【セビリア&ブバネシュワルIPS=マニパドマ・ジェナ】
干ばつは静かに進行するが、その影響は他の自然災害を凌ぐほど深刻かつ広範囲に及ぶ。気候変動がもたらす干ばつと、干ばつにより貧困に陥った地域社会が交差する地点では、共同体間の対立、過激派による暴力、そして女性や少女に対する不正義が顕在化している。

エチオピア、ソマリア、ケニアでは、2023年まで5年連続で雨季の降水量が著しく不足し、アフリカの角は過去70年で最悪とされる干ばつに見舞われた。ソマリア政府によれば、2022年だけで干ばつに起因する飢餓により43,000人が命を落としたと推定されている。
2025年初頭の時点で、ソマリアの人口の4分の1に相当する約440万人が深刻な食料不安に直面しており、うち78万4000人は「緊急」レベルに達すると見られている。東部および南部アフリカ全体では、9000万人以上が極度の飢餓に陥っている。
国連砂漠化対処条約(UNCCD)と米・国家干ばつ緩和センター(NDMC)が共同でまとめた報告書『2023~2025年 世界の干ばつホットスポット』が、第4回開発資金国際会議(FfD4)にあわせて発表された。報告書によれば、2023年および2024年の高温と降水量の減少により、水不足、食料供給の逼迫、電力の配給制限といった深刻な影響が生じている。
報告書は、アフリカ(ソマリア、エチオピア、ジンバブエ、ザンビア、マラウイ、ボツワナ、ナミビア)、地中海地域(スペイン、モロッコ、トルコ)、ラテンアメリカ(パナマ、アマゾン流域)、東南アジアにおける干ばつの影響を分析し、人間社会のみならず、生物多様性や野生動物への影響も包括的に評価している。
限界に達する人々、暴力の連鎖へ
「今回の干ばつで人々の対応は極めて切迫していた」と、報告書の主任執筆者であるNDMCのポーラ・グアステロ研究員は語る。「少女が学校を辞めさせられ結婚を強いられ、病院は停電し、家族は干上がった川床に穴を掘って汚れた水を探していた。危機の深刻さを物語る事例だ」。

2022年、ソマリアでは100万人以上が家族や家畜のための食料・水・収入源を求めて移動を余儀なくされた。移動は零細農民や牧畜民にとって重要な対処手段である一方、移住先では資源への圧力が高まり、対立や衝突の火種となることもある。
多くの避難民が、イスラム過激派の支配地域へと流入した。ある研究によれば、サブサハラの干ばつ被災地では、経済活動が8.1%低下し、過激派による暴力は29.0%増加したという。干ばつが長期化するほど、暴力の深刻度も高まる傾向にある。
干ばつは、何年にもわたり気候災害にさらされ脆弱化した地域や社会において、過激派による暴力の「増幅装置」となり得る──。そう警告するのは、報告書の編集者であるUNCCDの干ばつ専門家、ダニエル・ツェガイ氏だ。
気候変動による干ばつは、過激派の台頭や内戦を直接引き起こすわけではないが、既存の社会的・経済的な緊張を悪化させ、紛争の素地をつくり出すことで、結果的に過激化を助長することになる。
その影響は間接的ながら、深刻かつ広範囲に及ぶ。たとえば、2006年から2011年にかけてシリアで発生した900年ぶりの大干ばつは、農作物の壊滅や家畜の大量死を招き、農村部の人々が都市に移住することで社会的・政治的緊張が高まった。経済格差と抑圧の中、過激派が困窮する人々を取り込んで勢力を拡大した。
報告書では、ジンバブエの一部地域で、飢餓と教育費負担によって多数の児童が中途退学していることも報告されている。約25ドルの授業料や制服代を支払えない家庭が増え、子どもたちが家族と共に移住して働くケースが目立つ。
空腹と絶望が過激派の標的に
将来への展望を失い、飢えに苦しむ子どもたちは、過激派にとって格好の標的だ。報告書は、アルカイダ系のイスラム過激派アル・シャバブがソマリア国内で人道支援の流入を阻み、人々が支配地域から脱出することすら禁じた事例を挙げている。
また、アフリカの遊牧民社会では、干ばつ時の放牧地や水源をめぐる暴力的衝突が後を絶たない。2021年から2023年初頭までに東アフリカだけで450万頭以上の家畜が死亡し、さらに3000万頭が危機にさらされた。2025年2月時点では、数万人の牧畜民が水と食料を求めて移動しており、受け入れ地域との間で衝突が懸念されている。
「干ばつには国境がない。暴力と紛争は、経済的に豊かな地域にも波及する可能性がある」とツェガイ氏は述べる。干ばつへのレジリエンス(強靭性)構築は、安全保障上の喫緊の課題だと専門家は繰り返し訴えている。
最も重い代償を払うのは女性と少女
「現在、干ばつの影響を受けている人々の約85%は低・中所得国に暮らしており、その中でも特に女性と少女が深刻な被害を受けている」と、UNCCDのアンドレア・メサ副事務局長は指摘する。
「干ばつは国境を越えるが、ジェンダーを選ぶ」とツェガイ氏は語る。伝統的な性別役割や社会構造の不平等により、女性と少女は干ばつによる混乱の中で最も脆弱な立場に置かれている。
2023年から2024年にかけて、干ばつの影響が最も大きかったサブサハラの4地域では、児童婚の件数が2倍以上に増加した。少女が結婚すると、最大3000エチオピア・ブル(約56ドル)の持参金が家庭にもたらされ、家計の負担軽減につながるためだ。
しかし、児童婚は少女に重大なリスクをもたらす。エチオピアでは児童婚が法律で禁じられているにもかかわらず、結婚生活で性的・身体的虐待を受けた少女たちのために、専門の医療機関が設けられている。結婚とともに少女たちは教育を断念せざるを得なくなり、経済的自立の道が閉ざされる。

干ばつによる水不足が深刻化する中で、一部の女性は食料や水、金銭と引き換えに性行為を強いられるケースもある。また、水力発電に依存する地域で長時間の停電が続くと、女性や少女が何キロも歩いて水を汲みに行かねばならず、移動中に性暴力に遭う危険が高まっている。
「干ばつへの能動的な対応は、気候正義の実現に不可欠だ」とメサ氏は強調する。
干ばつは“新たな日常”、備えが不可欠
「干ばつはもはや遠い将来の脅威ではない。すでに目の前で進行しており、国際的な緊急対応が求められている」と、UNCCDのイブラヒム・ティアウ事務局長は述べる。「エネルギー、食料、水のすべてが一度に失われれば、社会は崩壊する。それが“新たな日常”だ」。

NDMC創設者で報告書の共著者でもあるマーク・スヴォボダ氏は、「これは私が見てきた中でも最悪の、ゆっくりと進行する世界的災害だ」と述べる。「本報告書は、干ばつが生活、生計、そして我々が依存する生態系に与える影響を、体系的に監視・分析する必要性を明らかにしている」。
スペイン、モロッコ、トルコなど、長期的な干ばつのもとで水・食料・エネルギーの確保に苦慮する各国の現状は、温暖化が制御されなかった場合の「水の未来」を予見させる。「どの国であれ、もはや干ばつに対して無関心ではいられない」とスヴォボダ氏は警告する。
2025年の『世界干ばつ見通し』は、現在の平均的な干ばつの経済的損失が2000年比で最大6倍に達し、さらに2035年までに少なくとも35%増加すると予測している。
「干ばつ対策に1ドルを投資すれば、GDPへの損失のうち7ドル分が回復できるとされている。干ばつと経済の関連性を理解することは、政策立案において極めて重要だ」とツェガイ氏は述べた。
この報告書は、セビリアで開催された国際干ばつレジリエンス連合(IDRA)の会合にあわせて発表された。干ばつへの対応を各国の政策および国際協力の優先課題とし、資金と行動の強化を促すことを目的としている。(原文へ)
INPS Japan
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