【ドーハIPS/ALJ=特派員】
戦車と装甲車の支援を受けたシリア軍兵士が南部のダルアーと首都ダマスカス郊外のドウマ(Douma)に攻撃を加え、多くの市民が死傷し数十人が拘束された。
バシャール・アサド大統領に忠誠を誓う治安部隊は、侵攻を開始した24日に引き続き2日目も、地中海沿岸のジャブレ(Jableh)において反体制派に対する弾圧を行った。
活動家が25日夜に語ったところによるとダルアー(Deraa)だけでも18人が殺害されたとのことである。
一方、政府当局は、軍は街から武装勢力を排除するために招き入れられたと主張している。
ダマスカスからレポートしているアルジャジーラのルラ・アミン記者は、「今回の軍による展開は、3月15日の民主化要求デモ以来シリア各地に広がった反政府運動に対する『前例のない』規模の攻勢です。」と語った。
アミン記者は、ダマスカス中心部では検問が設けられ厳重な警備態勢が敷かれていると報じた。
ダルアーの目撃者によると、車が政府軍の銃撃を受けて少なくとも5人が死亡した。AFP通信に語ったその目撃者は、「車が銃撃でハチの巣にされたのをこの目で見ました。ダルアーの各地から激しい銃撃音が聞こえました。」と語った。
AP通信の電話取材に応じたダルアーの目撃者は、「私たちは国際社会の介入を必要としています。各国による助けが必要です。」「治安部隊はモスクを包囲し尖塔からは助けを求める声が響いている。また部隊は続々と民家に侵入している。夜間外出禁止令が出されており、自宅から出るものは撃たれている。また治安部隊は住民から水を奪うために屋上の貯水タンクまで撃っている。」と語った。
アルジャジーラは今回の弾圧による死者数の総数については確認がとれていない。
アルジャジーラが治安当局から入手した情報によると、政府軍がダルアーに侵攻するにあたってヨルダンに通じる全ての南部国境を封鎖した。
目撃者の証言によると、4月25日未明、数千人の軍部隊がダルアーに進軍し、戦車が同市の中心部に配備され、屋上には狙撃兵が配置されたという。
市内のある活動家は、軍の侵攻に伴う犠牲者の数はわからないと説明した上で、「通りには死体が散乱しているが、回収することもできない。」と語った。
25日に反体制側のメディアが衛星回線を通じて配信した番組には、シリア軍兵士が目に見えない標的を狙撃銃で撃っていると思われる場面が映し出されている(アルジャジーラはこの映像の真偽について確証はとれていない)。
「怪我人が出ており、数十人が拘束されている。これは民主主義を求める民衆蜂起が起こった全ての中心地で、治安当局により繰り返されてきた典型的なパターンです。当局は、究極の残虐行為で革命を鎮圧したいのです。」と、ダマスカスでロイター通信の取材に応じた匿名の人権活動家は語った。
24日に数名が射殺されたジャブレでは、目撃者によると、迷彩服に身を包んだ治安部隊の兵士や覆面をした黒づくめの武装した男たちが街の通りを巡回していた。
「ジャブレは治安部隊に包囲されています。市民の死体がモスクや家屋に放置されていますが、我々は動かすことはできないのです。」と、電話取材に応じた同目撃者は語った。
シリア人権監視団体(The Syrian Observatory for Human Rights)は25日に催した会見の中で、ジャブレでは政府による弾圧が24日に開始されて以来、少なくとも13人が殺害されたと語った。
シリア政府は反政府民衆蜂起が始まって以来、ほぼ全ての海外メディアによる活動を禁止し、問題地域へのアクセスを制限したため、客観的な事態の把握がほぼ不可能になった。
アルジャジーラのアミン記者は、25日に始まる今回の弾圧は、「治安部隊によるそれまでの戦術とは異なるもの」と指摘し、「これまでの治安当局による弾圧は、抗議行動に対する反応という形を踏襲してきました。しかし今回のドウマとダルアーに対する多数の兵士による侵攻作戦は、両都市において抗議行動が開かれなない中で、行われたものです。」「つまり、治安部隊は都市を速やかに席巻するというこれまでとは異なる当局の戦術を目の当たりにしているのです。」と語った。
今回の侵攻では初めて通信手段が切断され、反政府活動家たちの期待に反して、シリア軍が直接民主化運動の鎮圧に乗り出した。
現地特派員によると、反政府活動家の人々は、軍が関与しないことを望んでいた。しかし事態がこのような進展を見せている今、「彼らは、今回の事件は、これから起こるであろう非常に深刻な弾圧政策の序章にすぎないと考えている。」と特派員は語った。
ある活動家がアルジャジーラに語ったところによると、ダルアーでは、軍から脱走して民衆側に立って戦う士官達もいた。
またダルアーでは、2人の県議会議員が辞職した。彼らの辞職は、前日に2人のダルアー県選出の人民議会議員(ハリール・リファーイー氏、ナースィル・ハリーリー氏)及びダルアー県ムフティ(リズク・アブドゥッラフマーン・アバー・ザイド師)が、死傷者を出した治安当局による弾圧に抗議して辞表を提出したのに続く行動であった。(リファーイ前議員は、「我が国民をもはや護ることができない」ため辞職したと述べている:IPSJ)
また、25日には102人の作家や亡命中の全ての主だった党派の代表が、弾圧に抗議する宣言文を公表し、暴力に訴えるシリア政府に対する怒りの声を上げた。
同宣言には、「我々は、シリア政府の抗議参加者に対する暴力と抑圧的なやり方を強く非難するとともに、民主化運動に参加して犠牲となった人々に哀悼の意を表するものです。」と記されている。
一方、米国の政府高官がロイターに語ったところによると、オバマ政権は、民主化運動に対する武力弾圧を続けるバシャール・アサド政権に対して、シリア政府高官を対象とした制裁措置の可能性を含む一連の対応策を検討している。
同高官は、「対応策には、米国における資産凍結や米国との商取引の禁止などが含まれる可能性がある。」と語ったが、こうした追加制裁がいつ発動されるかについては言及がなかった。
また、国連のナビ・ピレー人権高等弁務官は、暴力が深刻化した現状について、「シリア政府は自国民に対する殺害を止めるよう求める国際社会の声に背を向けた。」と強く非難するとともに、シリア政府に対して、拘束中の活動家や政治犯の即時釈放と、治安部隊の抑制、さらに先週末にかけて100名近くの死者をだしたと伝えられる犠牲者について調査するよう求めた。
「まず第一歩は、武力の行使を直ちにやめること、そして軍や治安部隊の犠牲者を含む全ての犠牲者について完全かつ独立した調査を実施し、犯人に公正な裁きを受けさせなければなりません。」とピレー高等弁務官は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan