SDGsGoal4(質の高い教育をみんなに)SDGs意識を高めるための学界・大学の役割(カハ・シェンゲリア世界大学総長協会会長、コーカサス大学学長)

SDGs意識を高めるための学界・大学の役割(カハ・シェンゲリア世界大学総長協会会長、コーカサス大学学長)

【トビリシ、ジョージアIDN=カハ・シェンゲリア】

世界中で人々の生活を改善するために2030年までに達成すべき17項目の具体的目標を定めたのは、2015年のことだった。社会的不平等の問題から、私たちが暮らしている地球に関することまで、人間という存在のあらゆる側面に関連したものだ。しかし、そうした共通の問題が存在するという認識や、それを定義する専門知識、その解決を計画する知識は、数世紀にもわたる活動や知識、認識の集積によるものであった。

持続可能性の重要性を十分理解するには、長期にわたる歴史的感覚を必要とした。すなわち、人間と私たちが住む環境の双方に配慮する形で社会を調整する火急の必要性である。これは、一つの種として私たち人類が継続的に成功を収めるべき、困難ではあるが必要な行動なのである。世界中の学界や大学、その他のナレッジセンターなど、いわゆる教育産業の取り組みなしにこのことは不可能であった。一般論から具体論まで、根本的なレベルで学界がSDGsに関与できる多くの方法がある。

教育産業は、多くの形において、世界全体の科学・産業機構を運営するのに必要な技術的・技能的ノウハウを訓練し、研究し、打ち立てていくことに責任がある。研究大学や学界を通じて、SDGsを評価し、それを達成する科学的方法を策定するために必要なデータを定着させ分析することがここには含まれる。この関連で、私は、一般市民と大学との間のコミュニケーション・チャンネルの重要性をさらに強調したい。

インデプスニュース(IDN)のようなメディアは、2009年以来、利害関係者間で情報を伝える重要なプラットフォームとなってきた。IDNはこの産業の重要なプレイヤーであり、この情報時代において重要なサービスを提供している。

さらに、実に数多くのSDGsの項目が教育産業に関連している。例えば、第4目標「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」がそれである。教育の質は、世界中の教育機関が直接的に責任を負う部分だ。官民双方の教育機関が、最高の結果を提供できるように日夜努力している。

その後、学習のコストを押し下げ、世界中で知識へのアクセスを飛躍的に拡大させた「e教育」とオンライン技術の進歩によって、変化に勢いがもたらされるようになった。「e学習」の採用において一部の国は他国に後れを取っているものの、コロナ危機は将来の教育のあるべき姿について明確に示した。教育産業は、オンライン教育法のおかげで、パンデミックに伴う制約下にあっても機能を果たすことのできた数少ない部門のひとつであり、多くの大学や教育センターが凄まじい速さでこの技術を採用しつつある。

教育産業が直接的に責任を負うSDG第4目標を超えて、SDGsはさまざまな措置において教育との関連性を持っている。定式化された教育は世界中で私たちの日常生活において普遍的な意義をもたらしているが、情報やスキル、ノウハウの提供は学校や大学の責務となりつつある。大学や学界は、産業界や統計機関とも協力して、SDGsの発展をモニターし、その達成方法を描いてきていることも忘れてはならない。たとえば、以下のような例がある。

Image credit: UN

第3目標(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)は、医学教育や医学系大学の成否にかかっている。医師・看護士の教育や、研究開発の相当の部分は、医学系大学・学界の肩にかかっている。

第6目標(すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する)は、工学や技術イノベーションや発展に加え、専門的な水管理教育コースの発展にも依っている。

第7目標(すべての人に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する)は、電気工学や化学、物理学、その他の科学領域が大学で強化され研究されていることに依っている。

第8目標は、「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用および働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を推進する」である。ソ連崩壊後のジョージアにあるコーカサス経営大学校のような経営系の大学が途上国のバックボーンとなる一方、コーカサス大学の「C10起業支援センター」のような革新的な起業支援センターが新しいアイディアと若い起業家を育てている。

第9目標(強靱なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る)は、適切な設計と利用される技術に関する建築・工学教育に依存している。大学や専門家が管理する複雑なサプライチェーンや建設作業の役割は言うまでもない。

第12目標(持続可能な消費と生産のパターンを確保する)は、適切なサプライチェーンの設計や環境調査、それに適切な研究を行い、専門家を育てる多くの農業系・環境系・経営系・工学系の大学によって支えられている。

第13目標は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」である。気候変動の測定やモニタリングは、概して、世界中の研究大学や学者らに支えられている。

第16目標(持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する)は、法学系大学や行政大学校、平和研究のセンターが直接に責任を持つ部分である。これらの全てがコーカサス大学にはあり、維持・発展している。

まとめると、大学や学界は世界全体でSDGsを達成する上できわめて重要な役割をもっている。目標がどんなものであれ、信頼性のある情報を持ち、訓練された専門家を確保するには、教育や研究が必要だ。大学は、知識産業の活力であり、あらゆる知的労働の基盤となる部分である。若者の関心を高め方向付けるという、きわめて大きいがあまり評価されていない仕事も、世界中の大学が担っているのである。(原文へ

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*この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているSDGs for Allメディアプロジェクトの最新レポートの序文としてカハ・シェンゲリア氏から寄稿されたものである。

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