【ニューヨークIDN/UN News】
「現在世界的大流行(パンデミック)を引き起こしている新型コロナウィルス(COVID-19)に誰もが罹患しかねないという現実は、私たち人類が共通に抱えているリスクにほかなりません。」と、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、COVID-19の被害を抑えるうえで宗教界が果たせる役割について協議するオンライン会議で、宗教指導者らに語った。
5月12日に開催された会議で、グテーレス事務総長は、「私たちには、パンデミックに対する対応の基礎として、あらゆる人々の人権と人間の尊厳に配慮した連帯を促進していく責務があります。…そうした活動は、皆さんのコミュニティー内外において宗教指導者が果たす重要な役割を浮き彫りにします。」と語った。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の指導者らが参加した会議で、グテーレス事務総長は後天性免疫不全症候群、エボラ出血熱等これまでに発生した公衆衛生危機を例に挙げ、その際、宗教指導者らによる精神的なリーダーシップがいかにコミュニティーの価値観や態度、行動にポジティブな影響をもたらしたかについて言及した。
グテーレス事務総長は、「皆さんが持つ影響力には、宗教の違いを乗り越えて共通の価値観を行動につなげ、協力し合う責任が伴います。」と強調し、宗教指導者らがパンデミックを逆転させ復興を支援するうえで重要な以下の4つの方策を訴えた。
まず1点目として、外国人敵視、人種差別、そして「あらゆる形態の不寛容」を拒否するとともに、「不正確で有害なメッセージに対して積極的に異議を申し立てる」よう、宗教指導者らに呼びかけた。
次に2点目として、ウイルス流行のこの時期に女性や少女への暴力が増加していることを「断固として非難する」ことが重要であり、女性とのパートナーシップ、平等、尊敬、思いやりといった共通の原則を支持する」よう、事務総長は訴えた。そして、「パートナーシップとは、どの領域でも女性の声が平等に届き、人々を代表するようにすることにほかなりません。」と語った。
3点目として、宗教指導者は各々のネットワークを通じて、ソーシャルディスタンス(社会的距離)など諸政府による公衆衛生政策を支持するとともに、礼拝や葬儀などの宗教的活動においても、世界保健機関(WHO)が定める対策の遵守を後押しするよう要請した。
最後に4点目として、パンデミックにより世界中の学生が学校に通えなくなっていることを振り返り、宗教指導者らに、教育が中断しないように「教育の継続を後押しするよう」呼びかけた。
絶望に希望をもたらす
ティジャニ・ムハンマド=バンデ国連総会議長は、「宗教は不安な時期に『絶望に希望』をもたらし、人々の癒しやコミュニティーのレジリエンス(抵抗力)の重要な源泉になり得ます。」と述べ、宗教が果たすユニークな役割を強調した。
バンデ議長は、「この『未曽有の脅威』に直面している期間を通じて、宗教指導者や信仰を基盤とした団体(FBO)には、人命を救い感染症の拡大を緩和するうえで、一層重要な役割があります。」「私たちは宗教指導者やFBOを仰いで信頼できる情報を共有したり、噂や暴力、憎しみを煽る扇動に立ち向かったり、弱い立場にある人々のニーズのために行動することができるのです。」と強調した。
道徳的権威を駆使して
バンデ議長は、貧困や、社会の片隅に追いやられた人々の苦難が増し、子どもたちの教育が寸断され、COVID-19による死者が絶えない現状について、「残念ながら、このパンデミックについては、未だに出口が見えていません。」と警告した。
バンデ議長は、「つまり、これからやらねばならないことが山積しています。」と指摘したうえで、「勇気とビジョンを備えたFBOや宗教指導者ら」に対して、道徳的権威を駆使して、引き続き女性のエンパワーメントを擁護し、教育、医療施設へのアクセスを確保するよう要請した。
バンデ議長は、COVID-19対策の規制により教会、シナゴーグ、モスクが世界中で閉鎖されるなか、多くの宗教指導者らがオンライン礼拝に切り替え、いち早く変化に適応した点に言及した。また、彼らが感染症の予防策に対する理解を普及させるために、効果的なパートナーとして若者たちとともに、ソーシャルメディア上でメッセージを作成している取り組みを称賛した。
最前線に立つ宗教指導者たち
国連「文明の同盟」(UNAOC)の上級代表を務めるミゲル・モラティノス氏は、世界的な連帯を訴えたグテーレス事務総長の呼びかけについて言及し、COVID-19に関連して各地に広まる社会的スティグマやヘイトスピーチの問題のみならず、脆弱な人々や社会から取り残されたコミュニティーにも思い起こす必要があると強調した。
「人々が従来の生活から切り離され追い込められるという、人生を変えてしまうような危機において、信仰はしばしば安らぎと希望を見出すための心の拠り所となってきました。これこそ宗教指導者らの役割が求められる時なのです。」と、モラティノス氏は語った。
モラティノス氏は、「多くの宗教指導者やFBOが迅速に行動を起こし、コミュニティーに様々な有益なサービスを提供する最前線に身を置いているのを見て心強く思いました。」と述べ、信仰者らが、自らのコミュニティーに深く根差し、危機に際してしばしば最初に対応する人々となっている点について説明した。
モラティノス氏はまた、今日世界が都市封鎖措置(ロックダウン)の下でキリスト教の復活祭、ユダヤ教の過ぎ越し祭、イスラム教のラマダンを迎えているなかで、各国政府と医療機関が宗教指導者らと密接に連携していることに謝意を述べた。
閉会に当たってモラティノス氏は、5月末に「宗教指導者と信仰者らがCOVID19に対処できる分野や具体的な結果志向のイニシアチブを特定する会議を開催します。」と発表した。
カトリック教会のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット枢機卿(教皇庁諸宗教対話評議会議長)は、「パンデミックは私たちが友情と友愛の懸け橋を築く推進力となりました。この難題に立ち向かっていくために、引き続き協力し合っていきましょう。」と語った。
パークイーストシナゴーグ(ニューヨーク)のラビでUNAOC大使のアーサー・シュナイアー師は、パンデミックの先を見据えて、「あらゆる危機や紛争には必ず終わりがあります。」と語った。
かつて第二次世界大戦時のホロコーストを生き延びたシュナイアー師は、「国連は、人類の破壊と荒廃、人命の喪失、再建、復興の歴史を象徴する典型例として、また『究極の再生』ともいえる共同行動の結果として、75年前に創設されました。」と語った。
「私たちは、信仰と祈りと行動により、子どもたちのための明るい未来、平和で愛情と親切心に溢れた世界を築くことができます。」とシュナイアー師は強調した。
またこのオンライン会議では、イスラム教を代表して、アフメッド・アバディ・モロッコ・ウラマー協会事務総長が発言した。
オンライン会議を主催したオマル・ヒラール国連大使(モロッコ)は、「COVID-19の猛威がもたらした世界規模の影響に国際社会が対処していくには、これまで以上に、結束した責任あるメッセージが必要とされています。」と語った。
ヒラール大使はまた、「とりわけ困難な時期にあっては、人類の兄弟愛を守り、より包摂的で結束力があり、安全かつ強靭で、より調和した社会を構築するためには、宗教指導者らが果たすべき役割は大きい。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
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