SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)自らの責任でない気候変動による「恐怖」の解決策を求める南太平洋の国々

自らの責任でない気候変動による「恐怖」の解決策を求める南太平洋の国々

【バンコクIDN=カリンガ・セネビラトネ】

フィジーのジョサイア・バイニマラマ首相は、「キリバスツバルマーシャル諸島という南太平洋の小さな島嶼諸国は『まとめて波にのまれる運命にある。』」と強い調子で指摘した。気候変動がもたらす影響は「極端な気候事象による恐怖に他ならない」とするバイニマラマ氏は、国際社会に対して、フィジーなどの南太平洋島嶼諸国が、気候変動の影響に対するレジリエンス(リスク対応能力)をつけるための支援を訴えた。

国連アジア太平洋経済社会委員会の第72回総会(5月17~19日)の開会にあたって、今回で議長を退任するバイニマラマ氏は、「もし先進工業諸国が、このまま手をこまねいて小規模で脆弱な国々に適切な支援の手を差し伸べないならば、歴史は厳しい審判を下すだろう。地球温暖化の原因を作ったのは先進工業国であり、私たち(=太平洋島嶼諸国)ではないのだから。」と語った。

バイニマラマ氏は、アジア・太平洋地域の65カ国以上の閣僚・高官に対して、先進工業諸国は、「自国産業がCO2排出により得た富の一部分を使って、先進工業国よりも貧しく、彼らが作り出した環境危機の矢面に立たされている我々のようなより小国を支援すべきです。」と語った。

今年2月20日、南半球で発生した毎時300キロメートル以上の史上最大級のサイクロンがフィジー諸島を襲った。44人が死亡、4万軒以上の家屋と229の学校が倒壊した。世界銀行は、被害額は全体で約14億ドルに上ると推計している。

バイニマラマ氏は、「我が国を直撃した僅か1回の異常気象でも、その後数年間にわたって我が国の経済を危機に陥れ、それまで苦労して手に入れた開発上の利益をすべて帳消しにしてしまうこともあるのです。」と指摘したうえで、「南太平洋の小規模で脆弱な島嶼諸国がこうした脅威に対応するための支援を、国際社会が協調して行わないならば、持続可能な開発目標(SDGs)には何の意味もなくなってしまいます。」と、厳しい現状を訴えた。

「『2030アジェンダ』についていくら議論を重ねても、フィジーのような国々からすれば、国際社会からの緊急の支援なくしては、持続可能な開発目標を達成する希望はほとんど、あるいは全く持てません。」とバイニマラマ氏は警告した。

「太平洋島嶼国の指導者らが強調しているのは、先進諸国は、この問題の解決策を導くために、彼らの国々への協力に積極的に関わっていく責任があるということです。」とESCAPマクロ経済政策・分析部門のハムザ・アリ・マリク主任はINPSの取材に対して語った。

「気候変動への対応能力をつけることは、持続可能な開発目標を達成するにあたってESCAPが焦点を当てている三本柱(経済、社会、環境)のひとつです。」「太平洋島嶼諸国の経済は気候変動により大きな影響を受け、一つの災害によって開発面で数年の遅れが生じてしまいます。」とマリク氏は指摘した。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

マリク氏はまた、「これらの島嶼諸国には、こうした災害に直面した被災者に対して食料を提供したり、インフラを再建したりする能力が備わっていません。環境の持続可能性と経済成長との間にトレードオフがあることを認め、それを開発枠組みの中に取り込むことが必要です。」と語った。

バイニマラマ氏は、フィジー政府が単に事態を静観して、国際社会からの支援が来るのを待っているだけではないことを示すためにESCAP総会の会会期中にサイドイベントを開催し、気候変動がもたらす恐怖・脅威に対する対応能力を構築していく決意を示した。

サイドイベントで発言したESCAPのカヴェー・ザヘディ事務次長は、「(気候変動への)対応能力を構築することは、選択の問題ではなく必要性の問題です。」と語った。ザヘディ氏は、とりわけ南太平洋の小規模で脆弱な国々の場合、災害支援は特定の省庁だけの責任ではなく、全ての省庁にわたるものだと指摘した。

「私たちは従来の考え方を変えるべきです。」と論じたザヘディ氏は、サイクロンやそれと同等の気候パターンからの脅威は、一つの国に限定されるものではなく、国境を超える性質を持っていると指摘した。

インドネシア気象・気候・地球物理学局長のアンディ・エカ・サキャ博士は発表において、インドネシアは小規模の島々から成る群島国家であるから、気候変動によって引き起こされた自然災害に対応する十分な経験があり、地域におけるこの領域での南南協力の機は熟していると語った。

インドネシアは、フィジーが2月のサイクロンの影響に対応し復興する能力を得る支援を続けており、この領域における南南協力に向けた了解覚書(MOU)をESCAPと最近結んだとサキャ博士は説明した。「インドネシアは災害対応の豊富な経験があり、長期的な戦略的計画を策定してきている」と述べ、災害支援促進のための太平洋におけるハブ構築についてESCAPと4月に議論を行った、と付け加えた。

タイのチャチャイ・プロムラート防災長官は、「2005年にアジアを襲った大津波の後、タイは気候変動や自然災害に対応する経験や資源を積み上げてきました。私たちは地域協力の必要を認識しています。私たちはまた、事後対応ではなく事前に動くプログラムに一層着目しています。」と語った。

UNESCAP
UNESCAP

フィジーのイニア・セルイラトゥ農業・海洋・地域開発大臣は、「気候変動による天候パターンの影響への対応能力を構築することは、南太平洋においてSDGsを達成するうえで重要です。」と述べるとともに、「私たちは度重なる環境の変遷を考慮する必要があります。私たちは今までの生活を変えなくてはなりません。気候変動がもたらすリスクへの配慮は、新たな日常として受け入れなくてはなりません。」と主張した。

フィジーは、(17の目標からなる)SDGsの計画の中に、新たに「災害リスク評価」を組み込み、SDGsの第18目標に加えるように呼びかけている。

セルイラトゥ大臣は、フィジー政府主催のサイドイベントでの発表で、SDGsにおいて貧困削減が強調されているのは重要なことだ、としながらも、気候変動リスクへの対処の問題とのバランスが必要だと指摘した。

全体会で発言したツバルのマアティア・トアファ副首相は、「気候変動の問題は、ツバルのような小さな国にとっては非常に大きなものです。ツバルは、気候変動の物理的な影響に晒される一方で、気候変動に強い重要インフラや対応能力を構築するにも、グローバル気候変動ファンドからの資金獲得に苦労しているのが現状です。」と語った。

Severe Tropical Cyclone Pam approaching Vanuatu on March 13, 2015/NASA’s Aqua satellite, Public Domain

トアファ副首相はまた、「ツバル政府は、気候変動の影響とそれによる災害からの復旧と復興を目的とした資金を確保するために500万ドル規模の『ツバル・サバイバル基金』を設立しました。」と指摘した。そしてその理由として、「2015年のサイクロン『パム』の壊滅的な影響を受けた際、適切な保険がないことを知り、この基金が必要だと思い至ったのです。」と述べ、ESCAP加盟国に同基金への資金提供を呼びかけた。

気候変動に加えて、小規模な太平洋島嶼諸国における持続可能な開発を妨げる大きな要因として、エネルギーを化石燃料に依存する割合が極度に大きいという問題がある。そのことは、アジア太平洋地域の「特別なニーズを有する国々」(CSN、countries with special needs)が直面している持続可能な開発問題に関して、ESCAP会合で発表された報告書でも指摘されてきた。

CSNレポート」と題された同報告書では、南太平洋の小規模島嶼諸国は、その規模の小ささ、主要な市場へのアクセスを困難にする距離、限定的な輸出基盤、(サイクロンのような)慢性的な環境問題のために極めて不利な条件に立たされているが、持続可能な開発の主要な阻害要因は、発電のための輸入石油燃料に対する高度な依存にあると指摘されている。

海洋とそれが生む風に囲まれて、365日間、十分な日光が降り注ぐこれらの島々には、太陽光や地熱、風力などを利用する十分な素地があるが、太平洋島嶼諸国における再生可能エネルギー源への投資は非常に低調だ。

風力を利用しようとする試みすら、気候変動ゆえに発生するサイクロンによって悪影響を受けている。日本の濵地雅一外務政務官はパネル討論で、トンガが風力発電所を設置した時ですら、サイクロンによって羽が飛ばされてしまったと指摘した。

他方、バイニマラマ首相とシャムシャド・アクタールESCAP事務局長間の会談で、両者は、フィジーに気候変動センターを設立して、小規模で脆弱な諸国に対して実践的な訓練・能力開発を提供することで仮合意している。(原文へPDF

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC

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