INPS Japan/ IPS UN Bureau Report国籍はあっても家がないという不安定な境遇

国籍はあっても家がないという不安定な境遇

【国連IPS=サイモン・シュネラー】
 
戦争や人道的災害により故郷を逃れながら自国内に住む1200万人のいわゆる「国内避難民(IDPs)」が、アフリカで法的、人間的悲劇に直面している。

国連緊急援助調整官で国内避難民連絡部担当のデニス・マクナマラ氏は、「国内避難民問題はアフリカで対応が遅れているもっとも重大な問題であり、スーダン、ソマリア、コンゴ民主共和国、ウガンダ、ブルンジなどの国で住居を追われている人々への早急の対策が必要だ」と語った。

  たとえばスーダンでは政府と南部に拠点を置くスーダン解放運動(SLM)との20年にわたる内戦で400万人が故郷を逃れたとされており、世界でもっとも大規模な強制退去問題となっている。

2005年1月に両者が和平協定に調印してから多くの人々が南部の故郷に帰還したが、故郷は「最貧の状態」だとマクナマラ氏はいう。

「10数年前に故郷を武力で追われてハルツームのスラム住民となった200万の人々もこれから南部に帰還することになるだろうが、今度はジュバの新しいスラム住民となるにすぎない。ジュバを訪れたことのある人には分かるだろうが、ジュバのスラムはハルツームよりもさらに劣悪な環境にある」とマクナマラ氏は最近の国連での記者会見で述べた。

難民と定義されるのは故郷を逃れて国境を越えた人々であり、国際的な保護や支援を受ける資格がある。しかし世界の国内避難民2350万人に対する保護の問題はより難しい。

「国内避難民が難民と同じような法的立場を得られる可能性はほとんどなく、それは主に政府が国家主権と内政不干渉という原則が弱まることを恐れるからだ」と国際強制退去監視センターのJens-Hagen Eschenbaecher氏はIPSの取材に応じて語った。

Eschenbaecher氏によると、政府自体が強制退去の最大の責任者となるケースもあった。

1950年から難民は「難民の地位に関する条約」という特別の条約の下に保護されてきた。けれども国内避難民には国際法を反映しながらも法的拘束力を持たない「国内避難の指針」という取り決めしかない。国内避難民の支援を使命とする国連機関もない。国内避難民の支援義務があるわけではない国連難民高等弁務官が国内避難民問題を随時担当している。そのために国内避難民が難民よりも重要でない扱いをされているという非難を生んでいる。

「安保理と支援国が自国民を守れない政府に昨年の国連サミットで採択された国家の国民保護の責任を果たすよう求めて行動を起こすことが必要である」とEschenbaecher氏はいう。

「同時に現場における国際社会の強い存在感が求められる。それには国連の機関、NGO、そして特に十分な兵力と権能を備えた平和維持軍などの活動が含まれる」

マクナマラ氏は国連が国内避難民に対して「十分に手を尽くしていない」ことを認めた。

「人道的な活動は比較的に簡単だ」とマクナマラ氏はいう。年間40億ドルが人道支援活動に必要であるが、さらにその10倍の金額が強制退去させられた人々が戻らなければならない破壊された地域の再建のために必要になる。

「国連開発プログラム(UNDP)、世界銀行、支援国からのさらなる援助が、貧しく悲惨な国内避難民の生活を立て直すための、いまだ不十分な、具体的で目に見える長期的な基本的サービスに対する現実的な投資を行うために必要なのだ」とマクナマラ氏はいい、畜産や所得創出プロジェクトなどの開発プロジェクトを行うよう求めている。

国内避難民を抱えた国でこの問題のために活動するNGOは少ないが、主に避難所、トイレ、洗濯場、食料、基本的な医療サービス、教育などの差し迫ったサービスを提供している。多くの地域で国内避難民の人道的支援、保護、安全は十分ではない。

リリーフ・インターナショナルの上級プログラム担当官、Silja Paasilinna氏は「人々は毎日生きているだけで精一杯の状況だ。(スーダンの)ダルフールではすべてが足りない」とIPSの取材に応じて語った。

国連によるとダルフール地方の国内避難民は160万人、隣国のチャドに逃れた難民は20万人を超えている。政府主導のキャンペーンにより主に紛争地域の非アラブのアフリカ人が強制退去となり、20万から40万の人々が死亡したとされている。
 
マクナマラ氏は国内避難民にとって安全が一番の問題だとし、7800人の平和維持軍は貴重ではあるが「この問題の重大性に対して十分ではない」と指摘した。

「国内避難民に何とか食料を配ってはいるが、適切な保護はまったくできない。全体的な保護が必要とされているにもかかわらず現場に保護のための十分な人員がいないので、危険をともなう第一線に人道支援を行う人々を置かざるをえない」

Paasilinna氏は「安全が脅かされそうなときにはスタッフを引き上げなければならない。たとえば医療と栄養を提供する活動が行われていて二つの国内避難民収容所のあるTawillaは12月からほとんど立ち入り禁止地域になっている」という。

「双方の側から車を乗っ取られたり、拘禁されたり、嫌がらせを受けたりしてきた。後で謝罪されるケースが多いが、スタッフは生きた心地がしない」

昨年9月にはダルフール地方の西にあるSeleiaという町で国内避難民収容所が襲撃を受け、29名が死亡し、収容所にいたほとんどの人々、4000人から5000人が周辺に逃げ出した。

昨年12月にマクナマラ氏はインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に寄稿し、「大量の国内避難民は恐ろしい犯罪に巻き込まれやすく、大虐殺、拷問、性的暴行、隷属化などの被害者となることが多い。子供も拉致、軍隊への強制的な入隊、性的暴行、死の恐怖に脅かされている」と訴えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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