ニュース核関連条約に対抗して核戦力を強化する英国

核関連条約に対抗して核戦力を強化する英国

【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

2020年1月31日に欧州連合のあらゆる機関と欧州原子力共同体から英国が完全脱退してから3カ月もたたないうちに、英国のボリス・ジョンソン首相は、同国の核戦力を4割増の260発まで拡大して「欧州において北太平洋条約機構(NATO)を主導する同盟国でありつづける」意思を示した。軍縮活動家や専門家、世界の議員らはこの決定を非難した。

核兵器から発生する危険は、原爆が一発爆発しただけでも多数の人命が失われ、人間や環境に永続的かつ壊滅的な結末をもたらすという事実によって裏書きされている。現在の核兵器の大多数は、広島型原爆よりもはるかに強力である。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、世界の核兵器国は合計で1万3500発近い核兵器を保有しており、そのうち9割以上をロシアと米国の保有している。およそ9500発が作戦使用可能であり、残りは解体待ちである。

英国の核戦力「トライデント」は1980年に運用開始となり、その運用のために毎年28億ドルが投入されている。3月16日に発表された111ページの安全保障・外交政策の包括的見直し「統合レビュー」は、英国は核戦力に関する自己規制を解いて、保有核を260発に拡大すると述べている。以前の上限は225発であり、2020年代半ばまでに180発まで縮小することが目指されていた。

英国は現在、高価で長期間にわたる、核兵器搭載可能な新型潜水艦の開発プロジェクトを推進している。英国の潜水艦は、スコットランドの反対があるにもかかわらず、スコットランド沖に配備されている。2019年だけでも、英国は核兵器に89億ドルを投じている。

加えて、この英国の発表は、世界の多数の国々が核兵器は違法であると宣言しているタイミングでなされた。これにより、英国は、大量破壊兵器の備蓄を増やすという誤った方向に向かっている。

また、この決定は、核不拡散条約(NPT)によって軍縮義務を英国が負っているにも関わらずこれに反しているし、核兵器の保有・開発・生産を禁じた核兵器禁止(核禁)条約に関しても同様である。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、新型コロナウィルの感染拡大の中で大量破壊兵器の備蓄を増やす英国の計画は「無責任で危険」「国際法に違反する」として非難した。「英国の人々が、感染拡大や経済危機、女性への暴力や人種差別と闘っている時に、その政府は、安全を損ない、世界に脅威を与える方策を取ろうとしている。まさに、有害な男らしさ(Toxic Masculinity)が露わになった事例だ。」

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

2017年にノーベル平和賞を受賞したICANの事務局長であるフィン氏はまた、「世界の大多数の国々が、核禁条約に加わることによって核兵器のないより安全な未来を導こうとしているのに、英国は危険な核軍拡競争を引き起こそうとしている。」と語った。

他方で、世論の多数は、英国は核禁条約に加入すべきだとする議員らや、マンチェスター市やオックスフォード市のような自治体と考えを同じくしている。英国の政策は、民衆の意思と国際法に従い、核兵器を永遠に拒絶するものでなくてはならない。

ICANのパートナー団体であるUNA-UKのキャンペーン責任者であるベン・ドナルドソン氏は、「この決定は、軍事主義と過剰な自信の最悪の組み合わせに毒されたものだ。英国政府は、危険な核軍拡競争を新たに引き起こすのではなく、気候変動とパンデミックと闘う措置に資金を投じる必要がある。」と指摘したうえで、「核戦力強化という英国の決定は衝撃的なもので、それがなぜ国益や世界の利益に資するのかの説明なしになされたものだ。スコットランドの首相や政府が明確に核禁条約を支持し、マンチェスターやエジンバラ、オックスフォード、ブライトン、ホーブ、ノーウィッチ、リーズなどの都市が条約の履行支持を表明し、英国のシンクタンクの多数が英国の核禁条約署名を訴えている。こうした中で、国内での同意もなしにこうした決定を下したことは、政治感覚が鈍いと言わざるを得ない。」と語った。

同じくICANのパートナー団体で、国連で核兵器を世界的に禁止するためのキャンペーンを成功させた「核軍縮キャンペーン」(CND)もまた、英国の決定を非難した。核禁条約は、2021年1月に発効している。

他方、ハンブルク大学平和・安全保障政策研究所(IFSH)のオリバー・マイヤー氏もまた、核戦略の方向性を大きく変える一方で、NATO・米国の両方の方針とぶつかる可能性のある今回の英国の決定を非難した。

マイヤー氏はまた、「英国は、核不拡散条約の下で、核兵器の数と役割を減らす義務を負っている。」「今回の決定とは相いれない、核なき世界という目標に向かって努力する義務が英国にはある。」と、ドイツの国際放送局「ドイチュ・ヴェレ」の取材に対して語った。

統合レビュー」は、もし他国が「大量破壊兵器」を英国に対して使用したなら核兵器を使用すると警告している。そうした兵器には、化学兵器、生物兵器、その他の核兵器に「比する損害をもたらしうる新技術」を用いたものも含まれる。

国防省筋によると、報告書は明確に述べていないものの、「新しい技術」とはサイバー攻撃のことを意味するという。しかし、シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」のトム・プラント所長は、CNBCの取材に対して「サイバー攻撃をそれ単体として意味するとは私自身は解釈していない」と語った。

プラント所長また、は、「『新しい技術』に関する理解は、政府の中でも様々だ。サイバーは明らかに『新しい』技術ではないが、すでに実質的に存在するものだ。」と語った。いずれにせよ、プラント氏は、用語法の変化は重要だと考えている。

彼の見方では、この用語は、新たなリスクを生み出す技術と行動の組み合わせが将来的に生まれるかもしれないことを暗示したものだ。「これは恐らく、一つの技術が単体で発展することによっては生まれないもの」で、その登場を予測することが困難であり、「これらの一つ以上の未知の新しい問題が、その脅威の大きさにおいて大量破壊兵器に並び立つものになる可能性があります。」とプラント氏は語った。

今回の英国の決定は世界に懸念を引き起こした。例えば、アジア太平洋核不拡散・核軍縮リーダーシップ・ネットワーク(APLN)の議長で元オーストラリア外相のギャレス・エバンス氏は、3月19日に「核兵器拡大における世界的な責任を英国は放棄した」とする声明を出している。

By Gareth Evans, CC BY 1.0
By Gareth Evans, CC BY 1.0

エバンス氏はこの声明の中で、今回の英国の方針はとりわけ「核不拡散条約の下で核軍縮を追求する条約上の義務に明確に反し、来たるNPT再検討会議において全会一致の決定をもたらす見通しを暗くするものだ。」と指摘した。

また、今回の決定は「これまでに発明されたものの中で最も無差別的で非人道的な兵器を廃絶する道義的な義務に明確に反する。こうした兵器が核戦争において使用されれば、この地球上における我々の知る生命全ての生存を脅かすものとなる。」と述べた。

エバンス氏は、世界の核保有国は、「『核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならない』とする1985年のレーガン=ゴルバチョフ宣言の持つ意義への認識を新たに」し、「備蓄核兵器の削減、高度警戒態勢の解除、核先制不使用政策の採用、そして最も重要な備蓄数の削減など、核リスク低減の重大な措置へと踏み出すべき時だ。」と強調した。

エバンス氏も、英貴族院議員で核不拡散・軍縮議員連盟(PNND)の共同代表であるスー・ミラー卿も「核兵器なき世界をめざすアピール」に署名している。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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