ニュースカナダの先住民、寄宿学校での虐待への補償として17億ドル受け取りへ

カナダの先住民、寄宿学校での虐待への補償として17億ドル受け取りへ

【オタワIPS=ハワード・ウィリアムス】

カナダ政府は11月23日、国からの補助金を受けた主に宗教団体運営の「寄宿学校」において身体的・性的虐待を受けた数万人のカナダ先住民に対して、17億ドルの補償金を支払う「原則協定」を発表した。 

これら寄宿学校は、カナダ先住民をもっぱらヨーロッパ的な生活様式と近代カナダの文化に「同化」する最もよい手段として時の政府が考え付いたものであった。しかし、この計画は大失敗に終わる。先住民(インディアンやイヌイット)の子供たちが教員や職員に性的・身体的虐待を受けているとの確かな情報が数多く寄せられるようになったのである。


 
カナダの「カペル・インディアン寄宿学校」。インディアン生徒の親たちは施設の立ち入りを禁じられ、子供に面会するためには学校の外で野営しなければならなかった(1885年)子供たちは、自分の母語で話をしているところを見つかって激しく殴打されすらした。兄弟姉妹との会話においてすらそうだったのである。また、だまされて自分の子供を寄宿学校に差し出した先住民の家族の事例や、政府や教会の関係者に誘拐された子供の事例すら数多く現れている。 

今回の合意は、急ごしらえの記者会見の場で、アン・マクレラン副首相と「『最初の国民』会議」(「最初の国民=First Nations」とは、カナダにおいて先住民を指すための公式の用語:IPSJ)のフィル・フォンテイン議長によって発表された。「『最初の国民』会議」は、政府の承認した居留区を代表する団体で、子供たちはこの居留区から連れ去られ同化させられたのである。 

自らも寄宿学校における性的・身体的虐待の被害者であることを明らかにしたフォンテイン議長(60)にとっては、今回の合意はとりわけ感動的な瞬間であった。議長は記者にこう語った。「いくらお金を積んだところで、私たちの心の傷を癒すことはできませんが、この和解協定によって癒しへの道筋を切り拓くことはできるでしょう。それは寄宿学校の生徒たちだけにとってそうなのではなく、その子供たち、孫たちにとってもそうでしょう。今日はとてもすばらしい日です」。フォンテイン氏は、この和解は、カナダの歴史上、この種のものとしては「最大で最も包括的なもの」だとした。 

しかしながら、この協定は依然として連邦裁判所の承認を受けなくてはならない。というのも、現在は解散した寄宿学校の運営に関与した連邦政府および教会に対する数百の個別裁判およびいくつかの集団裁判が、連邦裁判所において現在審理中だからだ。 

今回の協定では、裁判所の承認を受けたのち、約8万6,000名の元児童に対して補償金が支払われることになる。マクレラン副首相は、寄宿学校の生徒1人当たり8,500ドルと、在学1年当たり2,560ドルが加算されると述べた。各個人は、何年学校に在籍したかによって、最大2万5,000ドルまでを受け取ることができる。 

年配の虐待被害者に関しては、65才以上の元生徒に6,800ドルを即時支給するよう配慮がなされる。フォンテイン氏は、被害者の平均年齢が現在60才であるため、このことは協定の特に重要な要素だと述べた。 

協定によれば、マクレラン氏が「真実と和解」のプロセスと呼ぶものについてもさらなる行動が要請されている。氏は「和解の中心に座っているものは、私たちの歴史のこの1ページを終わらせるということです。私は、われわれの共通の決意に到達したこと喜んでご報告したいと思います。われわれがこれから実行することは、この先住民学校の遺物に関する公正かつ永続的な解決となるものと固く信じます」と述べた。 

しかし協定には、先住民集団からのひとつの要求事項が含まれていない。すなわち、連邦政府が真の謝罪を行なう、ということである。この理由について尋ねられたマクレラン氏は、問題がいまだに交渉の過程にあるからだ、と回答した。同時に、ポール・マーチン首相とカナダの10州および3つの北部諸州の知事が先住民代表とブリティッシュ・コロンビアのケロウナで会談する今週にも、謝罪がなされることになるかもしれない、とマクレラン氏は示唆した。彼女は、「きわめて明確に、議長(フォンテイン氏)と首相は、寄宿学校の問題のある側面に関するその他の問題を討議することを欲するかもしれない」と述べた。 

フォンテイン氏は、合意事項は「数十年という時間をカバーし、最初の国民たる個人および集団に対する無数の出来事と数え切れない傷跡の問題に対処するものだ」と語った。 

共同記者会見にはアーウィン・コトラー司法大臣も同席した。彼は、政界入りする以前に人権派弁護士として知られた人物である。コトラー氏は、若いカナダ人を寄宿学校に押し込める政策は、「われわれの歴史の中で、もっとも有害でもっとも恥ずべき人種差別的行為だ」と語った。 

これら学校は、カナダが独立する1867年以前に英国の統治下で設立されたものである。しかしカナダ政府は、[独立後の]1970年代に到るまで同学校への資金援助を続けた。現在は全て閉鎖されている。 

1.06億ドルの「真実と和解」のプロセスの中で、「アボリジニーの癒し」基金と「真実と和解」の集いに5年間にわたって資金が提供されることになる。しかし被害者側は、いったん補償金を受け取ったら、連邦政府、あるいは学校を運営した教会を訴える権利を放棄しなくてはならない。23日の記者会見で発表された資金には、今週行なわれる連邦政府と先住民代表とのケロウナ会談で発表されるとみられる補助金が加わることになっている。 

オタワからの未確認情報によれば、連邦政府・州知事側は、34億ドル以上にものぼる10年間計画に同意するものと見られる。これは、先住民居留区における保健・教育・衛生の改善のためと、指定居留区から離れて暮らしている、あるいはこれら居留区に住む権利を失った先住民に対する「生活向上プログラム」のために使われることになる。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

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