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|軍縮|核廃絶を世界的課題に引き戻した10ヶ国

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

心を引き裂くような福島原発災害のイメージとアラブ世界の民衆蜂起の波によって、核兵器なき世界に向けて中東を非核地帯にするという急務の課題が見えなくなりそうな危険があった。しかし、地域横断的な非核兵器国10ヶ国による取り組みが、世界を無感覚状態の中から救い出そうとしている。

 非核10ヶ国の外相が、「核兵器使用の可能性によって人類がさらされている危険並びに増大する拡散リスクに対処し、核兵器を削減し、核セキュリティを強化し、また、原子力安全を強化する必要性」を指摘する一方で、「中東非核・非大量破壊兵器地帯」の創設を実現するために努力していくことを誓った。
 

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

そうすることで、10ヶ国の外相は、世界の市民社会の果たす重要な役割にまでは言及しなかったものの、世界で約1200万人の会員を有する仏教団体「創価学会インタナショナル(SGI)」の池田大作会長が今年1月に発表した「2011年の平和提言」で提示した重要項目を間接的に支持した、ということになろう。
 
 市民社会が重要な役割を果たす中で、たんなる核軍縮ではなく核兵器を全廃していくことこそが、核兵器の脅威に対する唯一の保証である、と「平和提言」は述べている。

4月30日にベルリンで開催された「第2回核軍縮・不拡散に関する外相会合(ベルリン会議)」に参加した10か国外相は、世界の市民社会の重要な役割については触れなかったが、全会一致で採択した成果文書「ベルリン声名」の中で、「教育が、市民の認識及び理解を深めることによって、更なる軍縮・不拡散の取組をグローバルに動員していくための強力な手段であるとの信念に基づき、軍縮・不拡散教育を積極的に促進する。」ことを誓っている。
 
また同声名は、「我々は、核兵器の使用又は核兵器の使用の威嚇に対する唯一の保証としての核兵器の完全な廃絶への新たな要求を歓迎し、支持する。また我々は、その結果として、核兵器の数、並びに安全保障戦略、概念、ドクトリン及び政策における核兵器の役割を、更に低減する必要性を認識する。」と述べている。
 
核ドクトリンを支える安全保障戦略に言及して、池田会長は平和提言の中で、「核兵器の保有を維持する前提とされてきた、“恐怖の均衡”で安全保障を維持するという抑止論的思考を徹底的に見直すことが必要。」と述べている。

オーストラリア・チリ・ドイツ・日本・メキシコ・オランダ・ポーランド・トルコ・アラブ首長国連邦の外相は、この「ベルリン声名」において、「重要な不拡散の役割を担う、国家の輸出管理体制の強化を目的とした具体的な取組」を進めていくことによって、「核軍縮の実現及び国際的不拡散体制強化に向けて取り組むという共同の意志」を再確認した。

世界各地域から集まった10ヶ国の外相は、国連総会の会期中である2010年9月22日にニューヨークで開いた第1回会合で採択した共同声明に言及した。このときの会合は、日豪両政府の外相がホスト役を務めた。

池田会長は「平和提言」の中で、「地域の永続的な安定を確保するには、非核化は避けて通れない道」と指摘した上で、「中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に向けて対話の環境」を作り出すことを求めていた。

そうした対話の環境作りを早急に進めていかなければならないとしながら池田会長は、「昨年のNPT運用検討会議で合意をみた2012年の『中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に関する会議』は、成否以前に開催そのものが危ぶまれている。」と付け加えた。

中東に関する2012年の会議の不確実さは、対話の環境作りに向けたさらなる努力の必要性を示している、と池田会長は述べている。

10ヶ国外相は、SGI会長の懸念とまさに同じように、「当該地域の関係国家間で自発的に達成された手段に基づき、かつ、国連軍縮委員会の1999年のガイドラインに従って、国際的に認知された非核兵器地帯の設置が促進されることを期待し、また、そのような地帯が、地域及びグローバルな平和と安全を強化し、核不拡散体制を強化し、核軍縮の実現に貢献すると確信する。」と述べている。

「この関連で」、さらに10か国外相は、「2010年NPT運用検討会議において合意された、特別会議の2012年における開催に向けた要請に従い、中東における非核兵器及びその他の非大量破壊兵器地帯の創出を促進する決定的重要性を強調する。」と述べている。

核拡散防止条約(NPT)運用検討会議は、2010年5月にニューヨークの国連本部で開かれた。

1970年に発効したNPTは、核軍縮と核拡散防止に関する国連の主要な取り決めのひとつである。190ヶ国がNPTに加盟しているが、核兵器を保有するとみられるインド・パキスタン・北朝鮮・イスラエルの4ヶ国は未加盟のままである。

10ヶ国外相は、「最近の進展、特に米露間の第四次戦略兵器削減条約(新START)の発効及び、削減プロセスを継続するとの両国による意図表明を心強く思い、このプロセスにすべての種類の核兵器が含まれる必要性を強調する。」と述べている。

しかし、ドイツのギド・ヴェスターヴェレ外相は、ベルリン会議の開会挨拶でより明確に「我々は、昨年5月のNPT会議での約束を核兵器国が守ることを期待している。」「我々は、核軍縮のペースが上がり、軍事ドクトリンにおいて核兵器の役割が低減するのを歓迎するだろう。バラク・オバマ大統領の(2009年4月の)プラハ演説以来ついた軍縮への弾みを失ってはならない。」と語った。

またヴェスターヴェレ外相は、米露両国が(核軍縮の)交渉のテーブルに戻ってきたことについて、「これは皆にとってグッド・ニュースだ。二国間ではプロセスは軌道に乗っているようである。」と賞賛する一方、「多国間の協議は脱線寸前だ。」と語った。

オーストラリアのケビン・ラッド外相も、昨年のNPT会議以来「実務的な作業はほとんど進んでいない」と指摘し、ヴェスターヴェレ外相と同様の見解を示した。

しかし、10ヶ国の外相は、ヴェスターヴェレ外相の以下の発言にあるように今後の展開について楽観的である。「これから数週間、数ヶ月の間で、我々の取りくみによって多国間交渉を再スタートさせることができるかもしれない。とりわけジュネーブ軍縮会議において、これまでの頑なな態度をともに乗り越えることができる。」

ベルリンで始められた取り組みに言及したメキシコのパトリシア・エスピノサ外相は、この共同の努力は「人類の未来に直接の影響を持つ問題の重要性」を反映していると述べた。

ベルリン声明は、「2010年のNPT運用検討会議において達成された前向きな行動計画に関するコンセンサスは、必要な政治的意志があれば、協力的で多国間の軍縮・不拡散の取組が機能することを証明した。」と述べている。

またベルリン声明は、「我々の目的は、そのような成功裏の結果のモメンタムを維持し、また、その実施を促進することである。」と述べている。10か国外相は、この目的により、行動計画の主要な事項に関する具体的行動提起として次の4つのものを採択した。

核分裂性物質

1.兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)に合意することで、核兵器用の核分裂性物質の生産を止めること。こうした条約は将来における核軍備競争のリスクを抑制し、非国家主体がそれらの物質を取得する危険を軽減するだろう。脆弱な状態の核物質を保全する取り組みの補完にもなる。また、世界の脆弱な核物質を防護するために行われている取組を補完するだろう。

FMCTは「核兵器のない世界の途上において必要不可欠な措置である。」と10ヶ国外相は述べ、「ジュネーブ軍縮会議(CD)でのFMCT即時交渉を求めたNPT運用検討会議から1年が経過し、それが履行されていないことに対し。我々は深く失望している。」とした。

合意を阻んでいるのはどこの国かという名指しは避けつつ、ベルリン声明は、すべての国の安全保障上の要求に対処しなければならないことを認識しつつも、「これ以上の遅延の理由及び言い訳はないこと」と強調している。

オーストラリア・日本・ドイツの主導した声明の署名国は、主にパキスタンによって引き起こされた現在のジュネーブ軍縮会議の行き詰まりを打破する集中的な取り組みを始めている。

「しかし、ジュネーブ軍縮会議が、2011年の実質会期でFMCT交渉の開始に合意できない場合、我々は、すでにその議題162「2010年9月24日ハイレベル会合のフォローアップ:軍縮会議の作業の再活性化及び多国間軍縮交渉の前進」の下で本件を取り上げることになっている国連総会に対し,この問題に対処し,交渉開始のために前進する方途について検討することを求める。」と10ヶ国は宣言している。

包括的核実験禁止条約(CTBT)

2.包括的核実験禁止条約(CTBT)は、15年前に署名開放された:10ヶ国外相は、すべてのCTBT未署名・未批准国に対し、署名・批准を求めている。

「我々は,米国及びインドネシアによって表明された、条約の批准を確保するとのコミットメントを心強く思う。我々は、核実験の効果的な終了は、国家及びグローバルな安全保障を弱めることなく、強化し、また、グローバルな不拡散・軍縮体制を著しく増強すると確信する。」

「我々は、CTBTの普遍化及びその早期発効促進にコミットしている。様々な外交の機会を活用し、我々は、未署名・未批准国に対し、署名・批准し、発効のために必要な手続を速やかに完了するよう求めていく。我々は、効果的な監視・検証体制を整備するに当たり、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会を支援することにコミットしており、また、すでに達成した業績を評価する。」と声名は述べている。

透明性と説明責任

3.核軍縮プロセスにおける透明性と説明責任:2010年NPT運用検討会議において、核兵器国は、核軍縮に向けた具体的な措置の進展を加速させること、また、NPT締約国に対して報告を行うことにコミットした。さらに、信頼醸成措置として、同会議は、核兵器国に対し、可及的速やかに標準化された報告フォームに合意することを奨励した。
 
 10ヶ国外相は、「我々は、核兵器国がコミットメントを実現する上で使用し得る標準化された報告フォームの案を作成している。我々は、核兵器国が6月のパリにおける会合において、我々の提案を検討するよう呼びかける。」と述べている。

この案には、10カ国が、すべての核兵器保有国が提供することを望む情報に関する同10カ国の期待が反映されている。「我々は、標準化された形式に基づく報告が、NPT運用検討会議で採択された行動計画において奨励されているように、国際的な信頼を醸成し、更なる軍縮を可能にする環境作りに寄与するものと信じる。我々は、核軍縮プロセスにおいて透明性と説明責任を高めることが重要だと認識している。」

遵守

4.国家の核不拡散義務の遵守と検証:ベルリン声明は、効果的な不拡散体制はすべての国にとって共通の安全保障上の利益であることを強調している。従って、10カ国外相は、国家の核不拡散義務の遵守を検証する上でのIAEAの重要な役割を認識している。

10カ国は、2010年12月にアラブ首長国連邦において、また、2011年3月にメキシコにおいてIAEA追加議定書が発効したことにより、地域横断的イニシアティブに属するすべての国が、我々が不可欠な検証基準と考える包括的保障措置協定及び追加議定書を履行している事実を強調している。

声明は、IAEA追加議定書がアラブ首長国連邦に関して2010年12月に、メキシコに関して2011年3月に発効したことで、10ヶ国の枠組みに属するすべての国家が包括的保障措置協定と追加議定書を実行しているという事実を強調した。これらの2つの取り決めは必要な検証上の標準であると10ヶ国はみなしている。

10ヶ国外相は、2010年NPT運用検討会議の行動計画に従って、不拡散義務の違反を確実に阻止し、かつ探知するためにIAEAが必要とする追加的な権限を与えるため、すべての国に対し、追加議定書を締結し、発効させることを求めている。

さらに声明は、「我々は、それぞれの地域において、二国間及び多国間で、追加議定書の普遍的適用を引き続き唱道していく。我々は、追加議定書の締結及び履行における経験及びベスト・プラクティスをすべての関心国と共有することを提案し、また、法的及びその他の支援を提供する用意がある。」と述べている。

10ヶ国は、9月の国連総会と同時期に開く次回会合において「ベルリン声明」に発表された提案の進展を確認する。また、トルコが2012年の次回外相会合を主催することになっている。

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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