INPS Japan/ IPS UN Bureau Report|国連|戦後最悪の難民危機に直面する中で「世界人道デー」を記念

|国連|戦後最悪の難民危機に直面する中で「世界人道デー」を記念

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連は、今年の「世界人道デー」(8月19日)にあわせて、ニューヨーク・神戸等で開催される関連行事と並んで、世界各地の紛争や災害を生き延びた人々の「感動的な」ストーリーを、ソーシャルメディアを通じて拡散していくオンラインキャンペーン「ヒューマニティ:あなたを動かすチカラ#ShareHumanity)を立ち上げた。

このキャンペーンは、著名人を含むフェイスブック、ツイッター、インスタグラムのユーザーに、投稿スペースを寄付してもらい、世界が直面している深刻な人道状況とともに、そこに生きる人々のたくましさと希望を広く伝えていくことを目的としている。

U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo
U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo

国連のステファンドゥジャリク報道官は、「私たちは、国連が創設されて以来、最も人道支援を必要とする歴史的瞬間に生きています。」と指摘したうえで、「私は(報道官として)日常的に、人道支援を必要とする人々について、数を挙げて話をせざるを得ないのですが、1万人、5万人という数字は実に感覚を麻痺させてしまいます。」と嘆いた。

国連の統計によると、人道支援を必要とする人々の数は極めて憂慮すべきレベルに達している。今日トルコ、イラク、レバノンに在住するシリア難民の数は4000万人を超えている。一方、この中には故郷の戦乱を逃れて海路欧州への密航を試み、その途上で命を落としている毎週数百人に及ぶ難民の数は含まれていない。

さらに厄介なのは、少なくともさらに760万人もの人々がシリア国内で難民となっており、全員が人道支援を必要としていることである。シリアでは内戦が勃発して今年で5年目となるが、これまでに22万人を超える市民が軍事衝突に巻き込まれて命を失っている。

国連のスティーブ・オブライエン緊急援助調整官(人道問題担当事務次長)は、「世界では避難を余儀なくされた人々の数が6000万人近くに達しており、私たちは深刻な危機に直面しています。」「私たちは、お互いを大切にする責任をもっと培い、地球市民という共通の思いを実現していかなくてはなりません。」と指摘したうえで、世界各地のソーシャルネットワークのユーザーに対して「声無き人々の代弁者となって欲しい。」と訴えた。

Stephen O’Brien/ youtube

8月上旬、オブライエン事務次長は、ドナーからの援助が行きわたらない資金不足の人道状況に対応するため、国連中央緊急対応基金(CERF)から7000万ドルの資金を放出する決定を行った。

シリア、アフガニスタン、イエメン以外でも、スーダン、南スーダン、アフリカの角(ソマリア・ジブチ・エチオピア)、チャド、中央アフリカ共和国、ミャンマー、バングラデシュといった国々で人道危機が進行している。

オックスファムのノア・ゴットシャルク人道対応上級政策アドバイザーはIPSの取材に対して、「数十年前に創設された国際人道支援システムは、これまでに無数の人々の命を救ってきました。しかし、国際社会が、シリア内戦のような長期化する危機が世界各地で進行している状況に対応を迫られているなかで、自然災害が規模と頻度の双方においてますます増加する傾向にあります。こうした事態に、従来の人道支援システムは十分対応しきれておらず予算不足も深刻な状況にあります。」と語った。

ゴットシャルク氏は、「一部のドナー国は人道支援に対する資金拠出に寛大であり、私たちはこの不可欠な支援を高く評価していますが、一方で現在の財政規模では高まり続ける人道支援のニーズに十分追いついていないのが現実です。」と指摘したうえで、「国連と現在の人道支援システムは、現地で人道支援活動に携わるリーダーや人々のキャパシティビルディング、さらにはコミュニティーによる減災活動を支援するプロジェクトに資金拠出をすることにより、より効率的で現地のニーズに的確に対応できる体制へと改善する必要があります。」語った。

一方、国連は、今回新たに立ち上げたオンラインキャンペーン「ヒューマニティ:あなたを動かすチカラ(#ShareHumanity)を通じて、来年5月にトルコのイスタンブールで開催を予定している史上初の「世界人道サミット」の開催に向けて国際社会の機運を高めていきたいと考えている。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、8月19日に始まった今年の「世界人道デー」キャンペーンは、援助コミュニティーが、自然災害、紛争、病気に冒された数百万人の人々を救済する能力をはるかに上回る人道支援ニーズが存在する今日の世界の現実を反映したものである。

ゴットシャルク氏はIPSの取材に対して、「世界人道デーは、世界各地で、想像を超える困難な環境にある人々の命を救うために日々献身的に取り組んでいる勇気ある男女に敬意を払う重要な機会です。」「危機的な状況が発生した際、しばしば真っ先に行動を起こすのが現地の人道支援活動家です。しかしこうした男女の貢献が国際社会に認められることは稀ですし、最も深刻な点は、彼らがリーダーシップを発揮して危機に対処できるような支援がなされていない現実です。」と語った。

オックスファムは、人道支援活動に対する資金財源をより安定的かつ堅固なものとするために、国連加盟国に対して人道的対応のための拠出金を義務付けるよう強く働きかけている。

「より多くの人道支援資金が実際の活動が行われている現場に直接流れるようにすべきです。また、ドナーが支援活動のインパクトを追跡評価でき、対象のコミュニティーが援助の流れを把握し地域のリーダーに説明責任を要求できるよう、資金支援の中身について透明性を高めていくべきです。」とゴットシャルク氏は指摘した。

Noah Gottschalk/ Oxfam International

ゴットシャルク氏はまた、「今日世界では、数百万人もの人々が人道支援システムに依存しており、その存続は、人道支援へのニーズの高まりに反して活動資金が減少する厳しい状況のなかで慈愛の精神からこのシステムをなんとか機能させようと献身的に奮闘している人々によって支えられています。」「改革が実現すれば、人道支援システムをより効率化し、こうした人道支援要員が厳しい状況におかれている人々の命を救い、その苦しみを和らげる活動をより後押しすることができるでしょう。」と語った。

ジュネーブに本部を置く世界保健機構(WHO)によると、現在進行している軍事紛争によって多くの医療従事者が命を落としてという。

WHOは、2014年だけでも、32か国において372件の医療従事者を狙った襲撃事件が勃発し603人が死亡、958人が負傷しており、今年になっても同様の事件が報告されている、と発表している。

「WHOは危機に際して人々の生命を救い苦しみを和らげる活動に従事しています。医療従事者や医療施設に対する攻撃は言語道断の国際人権法違反です。」とマーガレット・チャンWHO事務局長は「世界人道デー」を記念して発表した声明の中で語った。

チャン事務局長はまた、「医療従事者はあらゆる患者や負傷者を分け隔てなく治療する義務があります。すべての紛争当事者はこうした医療従事者の義務を尊重しなければなりません。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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