地域アジア・太平洋終戦宣言への懐疑論を受けて

終戦宣言への懐疑論を受けて

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チャンイン・ムーン】

われわれがいまだ選んだことのない道について、恐怖のために何も行動を起こさないならば、何も変わらない。

文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領が2021年9月21日の国連総会演説で、朝鮮戦争の正式な終戦宣言を実現するために国際社会の協力を求めて以来、この問題は、文大統領の任期終了が近づく中で政府の外交努力の最前線にある。(原文へ 

2021年11月26日、金富謙(キム・ブギョム)首相はアジア欧州会合(ASEM)参加国に支援を呼びかけ、「終戦宣言は、朝鮮半島に暮らす全ての人が願う平和のために、決して放棄できない目標である」と強調した。また、李仁栄(イ・イニョン)統一部長官は近頃、終戦宣言は「韓国、北朝鮮、米国が相互の敵意と対立を棚上げし、対話を開始し、平和を目指して信頼を確立するために有益な手段である」と述べた。

しかし、韓国にも国際社会にも、終戦宣言を追求することへの大きな懐疑論と不支持が存在する。終戦宣言は単なる紙切れであり、何も変えられないと皮肉を込めて主張する者もいる。朝鮮半島の和平プロセスが終了するまで、つまり北朝鮮の非核化が完了し、真の平和が根付き始めるまでは、終戦宣言を控えるべきだと言う者もいる。

また、終戦宣言は現状を変更し、朝鮮半島の安全保障を危機にさらす恐れがあるという懸念も存在する。評論家は、終戦宣言によって国連司令部の解体、米軍の撤退、米韓合同軍事演習の停止につながる恐れがあると言う。

より実務的なレベルでは、文政権はこの問題について関係国と十分な協議を行うことなく、あまりにも強引に正式な終戦を目指していると考える者もいる。関係国の見解を考えると、これは特に問題であると彼らは言う。北朝鮮は、対話の場に戻る前に米国と韓国が“ダブルスタンダード”と“敵対政策”を撤回しなければならないと主張する。米国は、名目上は終戦宣言を支持しているものの、実際には懐疑的である。中国は傍観している。日本は、正式な終戦は時期尚早だと主張している。

もう一つの論点はタイミングである。文大統領の任期満了まで残り5カ月、大統領選まで残り3カ月しかないことから、文は、正式な終戦という重大な一歩を踏み出すことによって次期政権に重荷を負わせるべきではないと言う者もいる。

このような見解や批判には見るべきものがないわけではないが、誇張していると思われる点がいくつもある。

第1は、終戦宣言の性質についてである。文政権が提案していることは、戦争の終了を確認するというより、70年以上にわたって続いている戦争を終わらせなければならないと断言することである。

そのような仕事が1枚の紙切れで終わることはない。終戦宣言は、現在の行き詰まりを終わらせ、信頼を醸成し、非核化に向けた突破口を見つける努力を象徴するものといえる。それは、当事者の誰もが最初に行動を起こそうとしない膠着状態において、終戦宣言が出発点になり得るという考え方に信憑性を与える。

次に、現状を変更することへの懸念について考えてみよう。確かに終戦宣言は、半戦争状態のような現状を終わらせ、恒久的平和に移行しようとすることにより、現状を変更しようとする試みといえる。しかし、文がすでに表明した通り、終戦宣言は国連司令部の解体、米軍の撤退、あるいは米韓合同軍事演習の停止をもたらすものではない。

これらの事項は全て、韓国が主権国家として下す決定であって、それらは北朝鮮が長年要求してきたことではあるが、終戦を宣言したからといって、ただちにそのような構造的変化をもたらすわけではない。

韓国政府は、米国との同盟と安全保障体制を維持しつつ、敵対関係を改善し、北朝鮮の非核化を促進する足掛かりとして終戦宣言を考えている。それは、和平プロセスの長い旅の暫定的な第一歩でしかない。それは、交渉がいかに難しいものとなるかを示しているが、かといって安全保障上の脅威が増大すると結論づけるのも行き過ぎと思われる。

同じことが、環境の分析にもいえる。北朝鮮が主張している前提条件は、いつも同じである。しかし、北朝鮮の指導者である金正恩(キム・ジョンウン)の近頃の前向きな発言を見ると、北朝鮮政府も終戦宣言がこれらの要求を実現するマスターキーではないことを分かっているようだ。

米国が“永遠の戦争”を望んではいないと仮定すると、終戦宣言は間違いなく米国にとって検討に値する選択肢である。中国も、朝鮮戦争の交戦国という立場を考えると、終戦宣言には自国も加わることを前提としており、反対する理由は何もない。もちろん日本については十分な検討が必要であろうが、日本は終戦宣言の当事者ではないため、主要変数ではない。

懐疑的な人々は、今が適切なタイミングなのかと問う。しかし私は、終戦宣言が早すぎるということはなく、それどころかあまりにも遅すぎたと考えている。この戦争は、冷戦が終焉した30年前とはいわないまでも、遅くとも2018年には終結しているべきだった。

文にとって、任期が残り少ないというだけの理由で、朝鮮半島に平和をもたらす外交努力をやめるなどということは、憲法上の任務をあからさまに放棄することであろう。文は大きな政治判断的な行動は次期政権に委ねるべきだという主張については、私はそれを政治的スピンだと考える。平和と安全保障を国内政治のエサにしようとする言い分である。

終戦宣言は平和への道をいっそう複雑にするという懸念がある。しかし、われわれがいまだ選んだことのない道について、恐怖のために何も行動を起こさないならば、何も変わらない。

70年間引きずってきた戦争を終わらせるべき時が来たと宣言することは、分別があり、心ある行いである。そして、われわれは、能力の面でも制度の面でも、それに対処する十分な用意がある。核兵器と永遠の戦争が、朝鮮半島において若い世代に残すレガシーでないことは間違いない。

この話題に関するより詳しい議論については、ストックホルム国際平和研究所のダン・スミス所長と本論考の筆者である世宗研究所の文正仁(チャンイン・ムーン)理事長が出演したこちらの動画(Special Roundtable: Ending the Korean War)を視聴されたい。

チャンイン・ムーン(文正仁)世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

この記事は、2021年12月6日に「ハンギョレ」に初出掲載されたものです。

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