【ワシントンIPS=ナシーマ・ノール】
スリランカ国軍とタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の2009年の内戦最終段階(1月~5月)を克明に記録したドキュメンタリー映画「スリランカのキリング・フィールド」が、7月15日、米議会において上映された。映画を紹介したトム・ラントス人権委員会のジェームズ・マクガバン下院議員は「(この記録は)人間の恐るべき最悪の側面を示す実例である」と語った。
ジャーナリストで映画監督のカラム・マクラエ氏(Callum Macrae)が制作したこのドキュメンタリー(50分)は、初め英国の「チャンネル4」で放映された。ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナル、国際危機グループ(ICG)、オープン・ソサエティ財団などが制作を支援した。
スリランカ軍は2009年1月、ゲリラ勢力掃討のため、既にスリランカ北東部の狭い地域に追い詰められていたLTTEに対する総攻撃を開始した。その結果、LTTEに対する決定的な勝利を収めたが、その過程で少数民族のタミル系一般住民多数が戦闘に巻き込まれて死亡した。映画には戦闘を目撃した人々の証言と生々しい虐殺の映像(両勢力の軍人や戦闘に巻き込まれた民間人等がビデオカメラ、携帯で記録し、国連が本物と認証した)が映し出されている。
映画のあるシーンは、軍による病院砲撃後の状況を映し出している。人体が粉々になり、雨で死体から流れた血が目に入ってくる。
国連専門家パネルが今年4月に報告したところでは、スリランカ軍は総攻撃に際してとりわけ砲撃を重視し、安全地帯区域として宣言していた地域にも砲撃を行ったことから4万人が殺害された。当時の目撃者や人権団体は、当時スリランカ軍は、病院や食糧配給所で並んでいた民間人を意図的に狙って砲撃したと主張している。
また別のシーンでは、小さな女の子が壕の中から母親に向かって何かを叫んでいる。わずか数メートル離れたところにいる母親は血を流し、息も絶え絶えなのだが、通常スリランカ軍は負傷者を助けに駆け寄る人々を狙って2次砲撃を行うため、女の子はまわりの人々に引き止められて母親の元に駆け寄ることができずにいる。
他にも、即決で処刑される捕虜の様子、性的に暴行されたとみられる女性の死体なども記録されている。
他方で映画は、LTTEによる民間人攻撃も描いている。国連は、LTTEは民間人を人間の盾として使い、逃亡しようとした民間人を殺害したとの信頼できる証言を得ている。
マクガバン下院議員は、「これらの映像は、単に衝撃的な事実を伝えるということに止まりません。これらはこうした虐殺を犯した責任者の罪を追及する独立調査の必要性を訴える強力な証拠でもあるのです。」「もしスリランカ政府が真相解明に行動をおこせない或いはおこしたがらないということであれば、国際社会はそれに代わって行動をおこさなければなりません。」と語った。
上映会に引き続いて、この映画製作を支援した国際人権団体の専門家たちによる討論会が開かれ、スリランカ政府の責任を追及する取り組みや、最近の国連関連レポート、この問題への米国の対応等について協議がなされた。
国際危機グループのマルク・シュナイダー副代表は、スリランカ軍の行動に関する政府調査を批判し、真実を明らかにし責任の所在を明確にすべきだと発言した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのワシントン地区責任者トム・マリノウスキー氏は、反乱軍対策は、米軍では民間人と戦闘員を区別して戦闘員のみを攻撃対象とするものと指摘した上で、「スリランカ政府は、反乱軍を掃討するために、まず国際監視団やジャーナリストを追放し、民間人もろとも圧倒的な武力で攻撃し殲滅するという非常な戦略を実行しました。このようなことをすれば、当然国際的な非難に晒されるわけですが、スリランカ政府は勝ちさえすれば歴史は書き換えられるという態度に出たのです。米国は決してこのような戦略がまかりとおることを許さないでしょう。」と語った。
またマリノフスキー氏は、スリランカ内戦とリビア内戦に対する国際社会の対応について言及し、「リビア上空に飛行禁止区域を設けたのは、まさにスリランカで起こったような惨劇を防止するためだったのです。私たちはスリランカ紛争を生き延びた人々に対して、何が起きたかを私たちがきちんと理解しており、虐殺の責任者の罪を追及することを重要視していると伝えることが少なくとも必要です。」と語った。
スリランカ内戦に関するドキュメンタリー映画について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩