ニュース|米国|国際援助庁(USAID)の閉鎖は世界の貧困国を危険にさらす恐れ

|米国|国際援助庁(USAID)の閉鎖は世界の貧困国を危険にさらす恐れ

【国連IPS=タリフ・ディーン】

トランプ政権が、米国政府の主要な人道支援および災害救援機関である米国国際開発庁(USAID)を解体する決定を下したことで、世界の発展途上国に壊滅的な影響が及ぶことが予想されている。

バイデン前政権下で策定された2025年度予算要求では、今年の米国の対外援助額は驚異的な588億ドルに上った。

この援助計画には、昨年5月に開催された「米・アフリカ首脳会議」での米国の優先事項と約束を完全に支援するための資金が含まれていた。また、バイデン氏が「第7回グローバル基金補充会合」で公約した「他のドナーが2ドル拠出するごとに1ドルを拠出する」方針に従い、12億ドルを「エイズ・結核・マラリア対策グローバル基金」に提供することも予定されていた。さらに、国務省によると、感染症の脅威に対する世界的な備えを強化する「パンデミック基金」に対して持続的な資金提供を行い、米国のリーダーシップを推進する計画もあった。

しかし、USAIDの廃止と、世界中で1万人以上の職員が解雇され、わずか約290人のポジションが残されることで、これらの約束は放棄されるか、もしくは大幅に縮小されることになる。米国籍の職員は帰国を求められる予定だ。

「人道的大惨事と米国の信頼性の低下を招く」

Photo: Then U.S. President Trump announcing withdrawal from Iran nuclear deal in May 2018. Credit: The White House Flickr.
Photo: Then U.S. President Trump announcing withdrawal from Iran nuclear deal in May 2018. Credit: The White House Flickr.

2月11日付のニューヨーク・タイムズの一面記事によると、トランプ氏の大統領令に対する批判の声が高まっており、「これらの命令は人道的大惨事を引き起こし、米国の影響力、信頼性、そして国際的地位を損なう」と警鐘を鳴らしている。

同紙によれば、2023年の米国の対外援助額は約720億ドルであり、これにはUSAIDおよび国務省による支出も含まれている。経済規模が世界最大であるにもかかわらず、米国の対外援助額は国内総生産(GDP)比で他の先進国と比べて著しく低い。

USAIDは2023年に約380億ドルを医療サービス、災害救援、貧困対策、その他のプログラムに費やしており、これは米国連邦予算の0.7%に相当する。

「これは冷酷そのもの」

国際人道支援団体「コンシャス・インターナショナル」のジェームズ・E・ジェニングス会長はIPSの取材に対し、「USAIDの大幅な削減はすでに世界中に影響を及ぼしている」と述べた。

「世界で最も裕福な億万長者のうち2人が、グローバルサウスの何百万もの子どもたちの口から食べ物を奪うことは、単なる無関心ではなく、冷酷そのものだ」と指摘する。

「国際援助は単なる数字の問題ではない。それは、次の食事、安全な飲み水、寝る場所、そして緊急医療を必要としている人々の生活に直結しているのだ」と警告した。

ワシントンのUSAIDプログラムは、連邦予算のわずか1.2%の費用しかかからないとピュー・リサーチ・センターは指摘している。その多くは、世界中の難民や避難民を支援するために使われている。

「現在、難民の数は史上最多となり、約1億人に達している。マラリア撲滅やエイズ(HIV/SIDA)治療・予防プログラムへの支援を削減することは、狂気の沙汰だ。なぜなら、致命的な感染症はいずれすべての地域社会に広がるからだ」と、ジェームズ・E・ジェニングス博士は警告する。

ジェニングス博士によれば、「フランクリン・ルーズベルト大統領が1932年にホワイトハウス入りして以来、これほど多くの大統領令を発した指導者はいない」という。しかし、FDR(ルーズベルト大統領)の政策との違いは明白だ。

Wikimedia Commons
FDR. Credit: Wikimedia Commons

「FDRの政策は人々を救い、貧困から脱却させ、雇用を生み出し、生活を向上させるためのものだった」

たとえ巨大な連邦政府に改革が必要であり、国境管理を強化する必要があったとしても(これには多くの米国人が賛成している)、トランプ氏の政策は「自身のような富裕層をさらに強化し、退役軍人を含む米国民へのサービスを削減し、世界中で苦しむ人々への支援を排除するためのものだ。」とジェニングス博士は批判する。

このような行動は「独裁者や、独裁者になりたがる者の典型的な振る舞いだ」とも指摘した。

「子どもたちを飢餓に追いやる政策」

ニューヨーク大学(NYU)国際関係学の元教授であるアロン・ベン=メイル博士は、今週のオピニオン記事で次のように書いている。

「トランプの大統領令がもたらした壊滅的な影響を目の当たりにするのは、胸が張り裂けるようだ」

彼の決定により、世界中の何百万もの子どもたちが命を救う食糧援助を受けられなくなった。

例えば、スーダンでは120万人以上が米国の資金による食糧・医療・安全な水の支援を受けていたが、それがすべて失われた。

また、エチオピアの難民キャンプでは3000人以上の栄養失調の子どもたちが、米国が支援する「Action Against Hunger」のプログラムに依存していたが、これも打ち切られた。

「トランプの非人道的な決定は、単なる冷酷さではない。それは、かつて米国を象徴していた思いやりとリーダーシップの理念を打ち砕くものだ。」と、ベン=メイル博士は述べる。

かつて世界の飢餓と闘い、命を救うリーダーだった米国は、今や「トランプの残忍な攻撃のもとで、何百万もの無実の子どもたちを飢えと死に追いやっている。」と、強く非難する。

「凍結された30以上の研究プロジェクト」

ニューヨーク・タイムズによると、30以上の研究プロジェクトが凍結され、その中には以下のような重要な医療プログラムが含まれる。

モザンビークの5歳未満児へのマラリア治療

バングラデシュのコレラ治療

マラウイの子宮頸がん検診・治療プログラム

ペルーと南アフリカの小児結核治療

エチオピアの子どもたちへの栄養支援

カンボジアの幼児発達プログラム

ホワイトハウスの言い分

マルコ・ルビオ国務長官兼USAID暫定管理者は、次のように弁明している。

「米国は外国援助から手を引いているわけではない。しかし、それは私たちが説明できる、正当化できるプログラムでなければならない。そうでなければ、外国援助そのものが危険にさらされる。」

ホワイトハウスの「無駄遣いリスト」

USAIDの閉鎖を正当化するために、ホワイトハウスは次のような「無駄遣いの例」を挙げている。

150万ドル:「セルビアの職場やビジネスコミュニティにおける多様性、公平性、包摂性(DEI)の促進」

7万ドル:「アイルランドでのDEIミュージカルの制作」

250万ドル:「ベトナムの電気自動車」

4万7000ドル:「コロンビアでのトランスジェンダー・オペラの制作」

3万2000ドル:「ペルーでのトランスジェンダー・コミックの制作」

200万ドル:「グアテマラでの性転換手術とLGBT活動支援」

600万ドル:「エジプトの観光促進」

数十万ドル:「テロ組織と関係がある非営利団体への資金提供(監察官による調査後も継続)」

数百万ドル:「武漢研究所と関わるエコヘルス・アライアンスへの資金提供」

「シリアでアルカイダ系戦闘員に送られた数十万食の食料」

「途上国での個別カスタマイズされた避妊具の配布資金」

「アフガニスタンでのケシ栽培とヘロイン生産を支える灌漑施設・農機具・肥料の支援(タリバンへの利益供与)」

USAIDの閉鎖は、難民や貧困層への支援だけでなく、世界的な医療・公衆衛生プログラムにも深刻な影響を与えている。しかし、トランプ政権とホワイトハウスは、USAIDの資金の一部が「不必要なプロジェクト」に使われていると主張し、廃止を正当化している。

果たして、米国は本当に世界のリーダーとしての責任を放棄するのか?それとも、いずれこの決定が覆される日が来るのか?(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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