ニュース国連のビジョンの実現:新たな平和構築への道筋

国連のビジョンの実現:新たな平和構築への道筋

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョーダン・ライアン】

今日の世界は、気候変動という存亡の危機から、冷戦時代を彷彿とさせる地政学的緊張の高まりに至るまで、複雑に絡み合ったグローバルな課題に悩まされている。シリアやイエメンのような国々では、国内で破壊的な紛争が激化し、米国、中国、ロシアなどのグローバルな大国間の敵対心と対立は、国際レベルの機能不全をしばしば引き起こす。それと同時に、パンデミックや大量移民、社会的分極化、経済危機といった真にグローバルな問題は、世界中で人間の安全保障を深刻に脅かし続けている。(

国連安保理を中心とする第2次世界大戦後の国際構造は、この目まぐるしく相互に関連し合う多くの現代の脅威に、効果的に対応出来ないことが多い。安保理における常任理事国5カ国間の力関係とその膠着が安保理行動をしばしば妨げ、正統性を損ない、その効力を制限している。より包括的で代表的なグローバルリーダーシップは、歴史上、危機的な今この時に不可欠である。

このような状況の中で、アントニオ・グテーレス国連事務総長が提案した平和のための新たなアジェンダの中心テーマは、的を絞った改革を取り入れ、積極的な多国間行動への新たなコミットメントを取り込むことで、国連は時代遅れの様式を乗り越える進化を遂げ、現在の課題に対応できる、より汎用性が高くレジリエントな21世紀の国際構造を実現できるというものである。加盟国が事務総長の提案を検討する際には、以下の要素に取り組むべきである。

対立が暴力に発展する前に介入するためには、予防と調停の能力を急ぎ強化する必要がある。予防行動における国連の遅れは、現在進行中のウクライナ戦争を見れば明らかである。そこでは初期段階における調停が欠けていた。このような悲劇を避けるためには、速やかに予防に投資することが不可欠である。加盟国は、予防に充てる資金と人員を増やすとともに、これらの平和的手段を補完するために防衛資源をどのように戦略的に振り向けることができるかを模索すべきである。専門家による調停チームの支援を受け、権限を与えられた上級特使を任命することが賢明である。また、現地の常駐調整官が、進展を促進し、平和を確実に維持するための現地の調整努力を主導するための十分な資源を確保することも重要である。

迅速な集団行動が必要な場合は、意思決定プロセスの合理化が不可欠である。常任理事国5カ国は、重要な人道問題に関して拒否権を行使することを自制すべきである。常任理事国枠の拡大を含め、理事会改革を公平に進めることは、今後の正統性と有効性のために引き続き不可欠である。妥協と合意への動機付けは、分断が生じた際に、行き詰まりを克服するのに役立つ。

予防に軸足を置くことは賢明だが、現在進行中の対立を解決するための具体的な措置も当然ながら不可欠である。創造的な外交と理事国間の溝を埋めることは、最も深刻で難解な危機に対処する上で、今後も重要である。非武装の文民平和維持活動にさらに投資することで、手薄に広がる国連平和活動を補うことができる。

国連の時代遅れの多国間構造を更新することは、制度改革と運用上の俊敏性の両方を必要とする反復的なプロセスとなる。調停チームに多様性を取り入れることで、予防の取り組みに新たな視点やスキルを取り込める。早期警報システムのような技術を活用すれば、現場での効果を高めることができる。地域組織、市民社会ネットワーク、民間部門とのパートナーシップを育むことで、能力を倍増させることが可能である。

結論

30年前の1992年、ブトロス・ブトロス=ガリは、冷戦後の地政学的な激変の中で、最初の平和のためのアジェンダを発表した。今日、世界の力学は新たな変化を遂げている。国家間の対立が再燃し、世界はますます多極化し、国連が危機に対応できるのか、またどのように対応するのか、その可能性が深刻に損なわれている。

新たなアジェンダの成功は、硬直的で伝統的な形式から、より適応的で包括的な平和構築への移行にかかっている。そのためには、多国間主義への持続的なコミットメントと、新しいアイデアやパートナーを活用する意欲が必要である。国連は、現実的な改革、運用上の機敏性、集団行動によって、創設時のビジョンをよりよく実現し、21世紀の複雑な脅威に対処することができる。前途は多難だが、加盟国が勇気を持って協調的に行動する意思があれば、平和のための新たな構造建設への前進は手の届くところにある。

ジョーダン・ライアンはフォルケ・ベルナドッテ・アカデミー(Folke Bernadotte Academy)のシニア・コンサルタントで、カーターセンターの平和プログラムの元副代表。このほど、事務総長室の国連統合レビューの筆頭著者としての責務を終えた。2009年から2014年まで国連事務次長補およびUNDP次官補を務めた。リベリアでは副特別代表、ベトナムでは国連常駐調整官を務めた。コロンビア大学とジョージ・ワシントン大学で学位を取得し、イェール大学で学士号を取得。ハーバード大学ケネディスクールの研究員も務めた。

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