【ヌルスルタンINPS Japan/アスタナタイムズ】
第77回国連総会は、全般的に不安と警戒感が特徴的であった。一部の演説者は非難にとどまり、世界の安全保障状況と経済的展望が目に見えて悪化しているという一般に認められた事実について、国連の他の加盟国を非難した。
このような時こそ、バランスのとれた状況判断と、人類共通の目標が明確に示されることが特に重要であった。カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領が提案したアプローチは、この困難な時代に団結することへの希望を述べたものであった。
このアプローチは、過去70年間、地球上の相対的な平和と安定の維持のために国連が用いてきた、古くから試されてきた原則のいくつかを維持することを提案しているという意味で、保守的なものである。
「この普遍的な組織の根底にある基本原則に立ち返ることほど、今重要なことはありません。特に、国家の主権的平等、国家の領土保全、国家間の平和的共存という3つの基本原則のつながりを再考する必要があります。」とトカエフ大統領は語った。
一方、こうしたカザフスタンのアプローチは、決して受動的で現状に盲従するという意味ではないことに留意する必要がある。変革は必要だが、それはコンセンサスによって導入され、絶えず議論され、関係国のすべての重要な利益が尊重され、保護されるべきものという考え方である。
それゆえ、トカエフ大統領は、人類が歴史を通じて生み出してきた合意に至るための最良の方策(国際会議や各種国際イベントを通じた対話と常設機関の設置)への参加を呼びかけた。当面の目標は、私たちがあまりにも長い間、当たり前だと思ってきたこと、つまり「平和」についてである。もちろん、今回の国連総会でこのような考え方を述べたのはトカエフ大統領だけではなかった。
「平和とは、空気や太陽のようなものです。私たちはそれらを当たり前のものと考え、時にはそれなしには生きられないことを忘れてしまう。同じように、平和は全人類の未来にとって必要な前提条件です。中国の王毅外相は総会の演説で「混乱や戦争はパンドラの箱を開けるだけで、問題を解決することはできません。」と語った。
しかし、領土保全や国家の主権的平等という概念は、具体的にどのようなものなのだろうか。これらは、絶え間なく続く戦争から人類を守るための原則である。法の下の平等を基本に、個人の生命や財産を守る法的原則と同様、この2つの原則は、トカエフ大統領が言及した第3の原則、すなわち国家間の平和的共存の実現につながるものである。
「この3つの原則は相互に依存しています。」とトカエフ大統領は付け加えた。この点については誰も異論がないだろう。
カザフスタンは、1991年に旧ソ連邦の崩壊に伴い誕生した独立国家の中で、平和保護の面で非の打ち所のない評価を得ている数少ない国の一つであり、実際、東西両陣営双方と良好な関係を維持することができている唯一の国である。
カザフスタンは、国連でほとんどの人が言葉では支持しているが、実際にはほとんど実践していない「ノンブロック(特定の陣営に加わらない)」方式に徹している。
その結果、カザフスタンは「東側」のブロックにも「西側」のブロックにも属さない。カザフスタンは北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないし、集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟していても、それを外国のいかなる国に対しても利用できないことは誰もが認めるところである。(CSTO加盟国の首脳会議の決議には必ず「いかなる第三者にも向けられない」という条項があり、カザフスタンはこの原則を強く主張している)
では、カザフスタンは世界の舞台で弱く、孤立しているのだろうか。いや、それどころか、カザフスタンはあらゆる平和ミッションの貴重な戦力となっている。カザフスタンは近隣諸国と領土問題を抱えることなく、タジキスタン、アルメニアとアゼルバイジャン、ロシアとジョージア、そして現在のウクライナとロシアの関係を破壊した「ポストソ連戦争」の二つの波から見事に逃れてきたのだ。
第一波は1988年から91年にかけてのソビエト連邦の弱体化と崩壊、第二波はNATOの拡大、そして2008年にNATOがウクライナとジョージアの将来的な加盟を認めたことに伴う紛争である。
ユーラシア大陸ではいつから戦争が可能になったのだろうか。1988年から91年にかけてソ連が弱体化すると、旧ソ連構成共和国の民族主義者たちは、トカエフ大統領が国連総会で述べた原則を破って、国境を画定する好機と捉えたのである。こうした原則の破棄は、数々の紛争を引き起こした。
NATOの拡張と、2008年にブカレストで始まったプロセスの継続が約束された後、一部の国はこれを自国の領土における分離主義運動(2008年のグルジア対南オセチア、モルドバとトランスニストリア間の緊張、その他多くの不幸な出来事)の問題を解決する新たな機会と捉えた。
トカエフ大統領は、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(2022年6月15日~18日)におけるロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談で、「カザフスタンは分離主義を支持しない」と明言した。つまりカザフスタンは、ウクライナ領内にロシアが一方的に認めた「準国家」を認めないと明言したのである。
トカエフ大統領の発言は、カザフスタンがロシア民族の権利を軽視しているからではなく、新たな準国家を創設しその独立のために武力闘争を展開することは、現代世界ではもはや許されないからである。それはすでに数々の戦争を引き起こしており、歴史が何度も示しているように、戦争は決して解決策にはならない。
では、戦争が正当な救済方法でないとすれば、どうやって今日の世界の不平等やアンバランスを是正すればよいのだろうか。トカエフ大統領の提案は、協力と対話、そして合意できるところは合意していくというものだ。その中心は、カザフスタンの「地元」である中央アジアである。この大統領の提案は、全文を引用するに値する。
「私達は、来年の閣僚級会合での協議と、2024年の未来サミットの開催に貢献することを期待しています。私達は、単にグローバルな課題や危機に対応することから、新たなトレンドを予防し、よりよく予測し、私達の評価を戦略的な計画や政策立案に統合していくことへと移行しなければなりません。」
まさにこの目的のために、カザフスタンは30年前に「アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)」の開催というアイデアを提案した。(カザフスタンのアルマトイに常設事務局が置かれている)
トカエフ大統領は、「新たな挑戦と脅威の中で、私達は10月にアスタナで開催される首脳会議でCICAを本格的な国際機関に変え、世界の調停と平和構築に貢献したい。」と語った。
トカエフ大統領は、最近カザフスタン南部のトルキスタン州を訪問した際にも、同じ原則的な立場を再確認した。「わが国の外交政策は、中立を基本としていく……この政策は、バランスのとれた、建設的なものである。そしてもちろん、マルチベクトル政策であり続けるだろう。カザフスタンは、ロシアとの同盟関係、中国との戦略的パートナーシップ、友好的な中央アジア諸国との多国間協力関係を発展させるためにあらゆる努力をします…この政策は、国際社会から高く評価されており、我が国の最優先事項に合致しています。」
これが前進であると言う以外に、何を付け加えればよいのだろうか。欧州で何が起こっているかを見てみよう。もし、カザフスタンのアプローチが、アジアで同じような混乱を避けることができれば、カザフスタンは「21世紀のスイス」となり、平和と国家間の協力の真のエンジンとなることができるだろう。(原文へ)
INPS Japan
ドミトリー・バビッチ氏は、モスクワを拠点に30年にわたり世界政治を取材してきたジャーナリストで、BBC、アルジャジーラ、RTに頻繁に出演している。
この記事は、Astana Timesに初出掲載されたものです。
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