【ワシントンIPS=キャリー・L・バイロン】
米国科学者連盟(FAS)は、12月17日、米国とロシアは冷戦真っ只中の時期からは核兵器の数をかなり減らしてはいるものの、削減ペースは鈍化している、と警告した。
さらに、これら二国で世界の核兵器の90%以上を占めている。これは、他の7つの核兵器国の合計の15倍にもあたる。
FAS核情報プロジェクトのハンス・M・クリステンセン氏は17日、「核戦力削減のペースは、以前の20年に比べて鈍化しているようだ」と指摘した上で、「米国もロシアもさらなる削減には慎重で、削減された核戦力の『ヘッジ』と再構成をより重視しているようだ。これからの10年では、核戦力近代化に多大な資源が投入されることになる。」と語った。
クリステンセン氏の手になる核軍縮の次の10年を占うFAS最新レポートによると、1991年以来、米国は核兵器を約1万9000発から4650発まで削減した。これに相応するロシアの削減数に関する公的なデータは存在しないが、FASの推定では、削減幅はより大きく、3万発から4500発にまで減ったとされる(もっとも両国では、さらに1万6000発が解体待ちとなっている)。
これらは8割近い減少であり、米国とロシアが非戦略(短距離)核をそれぞれ85%と93%削減したことにも表れている。
こうした数は国際交渉と関与の大きな成功ではあるが、このような動きを長期的に追うことは「あまり興味を呼ばず、意味のないもの」になりつつあるとFASの研究者は述べている。
新戦略兵器削減(START)条約というあらたな二国間条約が2011年に米ロ間で発効したものの、合意による2018年の期限までに削減される両国の配備戦略核は今日の数よりも「わずかに少ないだけ」にとどまるという。しかも、新条約はその3年後に効力が切れる。
この新しいデータから引き出されることは、あらたな核兵器削減条約を二国間で結ぶか、各国が単独で核削減を進める必要があるということだ。もしこのうちどちらも起こらないとすれば、「巨大な核戦力が将来にわたって長く保持されかねない。」
再選されたバラク・オバマ大統領に対して、クリステンセン氏は、「核軍備管理を外交政策の一部に明確に据えること」を求めている。また、米国の債務と政府支出をめぐる泥沼の議論が政治の中心を占める中、米国が一方的に核削減を進めるよい機会であるかもしれないと示唆している。
FASの報告書を支持するワシントンの平和・安全保障関連団体「プラウシェア財団」によると、米国は、今後10年で6400億ドルを核兵器関連に費やす予定だという。
核兵器なき世界
オバマ大統領は、第一期開始直後の2009年4月、核兵器が存在し続けることは「どの場所にいるどの人間にとっても関係のあることだ」という、力強いスピーチを行った。
ほんの数か月前に大統領に着任したばかりのオバマ氏は、この点において米国は特別の責任を有していると認めた。「核兵器を使用した唯一の核大国として、米国には行動する道義的責任がある……。したがって、今日、私は明確に、そして確信を持って、アメリカは核兵器なき世界の平和と安全保障を追求することを約束すると述べたい。」
その後の4年間にワシントンでこの点に関連して起きた立法的動きは限られたものだったが、中でも最重要だったのは、新STARTの批准である。しかし、クリステンセン氏らは、米議会が依然として包括的核実験禁止条約を批准できていない状態では、この成果すら「控えめ」なものにすぎないとしている。
しかし、先日の大統領選後、オバマ大統領は、軍縮の動きを新たに先に進めることに大きな関心を寄せ続けていると示唆する発言を行っている。12月初め、選挙以後としては初となる外交政策に関する演説で、過去の核削減の成功にもかかわらず、米国は「決して、何かを成し遂げたとは言えない。」と述べた。
またオバマ大統領は、「ロシアは、現在の協定は両国の変化する関係に追いついていないと主張している。それなら我々はこう言う、ならば合意をよりよいものにしようではないか」と述べた。
軍備管理協会(ワシントンの市民団体)のダリル・キンボール会長は、IPSにメールで寄せた分析で、こうしたオバマ大統領の発言は「(同大統領が)核リスク削減という未完の任務を達成するつもりであるとの重要なシグナルを、彼の国家安全保障チームや米議会、米市民、世界に対して送るものだ」と述べた。
「オバマ大統領は、大胆な措置を取ることで、世界の核の危険を大幅に削減し、包囲された核不拡散システムを強化し、永続的な核安全保障の遺産を確立することができるかもしれない。」
このところ、オバマ大統領がこうしたスタンスを取るべきだとの主張がワシントンで高まってきている。つまり、ロシアとの新協定に進むと同時に、米国が自らの核戦力を削減する一方的な動きを起こすということである。しかし、このどちらの面においても、見通しは明るくない。
カーネギー国際平和財団(ワシントンのシンクタンク)の最近の政策分析によれば、米国の軍備管理問題は「冷戦終焉以来もっとも党派間対立が厳しくなっている」という。分析の責任者であるジェイムズ・M・アクトン氏は、「核兵器なき世界」というオバマ大統領の中心的な目標に共和党勢力が同意していないためだとしている。
さらに、オバマ大統領が米国の対ロ政策を「リセット」しようとの有名な方針があったにもかかわらず、米国が欧州においてミサイル防衛システムを構築しようとしていることにもみられるように、米ロ関係はこの数カ月でますます停滞している。
この約40年で初めて、米議会がロシアとの貿易関係を正常化しようという大きな動きがあるが、それもまた、ロシアの人権問題を非難する懲罰的な立法の計画によって、効果が打ち消されようとしている。
ロシア政府のこれに対する反応は厳しいもので、米国への報復を口にし、法案は「二国間協力の見通しに悪影響を与えるもの」だと主張している。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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