い要求を出すことになろう。プロセスがいま始まった。現在、実情を把握しているところだ。」
グロッシ事務局長は、AUKUS協定に関連した不拡散協定の進展について、6月のIAEA理事会に報告する予定だ。
「すべての保証措置を確実にするために、厳格で水も漏らさぬ仕組みを作り上げるつもりだ。もしそれができないのなら、協定は認められない」とグロッシ事務局長は語った。(原文へ)
INPS Japan
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