INPS Japan/ IPS UN Bureau Report米国が核テロ防止条約100か国目の加盟国に

米国が核テロ防止条約100か国目の加盟国に

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1997年公開の映画「ピースメーカー」(一部が国連本部の外で撮影された)は、ロシアの片田舎で発生した列車事故で行方不明になったリュックサックに入る大きさの小型核弾頭を入手した旧ユーゴスラビア出身のテロリストが、それを国連本部の外で爆発させるべくニューヨークに持ち込むというストーリーを描いた作品である。

これはハリウッドお得意の作り話だろうか? それとも現実に起こり得る大惨事とみるべきだろうか?

Photo: Wide view of the General Assembly Hall. UN Photo/Manuel Elias
Photo: Wide view of the General Assembly Hall. UN Photo/Manuel Elias

テロ集団が盗んだ核兵器で武装するという万一の事態を想定して、「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロリズム防止条約)」が2005年4月に国連総会で採択され、2007年7月に発効した。

現在、核保有国である中国、フランス、インド、ロシア、英国を含む99か国がこの条約に批准している。

9月30日、米国が国連条約局に批准書を寄託し、100か国目の締約国となった。

「主要な核兵器保有国による核兵器の使用を制限するいかなる条約や協約の批准と同様、これは朗報です。」と語るのは、ジャヤンタ・ダナパラ元国連事務次長(軍縮問題担当)である。

「この条約を2005年に提案したのがロシアであり、現在、署名国が115か国、締約国が99か国あることを念頭に置いておくといいでしょう。」と、ダナパラ氏は語った。

「核テロは、とりわけ9・11同時多発テロ事件以降怖れられており、アルカイダや、イラクとレバントのイスラム国(ISIL)も、原始的なレベルとはいえ核兵器を製造できる核物質を取得しようとしていることは広く知られています。」と、2007年以来「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」の議長も務めるダナパラ氏は語った。

「とはいえ、核実験の禁止を規範化し核開発を抑える重要な歯止めとなる包括的核実験禁止条約(CTBT)が依然未発効で、米国を含む7か国の批准待ち状態である現実を踏まえれば、今回の米国の動きをあまり過大評価してはなりません。」と付け加えた。

「1万5850発の核兵器(そのうち93%は米国とロシアによる)を9か国の核兵器国が保有している限り、政治的意図或いは事故によるものであれ、また、国民国家或いは非国家主体によるものであれ、戦争で核兵器が使用され、恐ろしい人道的な被害と生態系や遺伝子への取り返しのつかない被害がもたらされる可能性は、恐るべき現実として存在しています。」と『原子科学者紀要』編集の理事で、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の運営委員も務めるダナパラ氏は語った。

核テロ防止条約は、テロリストらが大量破壊兵器を入手することを防ぐ世界的な取組みの一環とされている。

また同条約は、放射性物質あるいは放射性装置の違法かつ意図的な所有・使用や、核施設の使用あるいは損壊に関する罪を規定している。

さらに同条約は、情報共有と、捜査や犯罪人引き渡しの支援を提供することで、国家間の協力を促進するために策定されたものである。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

物理学者で、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共国際問題学部「核未来研究所&科学・安全保障プログラム」の講師でもあるM・V・ラマナ博士はIPSの取材に対して、「私は会話を違う方向に持っていき、『核テロとは何か』を問うてみたいと思います。」と語った。

「ウェブスター辞書は、『テロリズムとは、とりわけ強制の手段として、恐怖を体系的に使うこと』と定義しています。核兵器は大量の死と破壊をもたらしうる。この可能性に直面した人間は誰でも恐怖に陥ることでしょう。」とラマナ博士は語った。

「米国の大統領や政府高官から『いかなるオプションもテーブルの上にある』、つまり、当然そこには核兵器の使用も含むと示唆された中東の人々がどんな気持ちがするか考えてみるとよいでしょう。」

「テロリズムについての、公平かつ公正な定義の下では、他人を恐怖に陥れるために核兵器を使用した者は、誰でもテロリストということになります。これには、核兵器を『単なる抑止のため』に使った者も含まれることになります。」とラマラ博士は主張した。

「まことしやかに恐怖を醸し出す能力こそが究極的に抑止戦略の中核にあることと、抑止がもたらすとされる安全とは、かつて、ウィンストン・チャーチルが語った『恐怖が生み出すしたたかな産物』に他ならないということを、忘れてはなりません。」

Winston Churchill/ Wikimedia Commons

「平和を求める人々にとっての難題は、『非国家主体』による核テロリズムの問題から、核兵器による死と破壊の脅しに政策の基礎を置いている核兵器保有国と、そうした国々の軍縮を進める緊急性へと、着目点を切り替えることにあると思います。」とラマナ博士は語った。同氏には、『約束された力:インドの核エネルギーを検証する』など、複数の著書がある。

ローズ・ゴットモーラー米国務次官(軍備管理・国際安全保障)は先週、「核テロに関して言えば、今日の世界は5年前よりも安全だと言えますが、まだなすべきことはあります。」と指摘したうえで、「米国は、世界のパートナーと協力して、危険な核物質の計量管理と保全をこれからも世界的に進めていきます。」「核物質を手に入れようとするかもしれないテロリスト集団の試みを阻止するには、警戒を絶やすことはできません。」と語った。

ゴットモーラー次官によれば、米国は国際原子力機関(IAEA)核保安基金の最大の貢献国であり、2010年以来、7000万ドルを拠出している。

この基金は、(IAEA)加盟国に専門家や任務遂行チーム、技術派遣団を無償で訪問したり、核保安指針や実践集、事故・密輸データベースを作成したりするのに役立っている。

国務省の核密輸防止プログラム(CNSP)は、世界のパートナーと協力して、核密輸ネットワークの捜査、違法な移転核物質の確保、関与した犯罪人の訴追を行っている。

Rose Gottemoeller/ US gov
Rose Gottemoeller/ US gov

グルジアモルドバのような国々は、高濃縮ウランを密輸しようとした犯罪人を最近逮捕したことで賞賛されています。この地域では大きな進展がありました。究極的には、兵器に利用可能な核物質が押収され続けているという事実は、核物質が依然として闇市場で取引されていることを示しています。」とゴットモーラー次官は語った。

国連によれば、核テロリズム防止条約の主要な条項には、例えば、「核テロ行為の計画、威嚇、実行をこの条約上の犯罪とする」、「締約国はそうした(条約上の)犯罪行為を自国の国内法上の犯罪とする」、「そうした犯罪行為の重大性を考慮した適当な刑罰を科することができるようにする」、「そうした犯罪行為に対する締約国の司法管轄権を確立場合の諸条件」、「犯罪人引き渡しやその他の刑罰措置に関する指針」などがある。

さらに、「放射性物質の防護を確保するための適当な措置を講ずるためにあらゆる努力を払うよう締約国に義務付ける」規定や、「武力紛争における、或いは公務の遂行にあたって行う軍隊の活動はこの条約によって規律されない」規定、「この条約が、いかなる意味においても締約国による『核兵器の使用又はその威嚇の合法性の問題』を取り扱うものではなく、また、取り扱うものと解してはならない」との規定がある。(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

核廃絶のエネルギーを削ぐ「核の恐怖」の脅威(ケビン・クレメンツ、オタゴ大学平和紛争研究センター教授)

広島・長崎両市長、核兵器なき世界の実現を訴える

日本・カザフ両政府が核実験禁止条約発効促進へ

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」国際会議

パートナー

client-image
client-image
IDN Logo
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
Kazinform

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken