【ブルックリンIPS=スティーブン・リーヒ】
世界の指導者たちは、生物テロ対策とバイオテクノロジー推進との間の矛盾を解決すべきだ――これが、トロント大学生物倫理共同センターの報告書『平和のためのDNA』の結論である。
バイオテク・ナノテクの研究所は世界中に広がっている。ブラジルだけでもそうした研究所が400以上もある。
同センターのピーター・シンガー所長は、「最先端のバイオテクノロジーやナノテクノロジーは、一般市民にとっての重大なリスクとなる可能性がある」と語る。しかし、トロント大学の報告書はむしろ、感染症対策・貧困対策などにおけるバイオテクノロジーの可能性を強調している。
他方、ピッツバーグ大学バイオ安全センターのギギ・キウィク・グロンバール助教授は、生物テロの危険性に対する懸念はもっともなことだとして理解を示す。同氏は、「耐抗生物質バクテリアを作り出すことは、新しい抗生物質を作るよりたやすい」と語る。
さらに、バイオテク推進に対する別の方面からの批判もある。米国のNGO「オークランド研究所」のアヌラダ・ミッタル氏は、実際の生き物を取り扱うバイオテクノロジーの危険性について警鐘を鳴らしている。特に氏が懸念するのは、遺伝子操作(GE)生物の問題だ。彼女によれば、GE植物・ウィルスは、いったん環境中に解き放たれてしまうと、追跡・回収することができなくなってしまう。
そこで彼女が提唱するのが、「生物安全に関するカルタヘナ議定書」を使った、バイオテクノロジーの国際的規制である。この議定書は、GE生物の国際的移動を規制するものであるが、GE作物の90%を生産する米国・アルゼンチン・カナダがいまだに加盟していない。
バイオテクノロジーが飢餓対策に有効だといわれることもある。しかし、ミッタル氏は、インドの例を挙げながら、実は食糧そのものは不足していないと主張する。また、感染症を防ぐのは公衆衛生システムの整備であって、新しいバイオテクノロジーの開発ではないとも指摘する。
バイオテクノロジー推進をめぐる論争についてカナダより報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan