ニュース世界で最も体に悪い場所

世界で最も体に悪い場所

【アックスブリッジ(カナダ)IPS=スティーブン・リーヒー

欧米の環境保護団体による最新の報告書によると、インドネシア、アルゼンチン、ナイジェリアの一部が、地球上で最も汚染された場所トップ10にランクインした。これらの汚染地域では、数百万人が生活し労働に従事しているが、概ね住人の寿命は短く、各種病気への罹患率も高い。またこうした地域では、より裕福な国で使われる製品が製造されていることが少なくない。

汚染関連の環境問題に取組んでいる「ブラックスミス研究所」(本部ニューヨーク)のジャック・カラバノス研究チーフは、「美しい宝石が、このような環境で作られていると知ったら、人びとは驚くでしょう。」と語った。同研究所は、11月4日、「グリーンクロス・スイス」とともに報告書『毒物の脅威トップテン2013(Top Ten Toxic Threats 2013)』を発表した。

インドネシア・カリマンタン島では、地元の人々が、きわめて毒性が強く神経を侵す可能性がある水銀を使って金を抽出している。

「彼らは、危険性について認識しないまま、この作業を家屋内で行っているのです。私たちのスタッフが実際に家屋に立ち入って水銀量を計測したところ、安全基準より350倍の高い水銀が検出されました。」と、ブラックスミス研究所主任で汚染地域のリスク評価を指揮したブレット・エリクソン氏は語った。

このような労働慣行により世界で1000万から1500万の人々が、深刻な健康被害のリスクに晒されている。エリクソン氏は、「これは、世界各地で大規模な水銀公害の発生源にもなっています。水銀は、ひとたび環境中に放出されると、魚など人間が食べるものに蓄積していくのです。」と指摘したうえで、「低コストで水銀を利用しない金採掘の方法は確かに存在するのですが、あまり広く知られていないのが現状です。」と語った。

『毒物の脅威トップテン2013』は、世界の汚染問題を記録した年次報告書の最新版である。この報告書には、旧ソ連チェルノブイリ原発事故の放射性物質による汚染が続くウクライナのチェルノブイリなど、有害物質による環境汚染が最も深刻な世界の10地点が収録されている(健康被害リスクの深刻さと被害を受けた人々の数に応じて分析・評価されている。なお、東京電力福島第1原発事故によって放射線量が高くなった地域は今回10地点に含まれなかったが、特記事項として「放射性物質漏れが続いている」と指摘している:IPSJ)。

報告書はこれまでも、公害による健康被害者数が世界で2億人にものぼり、規模ではマラリア結核症の被害に相当する現実を明らかにしてきた(前者と異なり後者の場合、世界の関心と数十億ドルの資金が注がれている:IPSJ)。また報告書は、「世界的に見れば、ガン患者の2割と子どもの疾病の33%が環境への曝露が原因であり、その傾向は国民総所得(GDP)レベルが低い国ほど、被害が大きい。」と記している。

ブラックスミス研究所は、「グリーンクロス・スイス」と共同で最初の報告書を発表した2007年以来、49か国において3000以上の汚染地域で危険性評価を実施してきた。今回の報告書では、2007年版に掲載した「ドミニカ共和国ハイナ市の自動車用バッテリーリサイクル用溶鉱炉跡地(数少ない成功事例として23頁に掲載)」など当時の「トップテン」地域についての、追跡調査の結果も報告されている。

「よいニュースは、インドなどの国が次第に公害問題に対処するようになっていることです。」とエリクソン氏は語った。インドはクリーンエネルギーの導入を推進する資金(4億ドル規模)を捻出するため、2010年7月から新たに「クリーンエネルギー租税(石炭税)」を導入した。インド政府はこの資金で、国内の汚染地域の一覧を作成し除染作業を進めていく予定である。

一方、汚染地域周辺で持ち上がっている問題の一つに、今日多くの国で見かけるようになった、国による規制の行き届かない小規模事業所の存在がある。インドネシアチタルム川沿いには2000以上の事業所があり、これらから排出される鉛・水銀・ヒ素などの毒物によって、面積にして1.3万平方キロメートルにおよぶ広大な地域が汚染されている。

「世界銀行から5億ドルの融資が出たおかげで、ようやく除染作業が始まりました。しかし、作業を完了するには十数年はかかるでしょう。」とエリクソン氏は語った。

また同報告書によると、アルゼンチンのブエノスアイレス近郊では、推定5万の小規模事業所が、大気中や土壌中、水中に毒性が強い化学物質や金属の混合物を排出している。そしてマタンザ・リアチュエロ川沿いでは、少なくとも2万人が危険な毒物に曝されている。ここでも、世界銀行が資金を提供し、ブラックスミス研究所が技術的支援を行って、浄化作業が進められている。

グリーンクロス・スイスのステファン・ロビンソン氏は、「最悪の環境汚染地域の中には、規模があまりにも広範囲にわたり、除染するには数十億ドルの資金と数十年の作業期間を擁するものも含まれています。こうした地域は、今後も長年に亘ってこの年次報告書にランクインし続けていくでしょう。」とIPSの取材に対して語った。

ロシアにはこうした最悪の環境汚染地域が2カ所存在する。ロシア政府は、こうしたソビエト連邦時代の負の遺産がもたらす深刻な状況についてようやく認め、除染予算として30億ドルを割り当てた。一つは旧ソ連時代に約半世紀にわたってサリン、VXガス、マスタードガス、ホスゲン等の化学兵器の生産拠点であったジェルジンスク(人口約30万人)である。ここでは少なくとも30万トンにのぼる工場からの廃棄物が地下水に流れ込んだとみられている。

この街では先天性欠損症などの出生異常の発生率が高く、住民の平均余命も40歳代にまで低下している。これと類似した状況は、シベリアのノリリスク(人口約13万5千人)でも見られる。ここでは、世界最大のニッケル製錬所から排出される二酸化硫黄等により周辺30キロの木々が枯れるなど、住民は深刻な公害問題に直面している。

「ノリリスクの公害防止の必要性については多くが語られていますが、対策はほとんど行われていないのが現状です。」と、ロビンソン氏は語った。

今回新たにトップテン入りし、今後長年に亘って掲載され続けるであろう汚染地域が、ナイジェリア最大の産油地帯「ニジェールデルタ」である。ここでは1976年から96年にかけて、250万バレル石油が土地と運河に流出しており、国連環境計画(UNEP)も2011年に発表した調査報告書の中で、史上最大規模の除去作業(除染費用10億ドル、作業期間30年)が必要だとの認識を示している。石油およびその副産物は極めて毒性が強く、この地域に暮らす約3000万人の貧しい住人の健康に深刻な被害(呼吸障害、皮膚や消化器疾患、腫瘍やがん)をもたらしている。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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