ニュース|輸送と環境|従業員に支えられて家業を守る(竹内政司)

|輸送と環境|従業員に支えられて家業を守る(竹内政司)

【東京IDN=浅霧勝浩】

Seiji Takeuchi

竹内政司氏は、今は東京三鷹市の著名な経営者であるが、若き頃、南米ブラジルのサンパウロで在留邦人向け新聞社「サンパウロ新聞」の記者として過ごした日々を懐かしそうに振り返った。

「新聞社での日々は刺激的でした。取材をしては記事を書き、翌日には発行されて成果がでる。達成感を感じると同時に、大陸のスケールの大きさと貧しさも知りました。」と竹内運輸工業株式会社の第3代取締役社長で東京都トラック協会副会長の政司は語った。

その後ブラジルから帰国した政司は、竹内運輸工業に入社。当時代表取締役社長の父喜代司が、自分を重要なマネジメント部門に配属してくれるだろうと思っていたら、それは希望的観測に過ぎなかったことを思い知らされた。物流倉庫での箱打ちや梱包作業、荷運び、トイレ掃除、作業場の修理など、一から各部署を回らされたのである。

「若い私には、当時の下積み生活が理解できず釈然としない思いでした。」と政司は振り返る。6か月後、政司は再びブラジルを訪れた。「かつて住んでいた場所なのに、観光客としての自分に疎外感を感じ、自分の居場所はここではない、竹内運輸工業なのだと気づきました。それから私は腹をくくりました。」と政司は付け加えた。

 政司は今では当時父が会社の全部門を転勤させたことについて正しい判断だったと確信している。「現場を知ることは経営者として学ぶべきことだったと、今、思います。」

竹内政司は2000年、45歳の時に、父竹内喜代司の後を継いで代表取締役社長に就任した。父喜代司は1984年、竹内運輸工業の創業者である政太郎が亡くなった際に2代目社長に就任していた。

政司が社長に就任したのは、竹内運輸工業が長年にわたる主要取引先の日産自動車株式会社との関係が大きな節目を迎えた直後の時期であった。1999年、日産の経営再建をかけて来日したカルロス・ゴーン氏は、取引業者を集めた「サプライヤーズ・ミーティング」を開催し、日産自動車の黒字化のため、取引業者数を従来の半分にすることを一方的に宣言した。

その結果、竹内運輸工業が自動織機の運搬・据付業務を請け負っていた日産の繊維事業部が豊田自動織機製作所(トヨタ自動車の関連会社)に営業譲渡されたことに伴い、三鷹工場は閉鎖・解体された。

また、竹内運輸工業が営繕業務を請け負っていた日産の宇宙航空部門があった荻窪工場も同部門の移転に伴い閉鎖された。さらに2001年には、竹内運輸工業が1961年から取引のあった日産村山工場も閉鎖された。村山工場で組み立てられた最後のスカイラインの模型が、今も、竹内運輸工業の応接室に飾られている。

日産リバイバルプランの全容が明らかになる中、竹内喜代司は竹内運輸工業が日産に支えられていた時代が終わったと実感した。「自分の時代もここで終わりだ。これからはまた別の時代が始まる。」喜代司は息子にそう語り、2000年に引退した。

政司はリバイバル・プランからたくさんのことを学んだという。「私たちのような小さな会社でさえも、グローバリズムという新しい価値観、新しい枠組みを受け入れ、そのうえで生き残ることができる会社を作り上げることが求められるようになったのだと思いました。」

政司はこの経験を通じて会社の経営はもとより、人間の生き方、人の一生のあり方といった極めて哲学的なものまで考えさせられたという。「とにかく、いままでの価値観にとらわれていては、とても対応はできませんでした。今を生き抜くことがいかに大切かということを思い知らされました。人の世は常に移り変わる、というきわめて当たり前のことも、改めて認識させられたのです。」

挑戦

実際に日産リバイバルプランが動き始め、影響が竹内運輸工業に及び始めたのは2000年4月に入ってからであった。政司はそうした状況を見て、今後、日産自動車との取引をこれまでどおり継続していくのは難しくなるだろうと思ったが、それまではなかった入札にも積極的に参加して、仕事で繋げられるものは、できる限り全て繋いでいくよう努力した。そうした努力の結果、政司は、日産自動車の相模原部品センターから埼玉への部品輸送ルートを落札し、その仕事は全面的に請け負えることになった。

また政司は、この時期、かつて竹内運輸工業が取引関係にあった日産自動車の宇宙航空事業を引き継いだ株式会社IHIエアロスペースとの間に(日産時代と同様に)営繕作業を請け負う契約をとることに成功し、同社の近くに新たな営業所を開設した。

株式会社IHIエアロスペースは、第二次世界大戦における日本の名戦闘機「」の名にちなんだ「はやぶさ」プロジェクトに参画した企業である。また「はやぶさ」は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発し、小惑星「25143イトカワ」から地球外物質の微粒子を持ち帰った小惑星探査機の名称でもある。

政司はまた、新たに流通業の分野において、製薬会社などの新たな顧客を見出した。1998年、顧客の要請に応じて所沢市に最初の物流センターを、さらに2001年には第二物流センターを開設した。

当時、顧客の製薬会社は、関東圏でドラッグストアのチェーン展開に乗り出しており、竹内運輸工業に物流の総合プロデュースを依頼してきたのである。竹内運輸工業としては、商品の搬入、在庫の管理、検品、仕分け、配送といった物流を総合的かつ全面的に管理する仕事は初めてであった。今日ではこのような物流の外部委託は3PL( サード・パーティー・ロジスティクス)と一般に呼ばれるものだが、当時としてはまだ走りの時期であった。

竹内運輸工業は、将来にわたって会社を存続させていくには、自動車産業以外の業種、とりわけ流通業に新たな顧客を開拓していくことが重要と確信し、少しずつ旧来の日産自動車1社との取引に依存する経営体制からの脱却を図っていった。

さらに政司は、常に計数管理を行い、キャッシュ・フローに重きを置くことで、会社の財務体質強化を図った。政司は、もしグローバル化の波の中で生き残る唯一の方法があるとするならば、基本に戻り、会社が所有する全ての資産を見直し、その効率を検証し、さらに有利子負債の大幅な削減を実行しなければならないと確信していた。そうした考えから、政司は会社の規模を一旦縮小することを決意した。

「マネジメントとは、従業員の意識改革です。日産との関係から事業が苦しい時期も、従業員を解雇しない方向で対応することで、逆に、労働組合員からの求心力は強まったと思います。物流センターも大きくなり、新たに移り変わる環境の中で、人を育てる時期にきていると思いました。」と竹内社長は言う。

竹内社長は、国際標準化機構による品質マネジメントシステムISO9001を申請、認定を受けた。ISOの長所は、従業員がこのシステムを通じてお互いの仕事内容を理解できるところにある。異なる営業所がお互いに内部監査を実施することで、従業員は自らの所属部署以外の職場における業務の仕組みや他の社員の仕事内容を理解できるようになる。こうして竹内社長は、全職員と会社が一体となったマネジメントを目指した。

竹内社長はまた、月次決算では数字を全社員にオープンにし、異なる部署で働く職員が互いの業務内を把握できるよう、月次報告書にも同じフォーマットのチェックシートを適用した。こうして竹内運輸工業の従業員には自分たちの会社であるという意識が芽生えていった。

「運輸業である当社で最も大切なことは、交通事故を避けることです。社内の安全衛生委員会を通じて話し合い、トラック30台全車両にはバックモニター、ドライブレコーダーをつけています。その狙いは、機械でサポートしてヒューマンエラーを防ぐこと、とりわけ最も重要なのは、我が社のドライバーの命を守ることです。安全なくして企業の存続はないですから。」と竹内社長は言う。

竹内社長はさらに続けて、「社長としては、私は思ったことをやらせてもらえていると思います。今までやってこられたのは、仲間が好きだからでしょうね。いつも思うのですが、従業員が私の会社で働くようになったのは単なる偶然ではなく、なにかのご縁があるのだと思います。そして私はそうしたご縁を大切にしたいと思うのです。」と語った。

運転手が事故に遭遇したとき、竹内社長は「もし自分に全く過失がないと確信できるなら、会社は100%支持します。」と言うことにしている。こうした際、会社が各車両に設置しているドライブレコーダーが、運転手の主張を裏づける証拠と提供して身を守ってくれることとなる。

竹内社長の次世代の人へメッセージは以下のようなものである。「当たり前のように生きていることを喜び、感謝することです。そして、変化に怯えるなということ。恐怖心は自分の心の中にあるのです。私もプレッシャーとストレスでぎりぎりの状態になったこともありますが、変わらなければ生きていけない。変化を恐れずに進むことの大切さを学びました。」(原文へ

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