ニュース米国のイラン核合意離脱に困惑する関係諸国

米国のイラン核合意離脱に困惑する関係諸国

【イスタンブールIDN=バーンハード・シェル】

イランは、正式には「包括的共同行動計画」(JCPOA)として知られる核合意に伴うウラン濃縮について、今後は制限を順守しないと発表したことで、バッシングを受ける事態となっている。この宣言によって、イランの行動・意図や核合意の将来に対する疑念が出てきた。

「これらの問題を最もよく理解するには、イランが核活動を平和目的に限ると約束したJCPOAの構造を見る必要があります。」と指摘するのは、「核脅威イニシアチブ」(NTI)のアーネスト・J・モニツ共同議長兼CEOである。

モニツ氏は「Q&A」の中で「第一に、イランの核活動には、一部には時限的な、一部には恒久的な制限が課されています。第二に、これがより重要な点だが、イランは他に類のない権限を認められた国際査察官が監視する独自の包括的な検証体制の下に置かれています。」と解説している。

NTI Co-Chair and CEO Ernest J. Moniz./Photo by Katshiro Asagiri

モニツ氏は、イランの今回の発表がカセム・ソレイマニ司令官殺害への反応だとする一般的な見方を否定した。「タイミングはソレイマニ司令官の殺害と偶然に一致したものです。米国がJCPOAから一方的に離脱してからちょうど一年経過した2019年5月には、ハサン・ロウハニ大統領が、イランは一部の約束からの逸脱措置を開始し、その他のJCPOA参加国が制裁解除を実行しない限り、60日毎に追加の核合意逸脱措置を実行していくと発表しました。」

モニツ氏はさらに、「イランは、欧州3カ国(フランス・ドイツ・英国)と欧州連合がその後とった一連の措置は『不十分』だと考えています。イランの『5回目かつ最終』の発表は予想通り1月5日になされました。」と語った。

国際社会に対して、「イラン核問題に対処するための外交努力を再活性化すべき。」と訴えているモニツ氏は、「英国・フランス・ドイツが『紛争解決メカニズム』を発動させたことは、この目的にかなうものとなるかもしれない。しかし、これは危険な賭けだ。」と語った。

他のイラン専門家も同様の見方だ。「イラン核合意の紛争解決メカニズムを発動したことで、英国・フランス・ドイツはイランを交渉のテーブルに引き戻そうとしている。しかし、かえって事態を悪化させる可能性もある。」と、コラムニストでイラン・中東問題に関する外交政策アナリストのサヘブ・サデギ氏がフォーリン・ポリシー誌への寄稿文の中で述べている。

モニツ氏は、「米国は、少なくとも、欧州の同盟国やロシア・中国と協力して、イランがこれ以上核活動を拡大しないよう圧力をかけていく必要があるだろう。JCPOAが今後どうなるかは別として、合意の中核的な要素(①相当な長期にわたってイランの核燃料サイクルに明確な制約を課していること、②最高レベルの国際的監視・検証体制をこれに組み合わせていること)は、将来の取決の重要な基盤であり続けなければなりません。」と語った。

EUのジョセップ・ボレル外相は、別の重要な側面を強調して、「欧州は、もしこの合意を延命させようとするのならば、イランがそこから利益を引き出せるようにしなくてはなりません。」と語った。さらには、2月8日発行の『プロジェクト・シンジケート』紙に寄せた記事の中で「もしイラン核合意を存続させたいのならば、イランが合意の完全順守に復帰すれば同国の利益になるようにしなくてはなりません。」と述べている。

スペイン社会労働党出身のボレル氏は1月、フランス・英国・ドイツの3カ国から、紛争解決メカニズムを発動させたとの通告を受けた。ボレル氏は、「EUは核合意に関する紛争解決までの時限を無期限に延期し、国連安保理にこの問題を付託したり新たな制裁を発動したりすることを回避する。」と語った。

「問題の複雑さゆえに、もっと多くの時間が必要だという合意がある。したがって、期限は延長した。」とボレル氏は1月24日の声明で述べている。

ロウハニ大統領は2月3日のボレル氏との会談で、米国が核合意から離脱し対イラン制裁を再開した際、EUが合意を尊重しなかったことを批判した。ロウハニ大統領は一方で、「イラン・イスラム共和国は、今でも問題解決に向けて欧州連合と協力をする用意があり、EUが約束を完全順守するならば、イランは合意に復帰するであろう。」とも述べている。

2019年5月、イランは、米国の合意離脱と、欧州連合がイラン経済を制裁から守るための行動をとらなかったことへの対応として、2か月毎に核合意からの段階的な逸脱措置を開始した。

アンナ・ザウアーブリー氏は2月10日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙への意見記事のなかで、ドイツ・フランス・英国が2019年1月に設置した「貿易取引支援機関」(INSTEX)は「米国からの戦略的自立を目指す欧州の必死の努力が不毛であることを示す最たる例の1つだ。」と述べている。

ドナルド・トランプ大統領が2018年5月にJCPOAから離脱して以来、「欧州諸国は適切に対応すべく苦慮を重ねてきた。」しかし、結局その努力は無駄であった。なぜなら、米国が発動した二次制裁がもたらした多大な影響力は、米国市場とドルの力、さらには「金融取引システムを法的・実質的に支配できる米国の能力」に裏打ちされたものだったからである。

ザウアーブリー氏は、中東問題を専門とする政治・経済コンサルタント会社「オリエント・マターズ」(ベルリン)の経営者で外交政策専門家のデイビッド・ジャリルバンド氏の言葉を引用して、「あるレベルでは、ほとんどすべての企業が米国と何らかのつながりがある。」と語った。

Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.
Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.

ある企業が米国市場で活動していないとしても、もし取引先の銀行や保険会社、あるいはその保険会社を支えている再保険会社は米国で活動していることだろう。「結果として、米国で活動していない企業であっても、影響を受けることになる。」

ザウアーブリー氏はまた、「つまり、国際関係において『戦略的自立』を得たい欧州にとってカギを握るのは、独立した金融取引を行う能力を得ることです。」と語った。

イランは声明の中で、「核合意の範疇に留まる」とする一方で、核合意での約束から「部分的に」逸脱する措置をとっていることを明らかにした。イランは、そうした措置を元に戻すこともできる、としている。イランは、核活動を通じて得た経験を「元に戻す」ことはできないにしても、関連機器を撤去・解体したり、核物質を移出或いは希釈したりすることは可能だ。

前出のモニツ氏は、「イランはこれまでのところ、核合意に伴う主な要素は順守しています。すなわち、核兵器開発に必要な特定の非核活動に関するものも含めて、厳格な検証・監視措置に従っています。もしイランが核合意の『破棄』あるいは核兵器製造に走ることがあるとすれば、検証体制によってその初期の兆候を捉えることが可能です。」と語った。

イランで日々活動に従事している国際原子力機関(IAEA)の査察官からの報告によれば、イランは濃縮レベルを高めてはいるが極めて限定的である。ただ、より高性能の遠心分離機で作業を拡張している。とはいうものの、IAEAが引き続きイラン国内に留まっていることから、イランが既知のあらゆる核関連施設と物質を動員することになる核開発までの「最悪のケース」は、この国連の核監視機関に発見されることなくして起こり得ないとみられている。

モニツ氏は、「核兵器の製造に利用可能なプルトニウムに関して、イランはプルトニウムの分離を禁止した核合意の制限を順守しているほか、中国・英国と協力して、兵器用プルトニウムを製造できないようにするために新型研究炉の設計を変更しています。」と断言した。

モニツ氏はまた、「イランが核合意以前に建設していた原子炉には、年間1発ないし2発の核爆弾を製造できるプルトニウムを生産する能力がありましたが、JCPOAの発効によりその後原子炉の一部は解体されています。」と強調した。(原文へ

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