ニューストランプ氏の関税攻勢、癇癪、そして貿易戦争──そして世界の戦略的健忘症

トランプ氏の関税攻勢、癇癪、そして貿易戦争──そして世界の戦略的健忘症

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

ドナルド・トランプ大統領が米国への全輸入品に「相互主義」に基づく関税を課すと発表したことで、世界は戦略的な対応ではなく、衝撃で応じた。中国製品への関税は驚異の145%に引き上げられ、ベトナムも46%の関税引き上げの対象に。さらに、従来は米国の同盟国だった欧州諸国も、この経済的な十字砲火に巻き込まれた。

世界貿易機関(WTO)のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は、この動きを受けて、2025年の世界貿易成長率見通しを3.0%から0.2%に大幅下方修正。米国の関税強化とその経済波及効果が主要因であるとし、世界のGDP、金融市場、特に途上国経済への影響に懸念を示した。

しかし、こうした展開に「なぜ驚いているのか?」という疑問も浮かぶ。

トランプ氏の経済戦略は、当初から一貫して明示されてきた。初めて大統領に就任した当初から、彼の貿易哲学は多国間主義ではなく「相互主義」を中核に据えていた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱、WTOへの敵対姿勢、そして友好国・敵対国を問わず鉄鋼・アルミへの関税を課した一連の動き──今回の措置は、こうした路線の延長線上にすぎない。

では、なぜ世界は今になって慌てているのか?

それは、米国経済の決意と影響力を過小評価するという「世界的な健忘症」が働いているからかもしれない。米国の経済規模は27兆ドルを超え、世界最大かつ最も回復力のある経済であり、世界最大の消費市場を有している。この巨大市場へのアクセスが武器化された時、その影響は迅速かつ深刻である。

今回の混乱が示しているのは、そうした驚きそのものよりも、世界が長年抱いてきた前提──「米国市場は常に開かれている」という幻想が崩れたことにある。

ここでいくつかの不都合な問いが浮かび上がる:

  • 世界経済は、米国市場への依存度が危険なほど高まっているのではないか?
  • 今回のパニックは過剰反応なのか、それとも貿易戦略を見直すための必要な目覚ましなのか?
  • グローバル・サウスの国々は、なぜ「米国後」の貿易体制に備えてこなかったのか?

経済的側面だけでなく、心理的な要因もあると言われている。脅威は単なる財政的打撃ではなく、「象徴的」な意味合いも持つ。トランプ氏の関税政策は、世界最大の経済大国における「予測可能性の崩壊」を意味する。国際的なルールが一夜にして変わるような状況では、「不確実性」が新たな通貨となり、不確実性こそがグローバル貿易にとって最大の毒である。

米国の最も近いパートナーである欧州諸国でさえ、裏切られたと感じている。長年優遇措置に慣れていた彼らも、今では戦略的ライバルと同列に扱われ、自動車や農産物などの輸出品が二桁の関税を課される事態に。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「かつての“西側”は死んだ」と発言。米国の予測不能な政策に対し、EUの安定性と民主主義、そして自由貿易への姿勢との対比を強調した。

そして中国との関係は、すでに緊張していたところにさらなる悪化を招いている。145%の関税は、もはや「税金」というより「壁」だ。中国のテクノロジーや製造業企業は、事実上米国市場から締め出されることになる。その影響は甚大で、サプライチェーンの混乱、投資の停滞、そして世界の2大経済圏のさらなる分断が避けられない。

European Commission President Ursula von der Leyen
European Commission President Ursula von der Leyen

中国も報復関税として最大125%の関税を米国製品に課すと発表し、中国商務省は「関税をいくら上げても経済的合理性は失われ、米国の政策は世界経済の笑い話になる」と痛烈に批判した。

一方、あまり注目されていないが重要なのは、米国の消費者側の影響である。ウォルマートの棚やフォードやGMのショールームで、これらの関税の影響は確実に現れる。価格は上昇し、商品の供給は減るだろう。「アメリカ・ファースト」の掛け声に歓声を上げていた支持層も、いずれその代償を痛感することになる。

だが、この混乱の中にはあまり語られていない「チャンス」もある。

今回の関税措置が先進工業国に打撃を与える一方で、ラテンアメリカ、サブサハラ・アフリカ、東南アジア、中東の一部など、一部の新興国は比較的軽い10%程度の関税で済んでおり、逆に米国市場での輸出拡大のチャンスを得ている。政治的な必要から再編されつつあるサプライチェーンの中で、これらの国々が存在感を高めるチャンスが到来しているのだ。道のりは容易ではないが、脱・大国依存の可能性が開かれている。

では、こうした政策は持続可能なのか?

トランプ氏は「短期的な痛みが長期的な利益につながる」と信じ、有権者に訴えている。国内製造業の復活、サプライチェーンの再構築、そして米国経済の主導権回復──それが彼の賭けである。ただし、その過程では財政的なコストだけでなく、米国の外交的孤立、国際機関の弱体化、さらには米国を迂回する新たな貿易体制の誕生という代償も伴うだろう。

そして世界はどうするのか?

いまこそ「世界の再設計」が求められている。米国市場に過度に依存してきた国々は、自国市場の強化や多角的な貿易戦略の再構築を真剣に検討する時を迎えているのかもしれない。(原文へ

INPS Japan/ATN

Original Link: https://www.amerinews.tv/posts/trump-s-tariff-blitz-tantrums-and-trade-wars-and-the-world-s-strategic-amnesia

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