ニュース国連事務総長、核実験禁止条約未参加8か国への働きかけを強める

国連事務総長、核実験禁止条約未参加8か国への働きかけを強める

【国連IPS=タリフ・ディーン

約20人の「賢人」が、包括的核実験禁止条約(CTBTへの参加を頑強に拒んできた8か国の説得にあたるという、極めて困難な任務に挑むことになりそうだ。

その8か国とは、中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国(上の世界地図の矢印を参照:IPSJ)で、批准の可能性すら示しておらず、CTBTは行き詰まっている。

CTBTの条項によると、この条約はこれら残りの主要8か国の参加なしには発効しないことになっている。

Lassina Zervo/ Katsuhiro Asagiri
Lassina Zervo/ Katsuhiro Asagiri

包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)準備委員会のラッシーナ・ゼルボ事務局長は4日、「我々は、昼夜を分かたず、条約発効に向けた努力を継続している。」と記者団に語った。

ゼルボ事務局長は、CTBT未締結国(未署名国および署名したが未批准の国)に対して、この条約への批准は世界の安全保障だけではなく自国の安全保障向上にもつながると強く訴えた。

セルボ事務局長はまた、CTBT締結国と未締結国の双方から元首相や著名人などを招いて新たにグループを作り、9月27日にニューヨークで開催される第8回CTBT発効促進会議で立ち上げる意向を表明した。

さらにセルボ事務局長は、CTBTの最新状況について、これまで183か国が署名を終え、そのうち159か国が批准も済ませている、と報告した。

しかしCTBTは、第14条の規定により、附属書2に掲げられている上記8か国を含む発行要件国(原子炉を有するなど、潜在的な核開発能力を有すると見られる44か国:IPSJ)の全てが批准しなければ、発効しないことになっている。

国連総会では9月5日に「核実験に反対する国際デー(8月29日)」を記念する非公式会合が開催され、潘基文事務総長は、ジュネーブ軍縮会議がCTBTに関する交渉を開始してからすでに20年が経過しているにも関わらず、未だに条約が発効していない現状を嘆いた。

「核実験に反対する国際デー」は、8月29日に世界各地で記念行事が催されたが、(国連では例年9月5日に記念セミナーや展示などの関連行事を開催する慣例があることから)この国連総会は5日に開催された。

潘事務総長は、この総会へのメッセージの中で、「50年前、国際社会は部分的核実験禁止条約を採択して、核爆発実験全面禁止という目標に向けて第一歩を踏み出しました。」と指摘したうえで、「しかしながらこの目標は、依然今日においても、軍縮課題における未解決の重要問題であり続けています。」と語った。

潘事務総長は、CTBTをすみやかに署名・批准するようすべての国に強く求めるとともに、とりわけ上記の発効要件国8か国(インド・パキスタン・北朝鮮の3か国は未署名、中国・エジプト・イラン・イスラエル・米国の5か国は署名しているが未批准)は、特別の責任を持っていると強調した。

また潘事務総長は、「他の国がまず行動するのを待っていてはいけません。一方すべての国が、核実験モラトリアム(一時停止)を継続しなければなりません。」と各国に訴えた。

核戦争防止国際医師会議」のプログラム・ディレクターであるジョン・ロレツ氏はIPSの取材対して、「ほとんどの核兵器国が1990年代以来、モラトリアムを尊重してきました。1998年に核実験を行ったインドとパキスタンはその例外ですが、両国はその後実験を行っておらず、あとは北朝鮮が2006年以来3度にわたって非常に小規模な実験を行ったぐらいです。」と語った。

北朝鮮が今年2月に3度目の核実験を行った際、15か国から成る国連安全保障理事会は、実験は過去の安保理決議に対する「重大な違反」であり、北朝鮮は「国際の平和と安全に対する明白な脅威」であると断じた。

Hirotsugu Terasaki/ SGI
Hirotsugu Terasaki/ SGI

東京に本拠を構え、長年にわたって核兵器の完全廃絶を訴えるキャンペーンを展開してきた創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動局長は、IPSの取材に対して、「核実験の禁止に向けて、大きな貢献をしているCTBTO準備委員会の活動に注目したい。」と語った。

寺崎局長は、2006年の北朝鮮の最初の核実験後に、新たに23か国がCTBTを批准している点を指摘したうえで、「すでに世界の国の95%が批准しているということを踏まえれば、圧倒的多数の国が条約発効のもたらす大きな政治的効果を理解していると考えられます。」と語った。

1998年に核実験を行ったインドやパキスタンも、その後核実験のモラトリアムを宣言し続けている。その意味で、CTBTは核実験禁止に向けてすでに重要な役割を担っている、と寺崎局長は指摘した。

「国際社会はCTBTを前向きな一歩ととらえています。」と寺崎氏は付け加えた。

今後の課題について尋ねると、寺崎局長は、「CTBT発効の大きな鍵を握るのは、米国と中国の批准です。」と語った。

米国は、核戦力の実効性検証のため、ニューメキシコ州のサンディア国立研究所で4月から6月の間に「Zマシン」プルトニウム実験を行ったと明らかにした。

にもかかわらず、バラク・オバマ大統領は6月のベルリン演説において、米国のCTBT批准への決意を新たにした。

寺崎局長は、「このオバマ声明は、重要なもので歓迎すべきですが、米上院でCTBT批准に可能な支持を得るには相当の努力を必要とするでしょう。」と指摘した。

従ってオバマ政権は国際社会からの強力な支持を必要とすることになるだろう。寺崎局長はこの点について、米国の政策決定者に公約を実現させる圧力をかけるうえでも、「市民社会の果たすべき役割には大きなものがあると感じています。」と語った。

また寺崎局長は、8月7日に中国を訪問したCTBTOのゼルボ事務局長が、王毅外交部長会談した件について言及した。その際ゼルボ事務局長は、中国がリーダーシップを発揮して、残り8か国のCTBT批准に向けて指導的枠割を果たしてほしいと要請した。これに対して王外交部長は、中国はCTBTに引き続きコミットし続けると強調するとともに、CTBT早期批准の重要性を再確認した。

寺崎局長は「国際社会は、中国が条約批准に向けて立ちふさがっている様々な技術的・政治的障害を乗り越えられるよう、力を合わせて支援する必要があります。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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