地域アジア・太平洋|タイ|鳥インフルエンザに安価なジェネリック薬製造

|タイ|鳥インフルエンザに安価なジェネリック薬製造

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】
 
タイはジェネリック薬品を製造し、エイズ患者の延命に成功している。今度はジェネリック薬品でもう1つの致死的ウイルス、鳥インフルエンザから市民を守る準備が整った。

タイの科学者はタミフルのジェネリック薬製造に成功したと発表した。現在のところタミフルは、鳥インフルエンザの大流行を阻止することのできる唯一の薬品であり、発表のタイミングは絶妙だった。同国では7ヵ月の小康状態の後、伝染力の強いH5N1型ウイルスが家禽に発生して対応を迫られているところに、より安価な治療の可能性がもたらされたからだ。

 タイ科学技術開発局のシリレルク・ソンシビライ(Dr. Sirirerk Songsivilai)副局長はIPSの取材に応じ、「タミフル錠を製造するのは商業目的ではなく、社会の安全保障のためである。国内で製造できるようになったので、在庫を増やしたい」と語った。

政府医薬品局(Government Pharmaceutical Organisation:GPO)のモンコル・ジワサンチカーン(Dr. Mongkol Jiwasantikarn)局長は4日『ザ・ネーション(The Nation)』紙で「タミフルが不足すれば鳥インフルエンザの大流行は避けられず、今回の成功はタイを救うことになろう」と語ったと報じられた。

政府機関であるGPOは、率先して同国の患者に安価なジェネリック医薬品を提供してきた。2002年にはジェネリック抗エイズ薬の提供を開始し、1ヶ月に必要な投薬量の薬価を30米ドルに抑制する目覚しい業績を上げている。当時、先進国の医薬品業界大手が製造する抗エイズ薬は1ヶ月で450ドルもしていた。

3日の記者会見で今回の成功が発表され、GPOも国内生産薬が薬価を大幅に抑制すると確認した。ジェネリック薬は公立病院で処方し、1カプセル70バーツ(1.85ドル)とする予定。これはブランド版タミフルの1カプセル120バーツ(3.15ドル)と比較するとほぼ半額である。

タイの2人の科学者がジェネリック版タミフル抗ウイルス薬の製造開発に要した6ヶ月の間に、スイス医薬品大手ロシュが製造する特許版タミフルの供給不足が世界中で問題となった。同社は、タミフル特許権の放棄を迫られた。ロシュに批判的な人々の中には米上院有力者もいる。鳥インフルエンザが引き金となって大流行が起きることも予想される状況で、タミフルの特許権保護を図ることは、多国籍企業である同社が人の命より利益を優先する姿勢を露骨に示すものとみなされた。
 
 この致死的ウイルスの発生地である東南アジアの開発途上国では、タミフル供給不足の不安はいっそう高まった。西側の裕福な国がロシュの提供する限られたブランド版タミフルを買占めたからである。

現在、タイは100万錠のタミフルを備蓄している。このなかにはオリジナル版と、インドから輸入した成分で製造したジェネリック版がある。GPOは、初回製造期間でタイ版タミフル100万錠を製造し、備蓄に加えることを望んでいる。

WHO(世界保健機構)東南アジア局の広報官ハーサラン・パンデイ(Harsaran Pandey)氏は電話取材に応じ、「各国がジェネリック医薬品を製造することには何の問題もない。危機の第1段階に対処する薬品を入手することになるのだから。しかし、どの国も、アメリカのように裕福な国でさえ、全国民に行渡る量の備蓄をしようとしていない」とニューデリーから応えた。

WHOは、発生地において患者に適切な投薬を行うなど様々な予防策を講じない限り、鳥インフルエンザは世界的大流行を引き起こすと警告を発している。ヒトの間で新型ウイルスの感染が起きるような事態になれば、何百万人もの犠牲者が出るだろう。

世界的な人道主義団体である国境なき医師団(Medecins Sans Frontieres:MSF)も、今回のGPOのジェネリック薬開発を支持する。「膨大な数の人間に感染する恐れのある疾病について、国にジェネリック薬品を製造する能力があるなら製造すべきである。ただし、薬品の質はよいものでなければならない」とMSFベルギー支部のタイ国コーディネーであるターポール・コーソーン(Paul Cawthorne)氏はIPSの取材に応じて語った。

「ロシュは現在の需要に対して供給能力がなく、特許保護を訴える立場にはない。特許を保護しようとすれば、公的分野の競争に敗れるだろう」

GPOが大流行に歯止めをかける希望を与える一方、7月以来、鳥インフルエンザがタイ北部、中部地域で急速に拡大している。4日までに、15地域の家禽にH5N1型ウイルスが拡大したことを動物疾病の専門家は確認した。

国民保健省は鳥インフルエンザ感染が疑われる者のリストに164人を加えた。先月には17歳の少年が亡くなり、2004年以来の鳥インフルエンザによる死亡者は15人となった。

ウイルスに感染した家禽類との接触でヒトに死亡者が出ているのは10カ国に上り、タイはその1国である。WHOによれば2003年の冬以来、感染者は232人に上り、そのうち134人が現在までに亡くなっている。鳥インフルエンザの死亡者が最も多いのはベトナムとインドネシアで、それぞれ42人が亡くなっている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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