【アブダビWAM】
「(シリアの首都ダマスカスを見下ろす)カシオン山麓の大統領官邸にこもっているバシャール・アサド大統領は、政治的な行詰まり状況からやっと出口を見出したと考えているようだ。アサド政権は、当初平和的だった反政府デモを残虐に鎮圧して以来、近隣のトルコや、英・米・アラブ首長国連邦といった西側諸国から『のけ者』国家とみなされてきた。」と英字日刊紙ナショナルが8月29日付の時事解説の中で報じた。
「アサド大統領は、西側諸国によるイスラム教スンニ派の過激派組織『イスラム国』対策に手を貸せば苦境から脱することができるのではないかと考えているようだ。8月25日、シリアのワリード・ムアレム外相は、(イラクに加えシリア国内でも勢力を拡大している)『イスラム国』に対する欧米などによる攻撃の可能性について、『(英米を含む)国際社会と協力する用意がある。』と語った。
ムアレム外相はまた、「しかし(『イスラム国』の拠点を対象としたものであっても)シリア領内へのいかなる攻撃について、シリア政府による事前の許可と調整がないものは、シリアへの『侵略行為(act of aggression)』とみなす」と釘を刺した。
ナショナル紙は、「しかし『侵略行為』とは、むしろ昨年アサド政権がダマスカス郊外ゴウタ地区の民間人に対して化学兵器を使用した行為を言うのではないか?あるいは、(アサド政権が)都市に樽爆弾を投下したり迫撃砲を打ち込んだり、食べ物を求めて並ぶ民間人の頭上を爆撃したり、或いは『シャビハ』という民兵集団を使って反政府派と見られる市民を暴行殺戮して恐怖を植え付けたりしていることこそが、『侵略行為』ではないのか?」と指摘したうえで、「シリア国民の友人である湾岸諸国の人々は、アサド政権が行ってきたこうした所業を忘れていない。また、ホムス(シリア第三の都市で今年5月に政府軍の手に陥落)に対して行われた陰惨な包囲攻撃や、今も続くアレッポに対する包囲攻撃を忘れない。」と報じた。
また同紙は、「私たち(=湾岸諸国の人々)は、アサド政権が正当な権利を求める自国民を弾圧して飢えさせた結果、シリア内外に多数の難民が発生し、近隣のヨルダン、レバノン、トルコに多大な負担をかけていること、そして、反政府派に対して砲弾の雨を降らせている最中にあっても『イスラム国』の本拠があるラッカに対する爆撃は拒否し、(結果的に)同集団の勢力拡大を助長したことを忘れない。」
ナショナル紙は、「私たちが、アサド大統領によるこうした所業を忘れないというのは、単に同氏が政権から去るべきという信念のみから言っているのではなく、同氏の所業が、湾岸諸国とその同盟諸国の立場を危うくしているからである。シリアから流出し続けている多数の難民は隣国ヨルダンの存立を脅かしている。また、シリア内戦は隣国イラクも不安定化させ、『イスラム国』が(シリア、イラクに跨って)勢力を伸ばした原因となっている。政治的な便宜を考慮すれば、アサド政権と協働して『イスラム国』の脅威と闘うことは容易なことかもしれない。しかし現実はアサド政権も『イスラム国』も湾岸諸国にとって脅威であることには変わりない。中東地域にとっては、これら両方がなくなることが望ましい。」と報じた。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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