【国連IPS=タリフ・ディーン】
太平洋上の小さな国家マーシャル諸島が、ハーグの国際司法裁判所(ICJ)で世界の核大国に挑戦しようとしている。同国は、経済的な生存のために米国に大きく依存し、通貨として米ドルを使用し、あらゆる政治的に議論のある問題に関して国連で米国とほぼ同じ投票行動をとる国である。
4月24日に提起された訴訟は、小さなダビデと屈強ゴリアテとの間の戦いに喩えられている。人口わずか6万8000人余の国が、[合計]人口35億人以上を擁する世界9つの核兵器国に抵抗しようとしているのだ。
「『核政策法律家委員会』と国際反核法律家協会(IALANA)国連事務局の代表を務めるジョン・バローズ氏は、マーシャル諸島政府およびその法律支援チームは、他の諸国に対して、声明を出したり、資格があるのであれば同様の提訴を行ったり、マーシャル諸島の起こした訴訟に参加したりすることによって、訴訟の支援するよう強く働きかけています。」とIPSの取材に対して語った。
法律支援チームの一員であるバローズ氏は、ICJが1996年の勧告的意見において、厳格かつ効果的な国際管理の下で、あらゆる側面における核軍縮に関する交渉を誠実に追求し妥結させる義務が存在すると全会一致で判断した点を指摘した。
このICJ勧告的意見からおよそ18年後に提起された今回のマーシャル諸島の訴訟は、「核軍縮と核軍拡競争の停止を早期に行うとする国際法上の義務に従っているとする核保有9か国の主張の正当性を判断することになるだろう。」とバローズ氏は言う。
9つの核兵器国とは、国連安保理の常任理事国である米国、英国、フランス、中国、ロシアに加え、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮である。
バローズ氏によれば、マーシャル諸島と同じく、英国、インド、パキスタンの3か国がICJの管轄権受諾宣言を出しているという。
マーシャル諸島は、他の6か国に対しては、この特定の訴訟に関して管轄権を受諾するよう求めているという。
「これは通常の手続きだが、6か国は管轄権をおそらく受諾しないだろう。」とバローズ氏は語った。
1946年から58年にかけて米国は67回の核実験を行い、マーシャル諸島の人々に対して今日に続く健康や環境上の問題を引き起こした。
マーシャル諸島のトニー・デブルム外相は、「わが国民は、核兵器(実験)から壊滅的で回復不可能な被害を受けてきました。地球上の誰も二度と我々のような悲惨な経験をすることがないよう、闘っていくことを誓います。」と語ったとされる。
またデブルム外相は、「核兵器が存在し続け、それが世界に及ぼしている恐ろしいリスクは、私たち全てにとっての脅威に他ならないのです。」と付け加えた。
訴訟ではまた、公式核兵器国(NPTで核兵器保有の資格を国際的に認められた国)は、NPT上の法的義務に一貫して違反している、と主張している。
NPT第6条は、できるだけ早期に核軍拡競争を終わらせ核軍縮を行うための交渉を誠実に追求するよう加盟国に義務づけている。
インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮はNPTに加盟していない。
しかし、訴訟では、9つの核兵器国がすべて、慣習国際法に違反していると訴えている。
核保有国は、核を解体するどころか、核戦力近代化のために今後10年間で1兆ドルを費やそうとしていると非難されている。
今回の訴訟を強力に支援している「核時代平和財団」のデイビッド・クリーガー会長は、「マーシャル諸島は、『もうたくさんだ』と言っているのです。」「同国は全人類のために大胆かつ勇気ある行動を起こしたのであり、当財団は彼らの側に立つことを心から誇りに思っています。」と語った。
南アフリカ共和国のデズモンド・ツツ大司教は、4月24日に発表した声明の中で、「核保有国が重要な公約を果たさず法を尊重しないために、世界はより危険な場所になっています。」と指摘したうえで、「これらの国々の指導者らがなぜ公約を破り、なぜ自国の国民や世界の人びとを恐るべき破壊のリスクに晒しているのかを、私たちは問わねばなりません。これは、現代における最も根本的な道徳、法律上の問題のひとつなのです。」と語った。
バローズ氏はIPSの取材に対して、「米国政府は国際的な法の支配と究極的な核廃絶にコミットしていると主張しています。もしそうならば、米国は訴訟を受けて立ち、軍縮義務遵守の状況に関する大きな意見の違いをICJが埋める機会を拡大すべきです。」と語った。
ICJの強制的管轄権を受諾していない他の5か国も、[マーシャル諸島から]現在同じような要求を受けている。
バローズ氏はまた、「英国に対する訴訟について鍵を握る問題は、世界的な核発絶に関する多国間協議を開始しようとの国連総会の取り組みに反対することで、英国が核軍縮義務に違反したかどうかというところにあります。」と語った。
インドとパキスタンについては、両国がNPT加盟国ではないことから、核軍縮義務が慣習的な性質のものであって、すべての国を拘束すると言えるかどうかが論点になるという。
バローズ氏は、「インド・パキスタン両国が核兵器を製造し核戦力を向上・多様化していることが、核軍拡競争停止の義務と、根本的な法律上の信義誠実原則に違背しているかどうかが問われることになります。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
関連記事: