【国連IPS=タリフ・ディーン】
国連総会(193が加盟)は今年9月に初めて核軍縮に関するハイレベル会合を開催するが、核兵器保有国がこの致命的な兵器を段階的になくすか廃絶すると明確に約束する見通しは、ほとんどない。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月3日に発表した世界の軍備動向に関する2013年の年次報告書によると、英国、米国、ロシア、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエルの8か国が保有している作戦配備されている核弾頭の数は、2013年初頭時点で約4400発である。
このうち約2000発が高度な警戒態勢下に置かれているという。
グローバル安全保障研究所の所長でワイドナー大学法学部の客員教授(国際法)であるジョナサン・グラノフ氏は、IPSの取材に対して、「軍備管理と核軍縮におけるスローペースを転換するために必要なのは、高度な政治的意思です。」と指摘したうえで、「例えば、ある国のリーダーが『私の国は非核兵器地帯にある114の国のひとつです。我が国は、安全保障を核兵器に依存している国々が世界全体を非核兵器地帯化することによって利益を得る支援をしたいと考えています。』と国連総会の場で述べたらどうなるでしょうか。」と語った。
SIPRI年次報告書は、核軍縮を実際の行動に移すという、2010年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議で厳粛になされた誓約を実行する必要性について焦点を当てている。
「約束とは実際に何かを意味するものでなくてはなりません。」とグラノフ氏は言う。
SIPRIによれば、すべての核弾頭がカウントされた場合、8か国が保有する核弾頭の合計は、2012年初頭の1万9000発に対して、計1万7265発になるという。この減少は主に、「戦略攻撃兵器の一層の削減および制限のための措置に関する米国およびロシアの間の条約」(新START)の条件に従って、ロシアと米国が戦略核を削減しているため、さらには、老朽化、陳腐化した核兵器を退役処分しているためである。
またSIPRIは、「それと同時に、法的に核兵器国と認められている5か国(中国、フランス、ロシア、英国、米国:P5)は、新型の核兵器運搬システムを導入するか、将来的な導入を発表しており、核兵器を永久に保持する意志を明確にしている。」「またP5の中では、中国だけが核戦力の拡大を行っているようだ。」と指摘している。
一方P5以外の核兵器保有国では、「インドとパキスタンが核兵器の備蓄とミサイル運搬能力を拡大している。」と指摘している。
SIPRI年次報告書はこうした分析結果から、「核兵器保有国が真に核を放棄しようとしているかどうかについては、またしても、希望を見出せるような材料がほとんど見いだせなかった。」と述べている。
SIPRI軍備管理・軍縮・不拡散プログラムのシャノン・カイル上席研究員は、「これらの国々で進行中の長期的な核近代化計画を見れば、核兵器が依然として国際的な地位とパワーを象徴するものであることがわかります。」と語った。
カイル氏は、9月に予定されている国連総会の軍縮問題ハイレベル会合が、核兵器廃絶に向けて何らかの成果を生み出しうるかというIPSの質問に対して、「世界の核戦力の現在の状況からすれば、国連総会が、核兵器保有国に核兵器廃棄を開始させるか、核戦力態勢や作戦実務を変更させることを求める具体的な措置を採択できるとは、あまり考えられません。」と述べたうえで、「しかし、既存の規範強化という点で国連総会は積極的な役割を果たしうるし、核軍縮を追求するという政治的誓約を過小評価してはなりません。」と語った。
そのためには、まずもって、国家安全保障戦略や防衛態勢における核兵器の役割と重要性を低減するよう、核兵器保有国に政治的圧力をかけ続けることが必要である。
これは例えば、核兵器保有国を説得して核兵器の先制使用をしないと宣言する政策を採用させるとか、法的拘束力のある消極的安全保証(非核兵器国に対して核兵器を使用しないと保証すること)を提供させることなどを通じてなしうるだろう。
カイル氏は、「国連総会は、長期的には、国際的地政学の通貨としての核兵器の価値を引き下げ、核保有を非正当化することに貢献し、その取り組みを強化することができるでしょう。」と語った。
さらにカイル氏は、「これは確かに、相当な忍耐と外交的一貫性を必要とする長期的なプロセスになるでしょうが、それが規範形成に及ぼす重要性には無視しえないものがあります。」と付け加えた。
一方、グラノフ氏は、「バラク・オバマ政権が新START批准を上院で勝ち取るために必要だと考えた取引材料の中には、核戦力の近代化という内容が含まれています。その内容を見ると、単に核兵器を安定的な状態に保つというものもありますが、中には、核兵器の能力(正確性と安定性)を実際に向上させるような内容もあることから、垂直拡散の一形態と見なしうるものもあります。」と語った。
「こうした措置に予算をつけるべきでありませんが、仮に予算がついたとしても、軍の地戦略的な計画のために、実行に移されていません。」とグラノフ氏は語った。
グラノフ氏は、(オバマ政権の)こうした行動は、核兵器の地位を認めたり、核兵器なき世界に向かうとのNPTの下での誓約を放棄したりすることを意味する訳ではありません、と語った。
カイル氏は、この点について「(オバマ政権の行動は)きわめて困難な国内の党派的環境において、穏健的な軍備管理措置を達成するために必要な短期的な政治取引であるにすぎないのです。」と語った。
一方グラノフ氏は、「現在世界各国の政策が正しい方向に進んでいないと結論付けてしまうことは正しくありません」と指摘したうえで、「ジュネーブでは(多国間の核軍縮交渉を前進させるための提案を策定する)オープン参加国作業グループ」が始動し、勧告を行うことになっていること」さらに、「先頃ノルウェー政府が多数の国の参加を得て、核兵器の使用が及ぼす恐るべき人道的帰結に焦点を当てた大きな会議を開催したこと」を挙げ、「こうした活動は我々の未来にとってよい先ぶれになっています。」と語った。
またグラノフ氏は、こうした活動にP5が加わっていないことについて「奇妙なことだ」と批判しつつも、「しかしこのことは、これらの(核兵器保有)国が望むならば、協力をし、同じ戦略と立場に至ることができるということを示しています。」と指摘した。
グラノフ氏はそのうえで、「我々の任務は、政治的な優先順位の中で核兵器廃絶の問題を上にあげ、P5が核軍縮に協力するよう仕向けることです。」と語った。
カイル氏は、SIPRI年次報告書が北朝鮮を核兵器国のリストに入れていないのはなぜかというIPSの質問に対し、報告書が、北朝鮮の核兵器能力に関して述べた「核戦力に関する章」において、同国が作戦配備できる(軍事的に使用可能な)核兵器を製造したかどうかは不明だと指摘している点を挙げたうえで、「作戦配備できる兵器とは、単なる核爆発装置とは異なり、製造のためにより高度な設計と工学的技術を要するのです。」と語った。
さらにカイル氏は、「我々は、2013年のSIPRI年次報告書の中で、北朝鮮のプルトニウム製造活動に関する公知の情報に基づいて、同国の核保有最大数は6~8発と見積もっています。」「しかし、ここでもまた、北朝鮮が作戦配備可能な核兵器を実際に製造したかどうかは明らかでなかったため、報道発表の表の中には含めなかったのです。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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