【ナイロビIDN=シッダルタ・チャタジー】
17歳の女子高校生ダルネラ・フレイザーさんは、ジョージ・フロイド氏が白人警察官のデレク・チョービンに首を膝で押さえ付けられて死亡するまでの数分間を撮影した時、まさか自分の撮った映像が人種差別への世界的な抗議行動を再燃させ、警察改革を求める抗議の声が広がっていくとは、夢にも思わなかった。
この撮影行為は、メディアの力を世界的に実証することとなった。私たちは、同じようにアフリカにおいて緊急の行動を必要としている。持続可能な開発目標(SDGs)が達成され、全てのアフリカの人々に本来あるべき機会が与えられるよう、アフリカのメディアが貢献しなければならない。
「世界中で、SDGsの達成に成功することが、世界的な不安を和らげ、人々により良い生活を与え、あらゆる社会に安定と平和をもたらすための確固たる基盤を構築することになる。」とアミーナ・モハメッド国連副事務総長は述べている。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)が引き起こされる前から、レバノンからチリ、イランからリベリアに至る世界各地で、民衆による抗議の波が広がっていた。これは、様々な進歩にもかかわらず、このグローバル化した社会は何かが壊れていることを明確に示している。
COVID-19のパンデミックは、あたかも根深い不平等の実態を白日の下に晒す稲妻のごとく、世界全体に広がった。メディアの報道が、密接に関連している不平等と健康の関係を解明する手助けとなった。つまり報道を通じて、貧困層ほど、圧倒的に多くがウィルスに感染・死亡し、深刻な被害を受けていることが明らかになったのである。
長年にわたる公民権の剥奪と人種差別に抗議する民衆の声が世界を席巻している現状は、あらゆる人々が平等に扱われるように世界が変わらなければならないことを示している。
メディアもまた、SDGsに関して同じことができる。SDGsを達成して数多くのアフリカの人々の生活を向上できるかどうかは、人々の意識向上と、そうした意識が加速させる焦点を絞った行動と資金調達にかかっている。
開発の進展に関する大きな欠点のひとつは、SDGsと「2030アジェンダ」に関する知識が広範に広まっていないことだ。SDGsについて積極的に報道するメディアに関心を向けなくてはならない。何が報道され、どのように報道されるかは政策形成に影響を与え、生活に影響を受ける数多くの人々を左右することになるからだ。知識は力であり、市民が問題意識を持てるようになれば、国の対応を決める力を手にすることになる。
従来、開発の専門家らは、教育関係者や政治家、メディアといった影響力をもつ人々に対して、持続可能な開発という比較的新しい概念についてうまく説明することができていない。今後そうすることがカギを握る。なぜなら、SDGsを容易に理解できる工夫がなされれば、市民からの支持を集めることができるからだ。
私たちは、国連の193加盟国が公約した開発目標の期限である2030年に向けて既に3分の1程のところに来ている。しかし、COVID-19のパンデミックに関わらず、現在の変化のペースでは、保健・教育・雇用・エネルギー・インフラ・環境といった主要な領域において、アフリカは期限内に目標を達成できそうにない。
SDGsそのものや、その達成に必要な行動、そしてそうした行動に責任を持つ機関に関する市民の意識を高めることが肝要だ。メディアは、SDGsが示している社会正義と平等を実現するためのグローバルな取り組みに関する報道を強化することで、市民社会や経済界、国際機関、地域機関、諸個人に刺激を与えることができる。
知識を得た市民からの圧力が政治家らを行動に向かわせ、数多くの人々に希望を与えることになる。
アフリカでは、開発問題はメディアにとって決してかけ離れた問題ではない。従って、持続可能性に関する理解を構築する機会は既にそこにある。持続可能な開発に関する専門家は、なぜSDGsが重要であり、開発における「これまでのやり方」では、なぜ増大する人口や気候変動に対処できないのかを、説明しなくてはならない。そして、「持続可能な開発」の概念を誰もが理解できる説得力のある物語を制作できる報道機関は、人々のSDGsに関する注目を高め、それによって支持を獲得することができる。
私たちは「通説をひっくり返す」必要がある。
何がどのように報道され、そしてどのような媒体で報道されるかは、政策形成に役立つほか、生活が影響を受ける数多くの人々を左右することになる。
この目的のために、メディアは対話に参加し、大義に向かって自らが果たせる役割を理解するようにしなくてはならない。
SDGsは、「誰も置き去りにしない」、そして、「最も遅れているところに第一に手を伸ばすべく努力する」と約束している。これは実際には、極度の貧困を根絶し、不平等を緩和し、差別と対決し、最も放置された人々に進展をもたらす迅速な行動を取ることを意味している。
メディアは、例えば、SDG第3目標のテーマである「全ての人に健康と福祉を」という大きな問題を検討するために、COVID-19の例を持ち出しながら、最も放置されている人々に光を当てることができる。
また、メディアは、2030アジェンダを各国政府に順守させる上で重要な役割を果たす。公約では、各国が報告や説明責任を果たすためのメカニズムを持たねばならないことになっているが、ほとんどの国が、特定の目標に向けた進展に関する信頼性のあるデータを提示していない。これが問題なのは、SDGsに向けた資金調達は、実際にどの開発領域で資金が必要とされるかを理解するためのデータを集積できて初めて可能となるからだ。国別の公約が十分な投資で裏付けられることがほとんどないアフリカの場合、この点は特に重要である。
携帯電話の急速な普及は、アフリカ大陸の人々に、フェイスブックやツイッター、ユーチューブ等のデジタルプラットフォームを通じてコンテンツを共有する比類のない絶好の機会を提供している。インターネットの接続環境や手頃な価格のプロバイダーが依然として不足している問題があるものの、モバイル技術は多くの部門で強力に可能性を押し広げている。
地球上の6人に1人がアフリカで暮らしている。つまり、アフリカの問題は世界の問題であり、これを解決することが世界の責任だということだ。もしアフリカがアジェンダ2030を達成することができなければ、その影響は、紛争や移民、人口増加、大きな気候災害という形で地球上を覆うことになる。
アフリカのメディアは、SDGsの達成に向けた責任を負っている。(原文へ)
*この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「SDGs for All」の最新レポートの序文としてチャダジー氏から寄稿されたものである。
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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