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|軍縮|広島原爆記念への準備が進む

【東京IDN=浅霧勝浩】

核廃絶はまだ近い将来に実現しそうな状況ではない。しかし、米国、英国、フランス(米英仏)の3カ国は、明らかに広島・長崎への原爆投下65周年を、今日起こっているパラダイムシフトを世界に印象付ける適切な機会と捉えているようだ。 

これらの核保有3カ国は、1945年の広島原爆投下の死没者を慰霊するために毎年8月6日に開催される平和記念式典に、今年初めて政府高官を参列させる予定である。

Photo: Hirohima Peace Memorial Park. Credit: Wikimedia Commons
Photo: Hirohima Peace Memorial Park. Credit: Wikimedia Commons

 また潘基文国連事務総長も、8月5日に長崎市、そして翌日6日に広島市を訪問し、同地で原爆の犠牲となった韓国人被爆者らの慰霊碑を訪れる予定である。潘氏はまた、6日には歴代国連事務総長としては初めて、広島平和記念式典に参列し、続いて広島平和記念資料館を訪問する予定である。 

日本の毎日デイリーニューズは、7月30日付の電子版でこうした動きに対する日本の全般的な感情を反映して、「心強い動きである。米英仏と国連事務総長の決断をたたえ、参加を心から歓迎したい。」と報じた。 

米英仏はいずれも日本と友好関係にあるが、先の第二次世界大戦においては(日本と戦い原爆を投下した)連合国側に参加していたことから、これまで広島平和記念式典に代表を参列させることを控えてきた。 

「また米国政府関係者の間には、広島、長崎への原爆投下が日本の降伏を促し、米兵ら『100万人の命が救われた』などの主張が依然として根強い。また米国社会には日本軍による真珠湾攻撃を「卑劣」とする怒りもある。さらに核保有国の米英仏と日本とでは核兵器についての見解も異なる。」と同紙は報じた。 

 しかし2009年4月に「核兵器なき世界」に言及したバラク・オバマ大統領のプラハ演説が、流れを変える転機となった。オバマ大統領は演説の中で、米国は核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する「道義的責任」があると述べた。 

「オバマ大統領の演説は、将来における(核のない世界という)究極の目的に人々の目を向けさせ、日米間に横たわる当時の原爆使用についての感情的な相違を緩和する効果をもたらした。おそらくこのことが、核問題で協調姿勢をとってきた米英仏3国の初の広島平和式典参加につながったのではないか。そして、こうした流れは2009年10月にジョン・ルース駐日米大使が広島原爆慰霊碑に献花したことからもうかがえる。」と同紙は報じた。 

この画期的な原爆投下65周年の節目となる8月6日の平和記念式典を前に、7月27日から29日にかけて「2020核廃絶広島会議」が開催された。この3日間に亘る会議は平和市長会議(核なき世界を実現するという共通の目標のために団結した4000以上の都市の市長と自治体関係者からなる国際機構)が主催したもので、関心をもつ市民に加えて、市民社会組織、自治体、各国政府の代表が参加した。 

潘事務総長は参加者へのメッセージの中で、「明確にしておきたいのは、安全を保証し、核兵器の使用から逃れる唯一の方法は、それを廃絶することなのです。」と述べ、核廃絶こそ全ての人々に安全を保障する最良の方策である点を強調し、核廃絶に向けた地球規模の努力をさらに進めるよう訴えた。 

「核軍縮・廃絶は夢だと片付けられることが多いが、核兵器が安全を保証するとか、一国の地位や威信を高めるとかいった主張こそが幻想なのです。国家がそうした主張をすればするほど、他の国も同じような態度をますますとるようになります。その結果、すべての国が危険に陥ることとなるのです。」と潘事務総長は語った。 

また潘事務総長は、「核兵器廃絶を達成するための平和市長会議が提唱する『2020ビジョン運動』の予定表はとくに重要です。また私は、広島・長崎の原爆を生き残った『被爆者』として知られる方々が、自分たちの体験した核兵器の恐怖を世界に語ろうと決意したことを深く称賛します。」と述べ、さらに、「すべての指導者、とくに核兵器国の指導者に対し、1945年の原爆投下で瓦礫と化した経験を持つ広島と長崎を訪ね、核戦争が引き起こした激烈な現実をじかに見るよう強く求めます。」と語った。 

核兵器廃絶への5項目計画 

Ban Ki-moon/ UN Photo
Ban Ki-moon/ UN Photo

潘事務総長は、メッセージの中で、核兵器廃絶へ向けた具体的なアプローチとして2008年10月に自身が提唱した「5項目計画」について言及した。その計画はまず、NPT加盟国に対して、新たな条約或いは強力な検証システムに裏打ちされた相互補強的な枠組みを通じて、核軍縮に関する交渉を進めるよう求めている。 

また国連安全保障理事会に対して、軍縮プロセスにおいて安全保障を強化するための他の方策を検討するよう求めている。具体的には、①法の支配、説明責任および透明性の強化。②核兵器以外の大量破壊兵器の廃棄を進めること。③ミサイル、宇宙兵器、通常兵器の制限等である、これらは全て、核のない世界を構築するためには必要不可欠な措置である。 

平和市長会議が主催した「2020核廃絶広島会議」は、この国連事務総長による5項目計画を支持し、全ての政府に対して、2020年までに核兵器を廃絶するための核兵器禁止条約(NWC)の締結に向けて、即時交渉を開始することを強く呼びかけている。 

「この目的を達成するために、包括的な法的プロセスへの支持を表明している各国政府は、志を同じくするNGOと協力し、NWC締結に向けた交渉を促すために2011年に特別核軍縮会議を開催すべきである。」と市長たちは訴えた。 

包括的核実験禁止条約(CTBT) 

また市長たちは、全ての政府に対し、核兵器及び関連基幹施設の開発、実験、製造、近代化、配備、使用を中止するよう要求した。 

「この点に関しては、各国が、包括的核実験禁止条約(CTBT)を緊急かつ無条件に発効させるようさらなる努力をすべきである。CTBT の発効にその署名と批准が必要な未加盟の9カ国には特に責任がある。」 

また市長たちは、「『非核兵器地帯条約の議定書』の発効にも尽力すべきであり、その責任は核保有国にある。」とし、各国政府に対し、核兵器及び軍関連支出を大幅に削減し、その予算を市民の便益及び環境保全の目的に利用することを求めた。 

「私たちは、米国議会に対し『核兵器施設や核兵器システムの近代化目的の支出を停止し、核兵器プログラムに関する支出を冷戦時代レベルよりも遥かに引き下げ、それらの予算を各都市の直面する緊急課題へ配分すること』を求めた全米市長会議を高く評価します。この目的達成のため、地方自治体や各国政府及び市民は、核兵器を支援したり核兵器による恩恵を享受している事業体への投資引き上げを検討することができる。」 

また市長たちは、核兵器の共有を合意している、又は核の傘に隠れている全政府に対し、軍事並びに安全保障の理念、概念、方針から核兵器を排除、拒絶することを要求した。 

さらに市長たちは、各国政府に対し、核兵器開発の直接的又は間接的な援助となるような核関連輸出を行わないことにより、NPT に基づく核拡散防止の責務を果たすことを要求した。 

そして唯一の被爆国として核兵器廃絶の先頭に立つと明言した日本政府に対しては、「一例としては、広島や長崎へ各国、特に核保有国の首脳を招致し、各国政府やNGO が、核兵器が人類にもたらすであろう未来について議論し、これらの兵器廃絶に求められる緊急性を認識し、核兵器禁止条約実現に向けて協力する会議を開催することが可能である。」と述べ、日本政府が目的達成に向けて積極的に行動することを求めた。 

また各国政府及び国連に対しは、再検討会議の最終文書に明記された核軍縮教育を広く実施するよう求めた。そしてその内容については、「広島・長崎の被爆の実相と被爆者のメッセージを正しく伝え、若者たちの批判的思考能力、指導力及び核兵器廃絶に向けた信念を育てるものでなければならない。」と記されている。 

「またこのような教育は地域、家庭、学校、職場、及びコミュニティにおいても行われるべきである。」同会議はまた、「核兵器に関する情報を次世代に正しく伝える革新的手段を開発する必要性」を訴えている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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