INPS Japan/ IPS UN Bureau Report米国、マレーシアと戦略的民生原子力協定に署名 アジア太平洋地域での安全保障同盟構想も進行

米国、マレーシアと戦略的民生原子力協定に署名 アジア太平洋地域での安全保障同盟構想も進行

【国連発IPS=タリフ・ディーン】

米国は現在、アジア太平洋地域において、32か国が加盟する長年の集団防衛条約「北大西洋条約機構 (NATO)」にならった、正式または非公式の安全保障同盟の創設を検討している模様である。この構想が実現すれば、新たな同盟には日本、韓国、オーストラリアに加え、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムから成る10か国の東南アジア諸国連合 (ASEAN) 加盟国などが含まれる見通しだ。

米紙「ニューヨーク・タイムズ」は先月、ピート・ヘグセス米国防長官の発言として「米国のインド太平洋地域の同盟国・パートナーへの関与を疑う者はいないはずだ。我々は友好国を包み込み、ともに協力する新たな方法を見出し続ける」と報じた。ヘグセス長官はまた、インド太平洋は「米国が安全保障同盟において混乱よりも継続性を重視する地域だ」と述べている。

米国防総省でインド太平洋安全保障問題を担当した元次官補のエリー・ラトナー氏も、外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、米国とアジアの同盟国がNATO型の集団防衛条約を結ぶべきだと提案している。

新たな同盟は、主に同地域の2つの核保有国、中国と北朝鮮への防護盾となることを目的としている。世界には9つの核保有国が存在するが、そのうち4か国 (インド、中国、パキスタン、北朝鮮) がアジアに集中している。米国、英国、フランス、ロシア、イスラエルはアジア以外の核保有国である。

一方、オーストラリア、英国、米国による三国間安全保障パートナーシップ「AUKUS」は、「自由で開かれ、安全で安定したインド太平洋」の促進を目的としている。

ヘグセス長官の地域訪問に続き、マルコ・ルビオ米国務長官も訪問を行った。ルビオ長官は7月10日のクアラルンプールでの記者会見で「就任直後の最初の会合は日本、韓国、インドとのものだった」と振り返り、「その後も何度もこのグループで会合を重ね、日本のカウンターパートとは8~12回会っており、もはやお互い自分の家族より会っていると冗談を言い合う仲だ」と語った。

米国務省のタミー・ブルース報道官は、ルビオ長官がASEAN関連の外相会合や二国間会談のためクアラルンプールを訪れ、「自由で開かれ、安全なインド太平洋」への米国の揺るぎない関与を再確認したと説明した。

ルビオ長官はASEAN・米国ポスト閣僚会議に出席し、アンワル・マレーシア首相やマレーシア、ロシア、日本、フィリピンの外相と会談した。インド太平洋地域は世界の経済成長の3分の2を占め、米国外交政策の中心的焦点であり続けていると述べた。

また、ルビオ長官はマレーシアとの間で民生用原子力協力に関する覚書に署名し、最高水準の安全性・セキュリティ・不拡散基準の下での協力推進を確認した。現在、「123協定」に向けた交渉が進行中で、これが締結されれば、平和目的での原子力資材や機器の移転が可能となり、エネルギー・安全保障・経済分野での二国間関係がさらに深まることになる。

米原子力法第123条は、米国から他国への重要な核資材や機器の移転に際して、平和目的の原子力協力協定の締結を義務付けている。こうした協定 (通称「123協定」) は、技術交流、科学研究、保障措置に関する協議など、他の分野での協力も促進する。核不拡散条約 (NPT) と併用され、米国の不拡散原則を推進する法的枠組みを提供する。

パートナー国が123協定を結ぶには、厳格な不拡散要件を満たす必要がある。米国務省が交渉を担当し、エネルギー省 (DOE) や国家核安全保障局 (NNSA)、原子力規制委員会 (NRC) と協議しながら進められる。現在、約25か国が米国との123協定を有効にしている。

しかし、この安全保障同盟構想には、より軍事色の濃い見方もある。

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学公共政策・世界問題大学院のM.V.ラマナ教授(軍縮・地球・人間安全保障担当シモンズ講座)はIPSの取材に対し、「もし新たな枠組みができれば、軍事化の傾向がさらに強まり、とりわけ中国との戦争リスクが高まり、気候変動対策など緊急の課題から資金が奪われる」と警告した。

さらに、「設立されれば、米国政府は加盟国に米国製の高価で破壊的な兵器を購入させ、米国の政策決定における軍需産業の影響力を強化し、それが米国内の社会状況をさらに悪化させるだろう」と指摘した。

ルビオ長官は「米国がインド太平洋や東南アジアから目をそらすことはあり得ない」と強調し、「21世紀の物語の多くがこの地域で書かれ、今後25~30年で世界経済成長の3分の2がここで生まれる」と述べた。東南アジア諸国は世界でも最も若い国々の一部であり、労働市場の急拡大が見込まれているとし、「これは一世代に一度の歴史的機会であり、経済的変革だけでなく米国との関係強化にもつながる」と語った。米国企業6,000社以上が過去20~30年にわたり同地域経済に大規模投資を行っており、この関係を維持・発展させる意向を示した。

国連条約局元局長で、前スリランカ駐中国大使のパリタ・コホナ氏は、中国は核兵器を保有しているが「先制不使用」政策を採っており、北朝鮮も攻撃抑止を中心とした政策を取っていると指摘。その上で、「東アジアや東南アジアでNATO型の抑止同盟を推進するのは過剰に思える」と述べた。

また、中国の海外基地はジブチの1か所のみで、北朝鮮には海外基地は存在しない。両国とも自国外に軍事要員を派遣していない一方で、米国は中国周辺に数千人規模の軍事要員を配備しているとし、「対中戦略の一環として米国がアジアに軸足を移してきた」と述べた。

コホナ氏は「意図的にあおられたものを含む、現実・想像上の緊張を緩和する最善策は、当事者間の対話を促すことだ。人類の進歩には紛争ではなく平和が必要だ」と強調。「途上国のインフラ整備、気候変動対策、極度の貧困撲滅を促進し、世界をより良くする同盟こそ必要である。過去の米国の軍事介入は平和をもたらさず、むしろ各国の発展を阻み、多くの戦闘員・民間人の死傷を招いた」と指摘した。

また、ルビオ長官は日米関係について「我々は日本との間に非常に強固なコミットメントと同盟関係を持ち、緊密に協力している。現在も日米間で共同訓練が行われている」と述べ、日本の自衛能力強化についても「憲法の枠内であれば支持する」とした。

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