【カラチIPS=ビーナ・サルワール】
南アジア諸国は、暴力の渦に巻き込まれている。昨年11月にはインドのムンバイで180人の犠牲を出す大規模テロ事件が起こり、3月3日には、パキスタンのラホールで、クリケットのスリランカチームが乗車したバスが襲われ、警備員8人が死亡、選手も8人が怪我を負った。
バングラデシュでは、国境警備隊の兵士らが給与と勤務条件をめぐって反乱を起こし、70人の将校を殺害するに到っている。
国同士が対立している南アジアにおいては、クリケットを通じた民衆同士の交流は重要だと考えられてきた。そのこともあって、まさかクリケットの選手がテロの対象になるとはほとんどの人たちが思っていなかった。
しかし、この数年間、テロへの恐れから、多くのナショナルチームが遠征を控えるようになっている。
パキスタンでは、タリバンやアルカイダ、地元の過激派である「Laskhar-e-Tayyaba」や「Jaish-e-Mohammed」などが、パキスタン諜報部などともつながりながら、次第に連携をみせるようになってきている。
彼らの目的は、たんにイスラム国家を建設するということではなく、国家自体を不安定化させるという点にある。ラホールでのテロは、ムンバイ・テロ後難しくなっていた印パ間の対話の再開をさらに先送りにする効果を持った。
パキスタン諜報部(ISI)のハミード・グル元長官(元中将)は、インドはパキスタンをテロ国家だと宣伝したいがために、ラホールでのテロという陰謀を企てた、とテレビで発言している。他方で、ジャムシェド・アヤズ・カーン元少将のように、ろくな調査もせずにそのような結論を導くべきでないとの冷静な意見もある。
結局、こうした状況の中で損をするのは両国の普通の民衆であり、勝者となるのは、国家の不安定化にまんまと成功したテロリストたちなのである。
ビーナ・サルワールが南アジアのテロの状況について解説する。(原文へ)
翻訳/サマリ=IPS Japan