【ペシャワールIPS=アシュファク・ユスフザイ】
パキスタン・ヒンドゥークシ山中のある集落で行なわれたジルガ(村の長老の寄合)において、「尊属殺人」(名誉殺人ともいう)を警察に通報した者は死刑に処するとの決定が下され、これに対して人権団体などが猛反発している。
尊属殺人は、北西辺境州(NWFP)においてイスラム教が広まる以前から現地の部族が守ってきた慣習で、姦通などの罪を犯した女性を家族が内々に処刑することを容認するものである。
パキスタン人権委員会によれば、1998年から2002年までの間に、1,339件の尊属殺が報告されている。もちろん実勢はこれよりはるかに多い。これらの事件のうち、逮捕された容疑者はわずか202名に過ぎない。
尊属殺人の容疑者は、「キサス・ディヤット法」(qisas and diyat)という慣習法によって保護されている。これによれば、死亡した人間の法定相続人には容疑者を免罪する権限があり(309条)、また、容疑者から補償を受け取ることにより容疑者を免罪することができる(310条)。
しかし、「法定相続人」とはたいてい殺された女性の夫あるいは両親であり[すなわち、えてして実行犯そのもの:IPSJ]、尊属殺自体が家族の黙認のうちに行なわれていることが多いため、実際には容疑者のかなりの部分が許されてしまうのである。
女性の人権を守るNGO「オーラット財団」(Aurat Foundation)などは、4月30日に集会を開き、ジルガの権限に対して連邦・州・地方政府が厳しい態度をとるよう要求した。
北西辺境州議会のナイーマ・キシュワール議員(宗教政党「ジャミアート・ウレマイ・イスラム」所属)は、「名誉の名の下に女性や男性を殺すのは反イスラム的だ。この汚い伝統と私たちは闘わねばならない」と憤る。
また、アワミ国民党のザヒーラ・ハタック副党首もまた、「政府はこの慣習にストップをかけるのを怠ってきた」と批判した。
昨年、尊属殺人を禁止する法律が連邦議会に上程されたが、反イスラム的だという理由で廃案になってしまった。
パキスタンの尊属殺人をめぐる議論を紹介する。
翻訳=IPS Japan