地域アジア・太平洋|スリランカ|茶農園の労働力不足

|スリランカ|茶農園の労働力不足

【コロンボIPS=フェイザル・サマト】

かつてスリランカの特産品であり、輸出額第1位を誇った紅茶が、もはや国の経済問題の解決策ではなくなってきた。1960年代に始まったインド系タミール人の大量追放以来、プランテーションの労働者不足が深刻になったためである。 

記事本文1964年10月、インドとスリランカはスリランカのプランテーションで働く「インド系タミール人」60万人を段階的にインドへ送還するという協定を結んだ。37万5,000人はスリランカの市民権を得たが、その多くはスリランカ北東部の「スリランカ系タミール人」が優勢な地域に移った。 

茶農園に残った人々の中でも、茶摘みの仕事を子供が受け継ぐという習慣が失われている。さまざまなチャンスが広がり、大学に進んで医者などの職業に就く農園労働者の子供もいる。

 「自分の2人の子供を茶農園で働かせたくない。もっといい仕事に就いて幸せになってほしい」と、ハットンの丘陵地のプランテーションで働くP.ジャヤラニさんはいう。「茶畑の仕事には労働の尊厳がない」。

また別のインド出身の茶農園労働者のS.ラジェスワリさんは、自分の子供には農園から出て行って欲しいと思っている。「13年間この農園で働いてきたが、生活は良くならない。子供たちが望んでも茶農園では働かせたくない。もっといい生活をしてほしい」。 

 プランテーションの関係者の話では、祖父母や両親の跡を継ぎたがらない茶園労働者の子供が増えている。1世紀以上前の植民地時代を支配していた英国人の農園主に、南インドのタミール・ナドゥ州からスリランカへ連れてこられた人々の子孫が、代々の仕事を厭うようになった。 
 
 加えて、もはや紅茶産業は優秀な人材に魅力的なものでなくなっている。数十年前には首都コロンビアの一流の学校の優秀な卒業生が、プランテーション経営に幹部補佐として参入し、多くの使用人に囲まれて植民地時代からの邸宅で贅沢な生活を送り、英国人の残した壮大なクラブハウスを中心とした華やかな社交生活を楽しんだ。 
 
だが今日の状況は植民地時代とは全く様変わりし、労働組合の力が強まり、労働者の権利意識が高まって、ストライキがひんぱんに起きるなど、若い管理職にとって経営は容易ではなくなった。 
 
 「中間管理職の既婚男性は、以前とは異なり、プランテーションで働くことを好まない」とプランテーション省のJ.アベーウィックラマ秘書官はIPSの取材に応じて語った。 
 
 プランテーション企業2社を経営するダヤン・マダワラさんは、ライフスタイルの変化により管理職は農園の仕事に就くのを思いとどまるという。「子供の教育と多様な職業のチャンスを考えると、茶農園から遠ざかる」。関係者によると、毎年、中間管理職も茶園労働者も10%ずつ減っているのが現状である。 

茶農園で働く親と同居しながら、別の仕事先で働くものが増え、現在、茶農園で仕事をしながら生活している人口は100万人だが、実際に茶園で働いているのは40万人に過ぎない。プランテーション企業を代表する農園主協会のM.Goonatillake事務局長は、世界銀行の調査を引用して、「農園に住む一家庭当たりの茶農園労働者の数は、統計によると2.6人から1.9人に減った」という。 

「これは茶農園に住みながら、農園内で働く人の数が減っていると意味している。おそらく茶農園で無料の家に住み、子供の医療も診てもらい、親が仕事をしている間は子供の世話を任せるなど、あらゆる恩恵を享受しながら、農園の外で仕事をしている」とGoonatillake事務局長は語った。 

Goonatillake事務局長は、労働力不足に悩むプランテーションを経営する企業が、手摘みの代わりに「一心二葉」を摘みとる刈り取り機の利用などの機械化を進めるよう期待している。「すでに取り入れているところもある」。 

だが、スリランカの紅茶は特に女性労働者による手摘みを売り物にしているため、機械化は打開策にならないかもしれない。機械の利用によって客を失う恐れがある。「機械摘みにするとこれまでの客を失う可能性がある」とアベーウィックラマ秘書官はいう。 

労働力不足を克服するために一部で検討されているのは、企業がプランテーションの区画を労働者へ貸し出すという方策である。企業は労働者から葉を買い、工場を経営するだけでいい。 

商工会議所連盟支部のG.ラサイア副部長は、多くの若者が、さらに教育を受けて、この地域に次々に誕生している教育機関で、コンピュータ技能を学び、英語に堪能になりたいと望んでいるという。 

スリランカの紅茶は、中部丘陵地、内陸部、起伏のある低地で栽培され、世界で最高の品質を誇っている。ケニアなどの新たな茶の生産国との競合で、スリランカでは従来のバルク梱包から個別包装へと切り替え、リプトンやインドのタタ紅茶などの世界的なブランドとの争いも首尾よく進めている。 

茶農園経営への新規参入はなく、スリランカ最大の企業連合のジョン・キールズ・グループなどの大企業は、数年前にプランテーション事業を売却し、その資金を不動産業やレジャー産業につぎ込んでいる。 

茶農園の若者も、生活の質を高める携帯電話、衛星テレビ、三輪自動車、分割払い、バイクなどに心を奪われ、先祖たちのように茶農園で単調な重労働をして生活を送る必要性を感じていない。 

けれども農園主協会のGoonatillake事務局長は、多くの若者がよりよい仕事を求めてコロンボに出かけていくが、小さなうらぶれた道路わきの食堂や宝石店で長時間労働を強いられるはめになるという。「茶農園での生活より、ずっと大変だ」。 

被服縫製工場や毎年数千人を海外へ送り出す移住労働者産業も、茶農園の労働者を奪っている。特に女性は、中東や東南アジアでの家政婦の仕事を求めて、茶農園を去る。 

移住労働者からの送金と服飾産業は、紅茶を追い抜いて主要な外貨の稼ぎ手になっている。2006年には、スリランカは紅茶により8億ドルの収益を得た。それに比べて、服飾品の輸出は27億ドル、移住労働者からの送金は21億ドルに上った。 

興味深いことだが、こうした分野すべてにおいて女性が特別な役割を果たしていること考えると、やはり女性はスリランカの経済を動かす原動力に思える。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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