地域アジア・太平洋世界のトップテーブルで。2023年はインドの年か?

世界のトップテーブルで。2023年はインドの年か?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ

2023年はまさにインドの世界政治の年となるかもしれない。それを後押しする三つの事情とは、インドがG20の議長国を務めること、ウクライナ戦争でインドが果たす興味深い役割、そして中国に対する批判的な見方がますます広がっていることである。

国際政治におけるインドの影響力は近年着実に拡大しており、インド政府はグローバルプレイヤーとしての責任を担うことに熱心である。それはとりわけ、多少の波はあるものの2000年代末から年7%を上回るペースで続いている目覚ましい経済成長を背景とした政治的野心によるものだ。2021年には8.7%の成長率を記録したインドは今や、米国、中国、日本、ドイツに次いで世界5位の経済大国となっている。グローバルプレイヤーになるというインド政府の野心的目標は、今に始まったことではない。この政治エリート国は常に、国際情勢における最上位のランクを思い描いてきた。しかし、過去にこの国はあまりにも頻繁に地域紛争の泥沼にはまり、インド人学者B.S.グプタが25年前に評したように「南アジアの息詰まるような閉鎖空間」であった。(

2023年にはインドはG20の議長国に就任し、G20の議題を形成する可能性がある。これを、デリーは歴史的好機と捉えている。もしかしたら、インドが数十年にわたって国連安全保障理事会の常任理事国になることを拒まれてきたことへの埋め合わせという面も少しはあるのかもしれない。インドの人口は14億人を超え、2023年には中国を追い越して人口世界一の国になろうとしている。インドは、ほぼ西側に支配された世界構造を改革したいと考えており、多くの政治的・経済的フォーラム(世界銀行、国際通貨基金、国連安全保障理事会など)の取り組みや構造に対する不満を臆することなく口にしている。これらの機関はいまだに、現在の世界情勢というより第2次世界大戦後の創設当初の状況を反映している。インド政府は、経済的不安の中で包括的な成長を成し遂げるために、グローバルサウスの「聞き届けられない声」が認識されることを望んでいる。

インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、自信をもって、はばかることなく、欧州諸国が自分たちの問題ばかりを優先して世界的問題を見落としていると非難している。例えばロシアに対する西側諸国の制裁は、エネルギー、食料、肥料の価格高騰を招き、より貧しい国々に深刻な経済問題を引き起こしている。インド政府は冷戦時代の古臭いブロック対立を再燃させることに関心はないが、それは現在、米中間の競争や確執に形を変えて姿を現している。デリーは、単純に西側(現在のロシアとの対立における“善玉”)の肩を持ちたいとは思っていない。

政府は、インドの非同盟の伝統にふさわしい多面的な同盟を構想している。インドは、米国、オーストラリア、日本、インドの4カ国安全保障対話「クアッド」に加盟しているが、単純に西側陣営に加わりたいとは思っていない。国連においてインドは、ロシアの侵攻を非難する決議案の採決で欧米諸国の圧力に屈することなく棄権した。デリーとモスクワは良好な交流を維持している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれを根拠として、ロシアは西側が思うような孤立状態には全くないと主張している。しかしその一方で、ナレンドラ・モディ首相は2022年9月に開催された上海協力機構(SCO)の会議で、プーチン大統領に向かって「今は戦争の時代ではない」と明確に述べた。

インドは、ロシアと良好な経済関係を維持していることを隠しもせず、悔いてもいない。インドは、長年にわたりロシアから武器を輸入しており、ロシアの協力に引き続き依存している。ウクライナ戦争が始まってからは、値引きされたロシア原油の輸入を増やしている。インド外相は、そのようなどっちつかずの政策に対する西側の非難に反論し、欧州の偽善をはね付けた。「1人あたり所得60,000ドルの社会が自分で自分の面倒を見るというなら、もっともなこととして受け入れよう。しかし彼らは、1人あたり所得2,000ドルの社会が損害を引き受けることを期待するべきではない」

このような多面的同盟、ワシントンともブリュッセルともモスクワとも良好な関係を維持するという考え方があるからこそ、デリーは仲介者としての役割を果たすことができる。現時点でロシア政府は、戦争を終わらせようとする、あるいは本格的な交渉を開始しようとするいかなる外交努力も拒絶している。これまでの紛争解決の経験から、中立的な仲介者による手助けが有益であることが分かっている。インド政府が世界情勢の中で建設的に自国を位置付ける機会がここにある。

最後に、現在、中国の政策に対して広がっている懐疑論は、インドにとって有利に働く。パンデミックはインドの影響力拡大に寄与した。パンデミックの中で、中国への経済的な依存度がいかに大きく、ほとんど不可避であるかが明白になった。中国の強引な政策、透明性を欠く北京のコロナ危機対応、主要経済分野におけるさまざまなサプライチェーンの途絶や技術依存度は、これまでの対中政策の見直しや一部撤回につながった。

多くの国の政府は、依存度を下げ、自国社会のレジリエンスを高めるために、サプライチェーンの分散化は避けられない措置であると考えている。これはインドにとって好機である。インドは、十分な訓練を受けた、英語を話す労働力が豊富である。そのような人的資源、そして中間層が拡大している大規模なインド市場は、多くの外国投資家にとって魅力的である。インドの現在の経済力と政治的決断を考えると、2023年はインドのグローバルイヤーとなる可能性がある。

しかし、障害もある。インドは、技術的に進んだ産業もあるが、依然として貧しい国でもある。インド経済は、貧困を大幅に削減し、毎年労働市場に流入する1,000万~1,200万人の若者に十分な雇用を提供するためには、7%を上回るペースの経済成長を必要とする。そのためには、かつての中国のように数十年にわたる好況期が必要である。それが気候変動をいかに悪化させ得るかは、想像に難くない。

政治的に、インドは岐路に立っている。インドの世俗主義的社会や多文化的民主主義は、もはや憲法に謳われているほど安定したものではなくなっている。ヒンドゥー・ルネサンス、均質的なヒンドゥー社会を目指すモディ首相の政策を考えると、国民の平等な待遇に疑義が生じる。インド社会の特徴であった自由主義や世俗主義は脅威にさらされており、司法の独立とメディアの独立も同様である。

モディ政権は、米国、日本、オーストラリア、そしてEUとの関係を強化することに成功した。また、紛争を抱えた周辺地域において必ずしも良好とはいえなかったイメージも改善した。しかし、東南アジアにおけるインドの役割と地位は、国の圧倒的な大きさゆえに複雑である。より小規模な周辺国との関係は、緊張と無縁ではいられない。

地域における複雑かつ困難な関係は、インドの長年にわたるパキスタンとの紛争や中国との対立的関係に反映されている。領土問題はいまだに解決されておらず、国境地帯では小競り合いが繰り返し起きている。両国とも軍隊に多額の投資を行っているが、その額は中国がインドを大きく上回る。中国の「一帯一路」構想とインド洋におけるプレゼンスの増大に、インドでは安全保障の懸念が高まっている。それと同時に、両国政府はBRICS、SCO、G20といった組織では協力を行っている。

ナレンドラ・モディと習近平はさまざまな形で顔を合わせているものの、両国間の対立は激化している。各時代のインド政府は、欧州各国の政府と同様、長年にわたり貿易がもたらす緩和の影響力を信じてきた。しかし、中国とインドの2国間貿易は大幅に増加したものの、緊張を解消するには至っていない。今やインド政府はデカップリング政策に乗り出している。とはいえ、インドは中国からの輸入に依存しているため、経済的離脱は容易ではない。

世界で最も人口が多い2カ国の世界的野心は、両国を熾烈な競争へと駆り立てた。どちらの政府も、世界的野心を抱くアジアの大国と自認している。インド政府は、その経済力に見合った政治的役割を明確にすることに関心を抱いている。しかしその一方で、新たな多国間主義へのロードマップを策定するために、イデオロギーの衝突を乗り越え、志を同じくする国々と協力することにも関心を抱いている。民主主義と専制主義の対立と競争において、インドは、民主主義とそのリベラルな価値観を後押しする形でバランスを傾けるために、重要な役割を果たす可能性がある。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

INPS Japan

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