地域アジア・太平洋核の安全を導く:印パミサイル誤射事件の教訓

核の安全を導く:印パミサイル誤射事件の教訓

【イスラマバードLondon Post=マジッド・カーン】

2022年3月9日、インドからパキスタン領内に誤ってミサイルが発射される事件が発生したことで、歴史的に対立してきたこの両国間の核を巡る安全と外交の不安定な状況に国際的な懸念が高まった。この事件では死傷者は出なかったものの、核保有国間の破滅的な誤算の可能性を浮き彫りにした。南アジアにおける安定が壊れやすい状況にあること、こうした過誤が全面紛争へエスカレートするのを予防するためには警戒と意思疎通を怠らず行うことが必要であることを、今回の事件は警告している。

印パ関係の背景

インド・パキスタン関係は、後者が前者より分離独立した1947年以来、根深い緊張と紛争に特徴づけられてきた。対立の起源は、領土紛争や宗教的な差異、政治的角逐にあり、その後の数十年で数回の戦争につながってきた。

核兵器の存在は、印パ関係に複雑な抑止的構造を植え付けてきた。「相互確証破壊」は理論的には、他方に対し先制核攻撃をした場合、被攻撃国の破壊を免れた残存核戦力によって確実に報復できる能力を保証することで直接的な紛争を防ごうとする態勢である。しかし、これは軍拡競争と双方の軍国主義化にもつながっており、両国は定期的に弾道ミサイルの実験を行い、軍事演習を実施して軍事力と決意を誇示している。

和平協議や条約交渉など、関係正常化に向けた外交的な試みが何度か行われたにもかかわらず、1999年のカーギル戦争や2008年のムンバイ同時多発テロなど、両国はしばしば軍事的エスカレーションの瀬戸際に立たされてきた。

2022年ミサイル誤射事件の詳細

インドは2022年3月9日、ブラモス巡行ミサイル(インドとロシアが共同開発)をハリヤーナー州シルサから誤射し、パキスタン領内パンジャブ州カネワルのミアン・チャヌに着弾した。ミサイルには弾頭は搭載されていなかったが、定期メンテナンスの際の技術的不具合によって誤射されたとされている。

パキスタンは事件に関する説明を繰り返し求めたが、インドが回答するまでに2日かかった。その間インドは、両国合同の調査ではなく、インド単独での内部調査を行うことを選択した。インド国防相は事件を「誤射」と呼び、インド空軍少将率いる調査の結果、空軍大尉が誤射の責任を問われた。

直後の状況

この2022年の誤射に対する国際的な反応は素早く、主要な大国や国際機関が懸念を表明し、包括的な調査と、両国による軍事作戦の透明性向上を求めた。この事故は、核保有国の軍事兵器に関わる不始末や事故の危険性について、国際社会に警鐘を鳴らすものとなった。

印パ両国間関係は事件によって一時的に緊張が走った。事件後、活発化した外交チャンネルは、危機の際にオープンで信頼できるコミュニケーションラインを維持することの重要性を浮き彫りにした。

意思疎通戦略の分析

2022年のミサイル誤射事故は、核保有国間の危機管理におけるコミュニケーション戦略の重要性を浮き彫りにした。いかなる状況下でも効果的に機能する強固でフェイルセーフな意思疎通メカニズムの必要性が明白となった。効果的な意思疎通は、危機管理に役立つだけではなく、長期的な信頼醸成にも意味を持つ。

戦略的教訓

ミサイル誤射事件は、インドやパキスタン、国際社会にいくつかの戦略的教訓をもたらした。第一に、このようなミスを予防するために各国軍隊内での厳格なチェック・アンド・バランスが必要であることが浮き彫りになった。

第二に、紛争へのエスカレーションを抑制する危機管理手続きの重要性があらためて明白になった。これらの手続きは、技術的な進化や政治状況の進展に応じて常に再考される必要がある。

最後に、今回の事故は国際的な核不拡散と安全基準にも影響を与える。核武装した隣国同士が歴史的に対立関係にある地域では、国際的な監視と協力的な安全対策が有益であることを再認識させるものである。

今後の政策に向けて

この2022年の事件は、インドとパキスタン両国の今後の政策の方向性に重要な示唆を与えている。国内的には、両国とも軍に対する監視を強化し、戦力を管理する安全技術への投資を進めねばならないだろう。国際的には、こうした事件が国際危機へとエスカレートしていかないように、核安全手続きに関して協力を強化する必要がある。

ベストプラクティスを共有し、共同訓練を実施し、危機発生時にリアルタイムで意思疎通を図るためのフォーラムとして機能する二国間核リスク削減センターを設立することにも一考の余地がある。さらに、定期的な二国間または多国間協議(場合によっては国連のような国際機関の後援を受ける)を行うことで、状況の誤認や偶発的なエスカレーションのリスクを低減する対話と関与の枠組みを確立することができる。

さらに、これらの政策を核保安や危機管理に関する国際協定によって下支えすることも可能だろう。この協定には、透明性の確保、定期的な査察、リスク管理に関する共同訓練などの条項を盛り込むことができる。このようなイニシアチブは、地域の安全保障を強化するだけでなく、核保有国が事故を防止し、潜在的な危機を効果的に管理するための強固なメカニズムを確保することで、世界の安定にも貢献するだろう。

結論

2022年のミサイル誤射事故は、核武装した状況で平和と安全を維持するために必要な絶妙なバランスを痛切に思い起こさせるものだった。この事件は、危機管理における短期的な教訓と、長期的な安全・安定措置に対する戦略的洞察の両方をもたらした。この事件に学ぶことで、印パ両国は、その軍事力をよりよく管理し将来的な危機を予防するための政策と手続きを強化することができる。(原文へ

※著者のマジッド・カーンはメディア学の博士で、ジャーナリスト、学者、作家である。プロパガンダ戦略、情報戦争、イメージ構築の分析を専門とする。

INPS Japan/London Post

This article is brought to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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