地域アジア・太平洋NATO拡大論者がインド太平洋に注目

NATO拡大論者がインド太平洋に注目

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール

NATOの初代事務局長(SG)を務めたイスメイ卿が、NATOの目的は「米国を取り込み、ロシアを締め出し、ドイツを抑え込むことだ」と述べたのは有名な話である。冷戦終結により、国際関係と世界秩序の基盤に大きな変化が訪れるという期待が生まれた。しかし、歴史の黄昏の中にそっと消えゆくのではなく、NATOは新たな役割を模索する同盟となった。その目的は、米国を取り込み、ロシアを押さえつけ、国連を締め出すことへとねじ曲げられた。ロシアが大幅に力を削がれ、超大国の栄光は見る影もなく貧困化し、国土も人口も縮小した今、NATOの目的は今一度変わり、弱ったロシアに蹴りを入れ、米国を救い出し、中国を封じ込めることになりつつあるかもしれない。(

オーストラリアは、再び保安官代理の星型バッジを着けてNATO軍団と相乗りするべきだろうか? むしろオーストラリアは、台湾をめぐって戦争をしないよう米国を説得し、万が一戦争になるとしても事前にそのような戦争への取り組みにはコミットしないとしたほうが良さそうだ。

NATOのインド太平洋妄想

NATOは、英国、フランス、ドイツ、イタリアなど、歴史的に敵対してきた欧州の大国間に軍事的安全保障、政治的安定、集中的な経済協力を生み出し、維持してきた。その支持者らは、NATOがソ連による加盟国の攻撃を抑止してきたとも信じているが、ソ連がそのような狙いを持っていたという証拠はどこにもない。冷戦が終わり、新たな、いまだ定義されていない時代へと歴史的な移行が生じる中、40年にわたってNATOが築き上げてきた軍事的、官僚的、組織的、政治的資産は、混乱と急速な変化の時期に安定をもたらす力であり、出現しつつある新秩序を形成する手段でもあった。しかし、その後、NATOのリーダーたちは、純粋な欧州内の防衛同盟だったものを欧州外で集団的軍事力を投射する同盟へと変容させようという誘惑に駆られたのである。

イェンス・ストルテンベルグは、第13代NATO事務総長に就任した。彼は2022年11月のブルームバーグとのインタビューにおいて、また2023年2月のミュンヘン安全保障会議においても、独裁国家ロシアへの過度な依存という過ちを中国に対して繰り返してはならないと、NATO諸国に警告した。ウクライナ戦争は、「安全保障が地域的なものではなく、世界規模のものだということを示している。現在欧州で起こっていることは、今後アジアでも起こる可能性がある」とも述べた。

彼の前にNATO事務総長であったアナス・フォー・ラスムセンは、2015年4月17日のアルジャジーラの討論番組で、NATOを「世界でこれまで知られてきた中で最も成功を収めた平和運動」と評した。NATOの元最高司令官である米国のジェイムズ・スタブリディス大将(退役)は、2019年4月15日の「タイム」誌への寄稿で、「なぜNATOは世界平和に不可欠か」を説明した。

これは昔ならば真実だったかもしれないが、現在の状況では妄想的である。

この軍事同盟の事実上のリーダーは米国である。1945年以来、米国は他のどの国よりも多くの国に対して爆撃を行い、制裁、監視、軍事介入によって外国政府の体制変更に関与してきた。2023年6月7日に米議会調査局が発行した年次報告書によれば、1798年から2023年4月までの間に米国は、合計500回近い海外派兵(実際の武力行使とは異なる)を行い、そのうち57%は冷戦終結後になされた。米国は単独で、全ての外国軍基地の5分の4を占めている。The Soldiers’ Projectのエバレット・ブレッドソーによれば、米国は約80カ国で約750カ所の海外基地を展開している。それに対して、英国は145カ所、ロシアは30カ所程度、中国は5カ所である。現在米軍は、約17万人の軍事要員を海外に派遣していると推定される。

1999年に米国が主導してNATOが行ったコソボへの軍事介入は、国際法、国連憲章、そしてNATO自身の憲章に違反する侵略行為だった。際限のないNATO拡大は、直接ロシアの国境まで容赦なく迫り、ロシアの軍事行動を抑止するどころか誘発した。ワシントンで幅を利かせ、海外の紛争地に軍事行動で対応するプレイブックにどっぷり浸かっているネオコンが、台湾問題をめぐって中国を相手に同じ作戦を繰り返す準備をしているとしたら、どうなるだろうか?

NATOは、憲章により北大西洋に限定される

北大西洋条約第5条は、締約国であるNATO諸国は「欧州または北米における1カ国またはそれ以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃と見なすことに合意」し、武力行使を含む個別または集団の対応が必要であると定めている。第6条は、第5条に定める武力攻撃とは (i) 「欧州または北米におけるいずれかの締約国の領土」、および (ii) 「いずれかの締約国の軍隊、船舶、または航空機で、前記の領土または欧州内の他の地域またはそれらの上空にあるもの」に対する「攻撃を含むと見なされる」と明確にしている(いずれの条項も、強調は筆者によるもの)。

アジア太平洋パートナー(オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国)は、米国の優位性を保ち、中国を封じ込めるためのNATOのグローバル化に加担することに意欲的なようだ。これら4カ国はいわゆる「グローバルパートナー」グループにも入り、NATOとの個別の取り決めやAUKUSのような補足協定を結んでおり、それらはNATOにとって足掛かりとなっている。日本は、NATOと新たなパートナーシップ協定を結び、NATOの事務所を東京に開設するようである。

しかし、東京事務所を含むNATOのアジア進出計画に待ったをかけたのが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領である。これではNATOに付託された権限が本来の焦点からあまりにもかけ離れてしまうと主張するエリゼ宮高官は、「NATOとは、北大西洋条約機構という意味だ」と言い、北大西洋条約第5条と第6条は「地理的なもの」だと言い加えた。その後、NATOは、コミュニケから東京事務所への言及を削除した

また、米国が待ち構えていたかのように、貿易、金融、そして国際通貨としてのドルの役割を兵器化するという問題もあり、手段を選ばず他国の体制を変更してきた歴史もある。西側の大国が国際金融・ガバナンス構造における優位性を兵器化しようとしていることを、今や、他の多くの国々は自国の主権と安全保障に対する脅威と認識している。

2009年8月3日にブリュッセルで開かれた記者会見で、ラスムセンは、NATOが「自由、平和、安全保障という共通の価値を守る民主主義国のコミュニティーで」あり、「いまだかつてないほど多くのことを、多くの場所で行っている」と述べた。しかし、その対象と影響の範囲をアジアや太平洋まで拡大しようという夢は、失地回復を狙う新植民地主義的な考え方の最新の表れといえるかもしれない。

第1に、1949年にNATOが設立されたとき、ポルトガルは民主主義国家ではなかった。第2に、欧州で最も長い歴史を持つ民主主義国家の全てがNATOに加盟しているわけではない。スイスは、その中立性を用心深く守っている。とはいえ、北大西洋地域におけるほぼ全ての民主主義国家がNATO加盟国であることは事実である。

また、NATO加盟国の全てが植民地支配の過去を持っているわけではない。しかし、歴史的に植民地支配を行った欧州国家は全てNATOの加盟国であるということも事実だ。アルファベット順に言うと、ベルギー、フランス、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペイン、英国である。多くの西側諸国は今、自国の歴史、銅像、博物館、教育課程を脱植民地化し、浄化して、植民地支配の罪の残滓と残響を取り除くことを求める声に揺れている。それなのに、安全保障分野ではインド太平洋に集団で乗り込み、植民地主義の記憶を呼び起こすリスクを冒そうというのは何とも奇妙なことだ。2021年9月にAUKUSが初めて発表された段階で、インド太平洋の運命は自分たちが決めると言わんばかりの3人のアングロサクソン国家の古臭くて生白い男性リーダーたちは、十分に印象を悪くしたではないか?

ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長、および戸田記念国際平和研究所の上級研究員を務める。「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。

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