【ベルリン/ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ】
米国による分担金の大幅削減というリスクが、まるで「ダモクレスの剣」のようにアントニオ・グテーレス国連新事務総長の頭上にぶら下がっているなか、政府高官や市民社会の代表らが、「永続的な平和」と「持続可能な開発」のネクサス(関連性)を強調し、ニューヨークの国連本部という舞台を超えて、この関連性に関する意識を広く喚起する必要性を訴えている。
「公正で、平和的で、包摂的な社会」の必要性に焦点を当てた「持続可能な開発のための2030アジェンダ」第16目標は、そうした本来的な関連性を強調しているが、国連が2015年9月に全ての加盟国の賛同を得て持続可能な開発目標(SDGs)の履行が開始されてから既に1年が経過しているにもかかわらず、一般の人々や外交分野における関心は依然希薄なままである。
国連総会は、このことを視野に、「持続可能な開発」と「継続的な平和」の本来的な関連性を強調する画期的な第一歩として、2日間にわたるハイレベル対話を1月24・25両日に開催した。
カザフスタンのイェルザン・アシクバエフ外務次官は、「開発と安全保障の関連性」の重要性を強調して、「世界各地で安全保障上の問題が、開発から得られる成果を脅かしています。」と語った。カザフスタン政府は、従来から、地域・世界レベルにおいて、武力紛争を予防し終結させる取り組みに外交努力を集中すると断言してきた。
アシクバエフ外務次官は、「しかし、国家間には残念ながら信頼感が欠如しています」と指摘したうえで、国連に対して仲裁の努力を抜本的に強化するよう訴えた。この点に関しては、国連安保理が義務として取り扱うテーマを拡大(例:「永続的な平和」と「持続可能な開発」の関連性を協議)したり、国連諸機関間における協力関係が一層緊密化させたりするなど、新しい道筋が最近開けてきている。
アシクバエフ外務次官はさらに、資金不足が開発の大きな障害であると指摘したうえで、加盟国に対して、防衛予算の1%を2030アジェンダ履行のために振り向けるよう訴えた。
アシクバエフ外務次官は、「多面的な難題には多方面からの対応を必要とします。」と指摘したうえで、「平和的で公正で包摂的な社会に関する第16目標を促進する取り組みは、この点において特に意味があります。」と語った。カザフスタンは、民主的なガバナンスや法の支配、人権擁護を基礎にして持続可能な開発目標を国家レベルの戦略に統合する取り組みを進めている。
グテーレス事務総長は、1月1日の就任以来初となる国連総会での演説において、「紛争の根本原因に対処し、思想から実行のレベルに至るまで、平和、持続可能な開発、人権を全体的視野の下に統合するグローバルな対応策が必要だ。」と既に述べていた。
不平等が引き続き世界中を覆っており、世界で最も裕福な8人が最貧困層の36億人と同じだけの富を所有しているという。民衆や国々全体が取り残されたと感じており、破滅的な紛争が新たに発生する一方で、旧来からの紛争がしつこく続いている。
インドのスジャータ・メフタ対外関係相も同様の観点から、慢性的な格差拡大と継続的な不平等、それに暴力的過激主義のような非旧来型の脅威の登場に注意を向けた。
技術の進歩により、世界はますます小さくなり、遠く離れた国々に暮らす人々の生活が一層相互に関連性を持つようになってきた。また諸国の経済はますます緊密化し、感染症は拡散しやすくなり、テロのネットワークは、世界のどこでも容易に攻撃を仕掛けられるようになった。
「同時に、『経済成長』と『包摂的な開発の安全性』、そして『人々の一般的な健康問題』も相互に密接に関連するようになっており、たとえある場所でこうした側面が満たされたとしても、必ずその影響は他の場所に及ぶことになるのです。」と、メフタ氏は語った。
メフタ氏はまた、「平和と開発の関連がパリ合意と2030アジェンダの双方の基盤にあります。」と指摘したうえで、「合意形成以降の進展具合は『けっして好ましいものではなく』、合意履行のための資金調達ではドナーからの資金提供が減少しています。」と語った。
メフタ氏は、「一旦なされた公約を違えることは、皆にとってマイナスとなります。」と警告し、より長期的な観点から開発問題に着目すべきと呼びかけた。「私たちは『グローバル・ヴィレッジ(地球村)』の住人です。国連加盟国に対して持続可能な開発目標の達成に向けて努力するよう、また、国連に対してその支援を行うよう求めます。」と語った。
ナイジェリアのアンソニー・ボサー氏は、「持続可能な開発」、「平和」、「経済成長」が保障されるべきだと述べ、この点に関する協調的な取り組みを訴えた。「2030アジェンダと持続可能な平和の追求は、一体をなすものです。暴力の実行者ら(新たに登場した勢力もあれば、長きにわたってそうした行為を行っている勢力もいる)が、紛争を乗り越えようとしている国々を支援する国際的、地域的取り組みに対して深刻な影響を及ぼしているのが気掛かりです。」とボサー氏は語った。
ボサー氏はまた、地域レベルと準地域レベルの諸機関との提携を通じて新たな「アジェンダ」と持続可能な平和の間に相乗効果(シナジー)を作り出そうとする国連の努力を歓迎するとともに、「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は紛争解決において大きな成果を残してきました。」と語った。
「真実を語る基準(ベンチマーク)」
国連総会のピーター・トムソン議長(南太平洋メラネシアの島嶼国フィジー出身)は、「国連総会と安保理が、持続的な平和に関する諸決議を採択したことは、平和と開発に対する部門横断的で包括的、統合的な新アプローチを象徴するものです。」と語った。
トムソン議長は、相互に平和を維持する方法を補強し、同時に2030アジェンダの17項目からなる持続可能な開発目標を実行する方法を模索するよう、参加者に呼びかけるとともに、今回のハイレベル対話をこの課題に関する「真実を語る基準(ベンチマーク)」とするよう強く訴えた。
トムソン議長はまた、「2030アジェンダと持続的な平和に関する諸決議は、加盟国が『持続可能な開発』と『持続的平和』を、不可分の2つのアジェンダとして捉えるよう明確にしたものです。」と指摘したうえで、「SDGsを履行する止めようもない潮流を生み出し、『持続可能な平和』と『持続可能な開発』が互いの要因であるとともに成果でもあることを認識する必要性があります。」と強調した。
トムソン議長はさらに、「長引く紛争に現在17カ国が影響を受けており、不安定化しているか、紛争、暴動状況などにある国々に20億人が暮らしています。また、難民と途上国内の内地避難民の95%が、1991年以降、10件の紛争によって影響を受けてきました。」と語った。
トムソン議長はまた、加盟国からの積極的な支援と関与を得て、事務総長のリーダーシップの下での国連システムによる行動と改革の必要性を強調し、「2日間に亘った今回のハイレベル対話の議事録は、国連総会の第72会期において今年後半に招集される予定の『平和構築と持続的な平和に関するハイレベル会合』の準備に貢献するだろう。」と語った。
「2030アジェンダ」は普遍的なツール
スウェーデン外相で1月の国連安保理議長をつとめたマルゴット・ヴァルストローム氏は安保理を代表して、「最近ノルウェーで開催された「北極協議会」の会合に参加しましたが、そこでは科学者らが北極の環境について暗い見通しを報告していました。その中で、『どうしたら夜安心して眠れるか』と問いかけられたある科学者が、『自分は解決策が議論されうる希望の持てる領域に目を向けたい。』と答えていました。このハイレベル対話がそうした 『希望の持てる領域』の一つになりうると思います。ナショナリズムや恐怖と分断が台頭しつつある昨今、私たちはこのハイレベル会合で、『変化は可能だ』という希望のメッセージを届ける必要があります。」と語った。
ヴァルストローム外相はまた、安保理が紛争予防と平和構築に関して1月に行った公開討論に言及して、「各加盟国は、潜在的な紛争に関する報告に接して、行動に移る意思と能力、そしてまた手持ちのツールについても考えてみなくてはなりません。」と語った。
ヴァルストローム外相はさらに、「2030アジェンダは平和構築と紛争防止に全ての国々と民衆が関与することを要請する普遍的なツールです。」と指摘したうえで、「SDGsの第16目標に規定された平和と正義の推進(=法の支配の強化とグッド・ガバナンスの必要性)を強調した。
そして具体的に重要なポイントとして、①リスク管理、根本原因、早期警戒、早期行動の重要性、②国連が世界銀行等の他の機関との協力を強化すること、③早期警戒と代替的な紛争予防措置に対して貢献する女性の役割、を指摘したうえで、「紛争予防は経済的な面からも望ましいことであり、より効果的に紛争予防を行えば、人道支援にかける開発予算を削減することができます。」と語った。
「平和構築委員会」委員長の職責で発言したケニアのマチャリア・カム大使は、「SDGsはより強靭な世界を実現するためのロードマップです。今回のハイレベル対話は、平和に向けた活動の一里塚として歴史に名を留めることになるだろう。」と述べ、今回のハイレベル対話を国連がSDGsという公約を果たすための出発点と認識するよう加盟国に求めた。
カンボジアのライ・トゥイ国連大使は、「(内戦を経験した)我が国は戦争の代償についていやというほど痛感しています。」と指摘したうえで、「全ての人々にとって持続可能な平和を構築することが最優先課題の一つです。」と語った。教育が平和構築にとって中心的な意味を持つことから、カンボジアの国家戦略的開発計画は、男女に平等な経済的機会を拡大することに焦点を当てている。
モルジブとトリニダード・トバゴからの発言者は、気候変動という文脈から平和と開発について論じた。モルジブ代表は、水没が懸念される島嶼途上国にも国連安保理における議席が与えられ、「まだ行動する余裕があるうちに」気候変動と海面上昇の問題が議題とされ続けるようにすべきだ、と訴えた。
エルサルバドルのザモラ・リヴァス国連大使は、「和平協定と政治改革によって我が国は武力紛争を克服することができました。」と語った。しかし、そうした大きな成果を収めた一方で、エルサルバドルは、依然としてすべての社会階層において社会経済的発展を必要としており、事務総長に対してその実現のために必要な支援を行うよう要請した。
国連経済社会理事会のフレデリック・ムシーワ・マカムレ・シャバ議長(ジンバブエ)は、2030アジェンダと「開発資金に関するアジスアベバ行動目標」、気候変動に関するパリ協定、国連の平和構築体制の見直し作業との間の連関を強調した、数多くの発言者の一人である。これらは一体となって、より望ましく、より包摂的で持続可能な世界への道を切り開いてきた。
「コンゴ女性基金」および「平和と開発の統合をめざす女性の連帯」を代表して発言した市民社会代表のジュリエン・ルセンジ氏は、そうした紛争の原因に関する具体的な経験を共有した発言者の一人である。紛争の原因とは例えば、ルセンジ氏の祖国コンゴ民主共和国で起こった天然資源の違法な搾取、その結果としての不平等な富の分配などである。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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