地域アジア・太平洋|パプアニューギニア|魔術狩り関連の暴力事件が増加

|パプアニューギニア|魔術狩り関連の暴力事件が増加

【クンディアワIPS=キャサリン・ウィルソン】

パプアニューギニアではこの10年、魔術狩り関連の暴力事件や死亡事件が増加傾向にあるが、こうした事件は同時に、開発・経済機会の欠如、不平等、保健サービス予算の不足等、同国の農村社会が直面している根深い問題を浮き彫りにしている。

3月末、シンブ県グマイン(Gumine)に住むセニさん(70)とその息子コニアさん(32)は、彼らにとって各々孫と姪にあたる少女を最寄りの病院に救急で運び込んだが、不幸なことにそのまま急死してしまった。その結果、両名はそのことで、魔術を使ったのではないかと地元の村で糾弾されることになってしまったのである。

 「私たちは土曜日に彼女を病院に運び込んだのです。しかし彼女は日曜日には病院で息を引き取ったため、やむなく遺体を村に連れ帰ったのです。しかし、私たちには彼女の死因が分かりませんでした。」とコニアさんは語った。

しかしセニさんとコニアさんは、村に到着すると、家族や地域の人たちに暴力を振るわれたのである。

コニアさんは、「私たちはその子の葬儀で遺体に近づいた際、村の皆が襲いかかってきたのです。彼らはナタを持っていました。それで私の背中や肩を切りつけたのです。それから私を便所に連れてゆき、縛り上げて便器の中に無理やり私の頭を突っ込みました。」と当時を振り返って語った。

父のセニさんも、この時の襲撃で何度も執拗に殴られ、うつ伏せに地面に倒れた。すると、襲撃者たちはなおも倒れたセニさんの脇や首を蹴り上げ、ついには意識を失ってしまった。「もしその時、上向きに倒れていたら、死んでいたでしょう。」とセニさんは語った。

次の朝、コニアさんの姉妹エヴァさんが近くに住む友人に連絡し、警察に通報がなされたことで、2人はようやく解放された。(IPSはその後エヴァさんに連絡を取ろうとしているが携帯電話がつながらない。2人を救おうとしたことでエヴァさん自身が危険にさらされているのではないかと心配している。)

パプアニューギニアでは、農村人口の85%においてアミニズム的な精霊信仰が依然として保持され、日常生活に大きな影響を及ぼしている。精霊信仰は、代々年長者から若い世代へと祖先の歴史が口伝で継承される中で伝えられてきた。

東部のゴロカ(Goroka)に拠点を置く「メラネシアン研究所」のジャック・ウラメ氏は、「大半のメラネシア人は『サングマ(Sanguma)』として知られている魔術や妖術の存在を信じています。誰かが亡くなったり病気に罹ると、たとえ医学的に原因を証明する書類があったとしても、人々は魔術のせいだと考えるのです。つまり魔術は、身の回りでおきる悪い現象を説明するための手段となっているのです。」と語った。

オックスファム・インターナショナルによる調査報告によると、セニさん、コニアさんの居住地であるグマイン県は、シンブ(Simbu)州の中でも魔術狩りに関連した事件がもっとも多い地域であるという。魔術狩りが起きる場合、家族や地域の中で弱い立場にある者、たとえば女性や寡婦、老人など、あるいは、日ごろ羨みの対象になっている者が狙われやすいという。

警察によれば、魔術狩りと称して迫害された犠牲者達は、石を投げられる、食事を与えられない、銃で撃たれる、電気ショックを与えられる、頭を切り落とされる、無理やり石油を飲まされる、生き埋めにされるなどの行為に晒されていることが確認されている。

「高地女性人権擁護ネットワーク」のモニカ・パウルスさん(右上の写真の女性)は、この10年間、シンブ県でこうした被害にあった人々を救済する活動を続けてきた。一時避難所の提供、心理面のケア、警察への通報などが彼女の仕事である。「近年、魔術狩り関連の暴力事件は流行といえるほど広がってきています。」とパウルスさんは語った。

クンディアワ(Kundiawa)警察署の広報担当官は、「今年に入って20件ほどの魔術狩り関連事件を把握していますが、それらのほとんどは警察に通報されていません。」と語った。

パウルスさんは、一部マスメディアによって、魔術狩り関連の事件が増えてきていることとエイズ感染の広がりに相関関係があるのではないかとの指摘がなされている点について、「魔術は、あらゆる病気や死亡の原因として非難されており、エイズ感染はその一例にすぎません。」と語った。

ウラメ氏もこの点については同様の見解で、「エイズ感染がまだ新しい未知の病気であった1980年代とは異なり、今では魔術とエイズ感染の関係を直接的に結び付ける証拠はほとんどありません。むしろ、魔術狩りの名目で行われている犯罪の主な動機は、嫉妬、妬み、復讐といった感情であり、近年こうした犯罪が増加している背景には、不平等、開発・経済機会の欠如、不満をため込んだ若者の存在、保健サービス予算の不足等の社会的要因があります。」と語った。

さらにウラメ氏は、「つまり人々は昔のやり方、つまり伝統的な信条に回帰しているのだと思います。物事が期待通り進まない場合、人々は打開策を見出すものです。つまりこの点において、魔術狩りを名目としたこうした事件の多発は、開発問題だと言えるでしょう。」と語った。

こうした農村部の実態とは対照的に、パプアニューギニア国内でも教育、保健サービス、雇用、治安の面で開発が進んでいる地域では、魔術狩りに関連した暴力事件や殺人事件は極めて稀である。

魔術狩り関連の事件が近年増加したことで、家族間の仲たがい、コミュニティー内の争い、立ち退き問題など、様々な社会的弊害が顕在化してきており、シンブ州では全人口の10%~15%の住民が影響を受けている。パウルスさんは、この事態に対処するためには、警察が対処能力を向上させるとともに、コミュニティリーダーがきちんと責任を持つ体制が構築されなければならない、と述べている。

アムネスティ・インターナショナルは、「魔術狩り関連の殺人事件は、目撃者が関係者による報復(拷問や殺人)を恐れて証言をしたがらないため、裁判にまで至らない場合が多い。警察当局に対する不信が、こうした殺人事件に対する警察の捜査能力を著しく阻害している。」と報告している。

パウルスさんは、「地方議員や牧師、地域のリーダーが、地域で起きていることに責任を持たねばならないのです。(事件を立証するには)証言者が必要ですが、地域のリーダーにきちんと責任をとらせるようにしない限り、誰も証言者になろうなんて思いませんよ。」と語った。

クンディアワ警察署の広報担当官は、「全ての魔術狩り関連の殺人は、殺人事件として取り扱っています。」と語った。しかしコミュニティー全体がこうした犯罪に加担していることも少なくないため、事件に関する事実確認や、証言、犯人の特定をするうえで、村人の協力を得るのは極めて困難なのが現状である。魔術狩り関連の事件で、実際に裁判までたどり着く事例は現時点で1%にすぎない。また、警察当局も、こうした事件に効果的に取り組むには人員や予算が不足しているとの指摘もある。

ウラメさんは、「(魔術狩り関連の問題関する)教育と意識の向上を図っていくことが、人々の行動を変容していくうえで重要です。」と指摘したうえで、「私たちが実施した調査結果によると、魔術狩りに関する問題に関する人々の認識はかなり限られたもので、一般にこうした問題があるという認識すら持ち合わせていません。人々は、自らの世界観と信条体系にとらわれているのです。」と語った。

またメラネシアン研究所は、黒魔術行為を罰する目的で1971年に制定された魔術法令(the Sorcery Act)について、「同法は抜け道だらけのざる法であり、そもそもある人物が精神的な力で特定の人物を病気にしたり死亡させたりする能力があると法的に証明することはできない」として、法律の廃棄を要求する運動を支持している。

この点についてウラメ氏は、「私たちは魔術法令を廃止し、魔術狩りの名を借りた全ての迫害や殺人行為を犯罪とみなすべきだと訴えたのです。」と説明した。

また、魔術法令を再審査してきた「憲法見直し・法律改革委員会」も、同法は全般的に廃止すべきと勧告している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
│南太平洋│「気候変動難民」発生の時代へ
|南太平洋|広がる児童労働と性的搾取
フリーマーケットは森林破壊を防げるか

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」国際会議

パートナー

client-image
client-image
IDN Logo
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
Kazinform

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken