ニュース巨大慈善団体は開発問題にどう影響を与えているか

巨大慈善団体は開発問題にどう影響を与えているか

【国連IDN=ロドニー・レイノルズ】

世界の開発政策は「巨大企業」だけではなく「巨大慈善団体」によっても影響を受けるようになってきている、と最近発表された報告書が警告した。

「とりわけ重要な領域として、貧困撲滅、持続可能な開発、気候変動、人権擁護などの国際的な政策論議において、慈善団体が影響力をもつアクターになってきている。」

「過去および現在の言説および意思決定プロセスにおけるこうした団体の影響力の程度は、他の民間アクターの影響力と全く同等か、場合によってはそれを上回ることもある。」

グローバル政策フォーラム」(GPF、ベルリン)が出版した報告書『慈善団体の力と開発:誰が課題設定をするのか』は、イェンス・マルテンス氏とカロリン・ザイツ氏が共同執筆したものである。

同報告書によると、世界的な巨大財団、とりわけロックフェラー財団ビル&メリンダ・ゲーツ財団などが、その資金助成の規模、人脈、積極的な政策提言を通じて、国際機関や諸政府の課題決定や支出の優先順位の決定において、大きな役割を果たすようになってきている、という。

「これまでは、慈善団体は世界の開発において積極的な役割を果たしているという比較的好意的な見方が、諸政府や国際機関の間であった。」

報告書の共著者でGPF事務局長のマルテンス氏は、「慈善財団、とりわけゲーツ財団やロックフェラー財団、国連財団は、単に主要な資金提供者であるだけではなく、複数の利害関係者によるグローバルなパートナーシップを背後から動かしています。」とIDNの取材に対して語った。

「『子どものワクチンイニシアチブ』『結核撲滅同盟』『ワクチンと予防接種のための世界同盟』『栄養を向上させよう』(SUN)のような、こうしたパートナーシップの多くは、これらの財団によって始められたものです。」と、マルテンス氏は指摘した。

しかし、とりわけ保健部門におけるグローバル・パートナーシップと大規模財団の急成長は、個別に分断され、しばしば調整を欠いた解決策をもたらしている。

Jens Martens/ GPF

「こうした傾向は、国連やその専門諸機関の組織的な弱体化に結びついているだけではなく、各国レベルでの統合された開発戦略の履行にもマイナスとなってきました。」とマルテンス氏は指摘した。

「私たちはこの報告で、各国政府や国際機関の間に企業的慈善団体の積極的な役割に対するしばしば無条件の信頼があることを批判しました。」

7月に発表された「第3回開発資金国際会議」の成果文書、通称「アディスアベバ行動目標」では、諸政府が慈善団体の急速な成長を歓迎した。しかし同時に、透明性と説明責任の向上も求め、地元の事情に適切な考慮を払い、各国の政策や優先事項との連携を図るよう、慈善団体のドナーに対して訴えている。

「諸政府と国連は、主な慈善財団、とりわけビル&メリンダ・ゲーツ財団の拡大する影響力を緊急に評価し、そうした団体の活動の意図的および非意図的なリスクと副次的影響を分析してみる必要があります。」とマルテンスは訴えた。

12月9日付の『ニューヨーク・タイムズ』記事「億万長者の政治家」によれば、12日に終了した気候変動パリ会議に到着したゲーツ氏は、「政府はクリーン技術に対する研究開発費を増やすべきだ。」というメッセージを残したという。

ゲーツ氏は、新たな種類の電池と原子炉に関する研究を開始するために、自身の財産から約10億ドルを投資してきた。

『ニューヨーク・タイムズ』によれば、ゲーツ氏は「率直に言えば、気候変動に関する交渉でこれまで研究開発がいかなる方法や形式においても議題にあがってこなかったことに少し驚いている。」と語ったという。

GPFの調査報告書は、2013年6月に国連信託統治理事会で開催された「注目すべきイベント」について詳しく記している。このイベントは、招待客150人以上が集った第2回「フォーブズ400慈善サミット」である。

国連の潘基文事務総長が開会のあいさつを行い、ビル・ゲーツ氏やボノ氏、ウォーレン・バフェット氏といった著名な慈善活動家が参加し、クレジットスイスがスポンサーとなった。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

雑誌『フォーブズ』によると、「世界の富のうち0.5兆ドル近くを合計で保有する」参加者らは、「自分たちの富や名声、起業の能力を使っていかにして貧困を根絶できるか」を討論したという。

このサミットを受けて同誌は、「起業家は世界を救う」というタイトルで慈善問題特集号を発行している。

GPFの調査報告書は、国連本部でのこのイベントは、世界の開発政策・実践において慈善活動家とその財団の影響力が急速に拡大していることの象徴だとしている。

貧困から気候変動に至る世界の問題を解決するために彼らのビジネス上のノウハウと資源を利用する能力は賞賛され、自らの予算や責任に対する負担を軽減したい各国政府によって利用される形になっている。

こうした傾向は、世界の保健・疾病対策や栄養・食料・農業分野において特に顕著だ。

この両方の分野において、ロックフェラー財団とビル&メリンダ・ゲーツ財団の2つがとりわけ活発に活動しており、この調査では特に焦点が当てられている。

全体状況

調査報告書は「世界の財団の状況全体の中でこれらの財団はどう位置づけられるだろうか?」と問うている。

財団は、種類、目的、資金調達の方法、主要テーマ、地理的範囲、優先事項、アプローチ、政治的方向性において異なっている。

世界レベルで活動するもの、地域レベルで活動するもの、全国あるいは地方レベルで活動するものなど、さまざまである。

世界的な焦点を持った財団の中では、気候変動の科学からグローバル・ガバナンス、貧困・飢餓の削減に至るまで、広い範囲の領域をカバーしている。

これらの活動は、資金提供から、自身の運営・政策提言活動、新たな形態のベンチャー慈善活動まで、幅広い。

「しかし、これらが共有しているのは、今日の世界が直面している大きなグローバルな課題は、政府だけで解決することはできず、これらの財団の創設者らの多くがビジネスの世界で開拓してきたのと同じような、市場を基盤にした技術的アプローチによって最もよく解決しうるという固い信念である。」

こうしたアプローチは、とりわけ世界レベルで活動する巨大慈善団体の活動を、その初期の頃から特徴づけている、と報告書では述べている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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